018/相談


「…………はぁ。」


一人頭三時間、合計で六時間。

此方の世界で言うなら三刻程の休息を挟む交代制の見張りの最中。

既に仮眠を取った後で、少しばかり浮かび上がる眠気を噛み殺す。


「…………疲れて、ます、か?」

「まあ……精神的にかなぁ。」


肉体的な負荷は覚悟してる分だいぶマシ。

だから実際には精神的な……伽月との話が結構な負担になっていたらしい。

同じく見張り番のリーフと、そんな雑談を交わしていく。


「疲労……だけ、は。 抜けません……もん、ね。」

「外でちゃんと休まないとねえ……。 休息でもきっちり休む手段は無くもないんだけど。」


肉体的な睡眠時間を実際の倍~三倍相当に押し上げる希少物とか。

或いは能力として取るかは別として、『花』や『風』にも似た効果があったはず。

アレ取ると活動時間は伸びるけど……全員取らなきゃいけないからそういうコンセプト必須なんだよなぁ。


「……用意、は?」

「しない。 道具で補えなくもないし、常時それで動きたくない。」


ですよね、と小さく笑い。

目の前にカードを取り出し、小さく呟く。


「……それと、朔くん。 少し、相談に……乗って貰えます、か?」

「良いけど……警戒のほうが優先だから雑になるのは勘弁してよ?」


まあ基本、リーフが起きてれば妖は此方に近付けないとは思うが。

根本的に火――――というよりは『光』を嫌う何かが妖だし。

超濃密な霊力が周囲を漂ってるから迂闊に近寄れないし。

そしてその影響で、俺の眼も変に活性化してるし。


「……能力に、関してなんです……けど。」


そう言って、差し出すカードを横目で眺める。


『リーフ=クライエント/深度8』

『力』 『霊』 『体』 『速』 『渉』 『呪』

 3   7   7   8   1    15


『未取得/1点』

【無】 :『V・S・タロット』 :1/1

/自身をカードに映し出す簡易呪法。

【無】 :『運命神の導き』   :5/5

/任意の事象を占う天性の才。

【無】 :『夢幻の泉』     :1/1

/霊力を何処かから供給され続ける才能。

【無】 :『徒人の薬学』    :1/3

/初歩の初歩である薬を生成出来る。

【花】 :『霊力防護』     :5/5

/自身が受ける損傷を霊力で軽減する。

 ┗  :『霊力防壁』     :1/5

/部隊が受ける損傷を霊力の壁で軽減する。

【風】 :『詠唱短縮』     :5/5

/威力を減少させ、呪法の詠唱時間を短縮する。

【風】 :『追加詠唱』     :5/5

/詠唱時間を延長させ、呪法の威力を増す。

『風』 :『呪法:火球』    :1/5

/火の球を相手に投げつける。【魔】【火】

【風】 :『太陽神の裁き』   :3/5

/陽光を以て敵を討つ。【魔】【木・風】【敵全体】


なんというか、分かりやすく特化しているというか。

祖母から教わっている、という前提はある。

だから派生能力の条件……薬学の特異スキルへの道が見えているとか言ってたな。


それで……漸く短縮/延長の能力カンストか。

その派生まで手を伸ばせば詠唱するタイミングは自由自在に近付く。

だから早めに取ってもらうか悩むけれど。


「この余ってる能力分、ってことか?」

「……はい。」


んんん……。

特にリーフの場合、深度制限以外を考えなくて良いのは大きいんだよな。

『壁』が実質的にないようなもんだし。


「家で……聞こうと思った……んです、けど。」

「あぁ、バタバタしてたもんな……。」


言い出しにくかった、というのは反省する。

そういう時間をちゃんと作ったつもりだったが、彼女に取っては足りなかったか。

そうだなぁ。


「提示できるのはまあ二通り。 もうちょっと強さを優先するか、薬学を伸ばすか。」


指を二本立てる。

データ上だったら此方の好きに決められたけど、生きている人間なんだ。

最後は己の意思で決めて欲しい。


「一つは今回で最大まで上げた詠唱系の派生、『詠唱操作』を取るって選択肢。」


これは『詠唱破棄』や『重複詠唱』と並ぶ3つ目の派生。

、というだけの能力。


「三通り、超短文/普通/長文で決めておいてそれを『短縮』や『追加』すれば便利。

 まあその為には能力深度3まで必要なんだけど。」


それだけで一つの呪法に対して9通りが生まれる。

今まで使用していたモノより『簡易に扱う手段』を手に入れる能力。


もう一つあるデメリットとしては、何方かに偏ることでの倍率増加が見込めないこと。

破棄もカンストまで上げれば実質デメリット無しで無詠唱連打出来る小技もあるし。


「もう一つはまあ言うまでもないよね。」


『魔女の薬学』を開放できれば、DoTの手段が手に入る。

対ボス、対強敵に便利な道具を全員が持つことが出来るという意味で超有用。


「まあどっちを選んでも問題ないと思うし、好きでいいよ?」

「ぁ…………はい。」


ちょっとした相談、と言ったのにガッツリ説明してしまった。

どうにも彼女には踏み込んでしまう……というか面倒を見たくなるんだよな。

良く分からないけど。


「……ちょっと、考えて、みます。」

「うん。」

「……お茶、どうします?」

「貰おうかなー。」


疲労抜きでなく、いつもの……家庭の味と言った方の。

霊力を底上げする効果のある薬湯を差し出され。

起きるまで、幽世の中で。

奇妙な程に、のんびりとしていた。

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