017/敵味方
※予約ミスってこの話だけ公開になっていたので016.017を公開しました。
明日の投稿分は018からです。
「……と、言いますと?」
気付けば薬湯も冷め始めていたので、一気に飲み干す。
緑臭さと共に湧き上がる”活力”。
緑茶に比べて少しだけ高いそれは、幽世での休息でこそ飲まれる薬。
霊能力として表示されない『活力』……疲労を拭い去る効果を持つ。
ルイスさんが細々と受け継いだものとはまた違い、日ノ本全体で飲まれているモノで。
ふぅ、と息を落ち着かせるに足る飲み物だった。
「あぁ……何と言えばいいか。 絶対に気分悪くなると思うし、予想に過ぎん。
何が理由で、とか聞かれても答えられないからな。」
どの部分を説明しようか切り分けようと始めた会話ではあったが。
予想外に情報が漏れ、そして胃の奥が凭れてくる。
流石にそれらを全て口にするのは誰のためにもならないから伏せるけど。
改めて前置きを用意したくなってしまった。
こくり、と頷く彼女に話をすべく口を開く。
唯聞いているだけ……というよりは自分なりに噛み砕く二人は口を出さない。
それが良いのか悪いのかは、別として。
「多分、お姉さんだけは正しいことを所々で教えてる。
自分で責任が取れないから最初の最初だけは手を出した、ってのはまあ分かる範囲だ。」
実際、こうした連戦に関する知識はある程度経験を積んだ上で身に付くこと。
伽月の話を聞く限り、幽世に向かう際の同行者は大体が父と……という話だったし。
そういった内部での異常に遭遇し、『姉が間違ってる』と言われればそのまま頷くだろう。
そうすれば自然と関係性も離れていく。
ただ、その場合は一つ確実に問題になる事実が生まれる。
「兄弟子に関しては分からん。 もしかすれば自分で思いこんでた可能性もある。
ただ……父親に関しては悪意を以て黙っていたって考えるほうが自然……だよなぁ。」
まあ、そうしたくなる理由も分かる。
彼女の体質なのか才能なのか、色々と特殊なことが発生する存在。
自分だけが独占すれば、希少品を手に入れる可能性が異様に高まるのだ。
周囲に対して嘘を付き、彼女が自分から自分で外に出ないように仕向ける。
或いは出たとしても野たれ死ぬようにしていた、と考えれば幾つかの疑問に答えが結び付く。
(……ただ、それを自分の娘にやるやつがいるのか? 普通。)
クズだな、と言いそうになって押し黙る。
伽月は――――眼が、あの戦闘中のように。
少し淀み、暗い瞳を映し出そうとしていて。
慌てて話をそのまま進める。
「だから、幽世の中での行動は一応初めから教えていく。
それに日常でのことも……多分普通に分かることはあるとは思うが、一から全部教える。
俺が入れないところでの細々としたことは白かリーフに頼む。 これでいいな?」
風呂とか細々としたところは俺が入るわけにも行かないし。
確かトイレに行った時もリーフに質問が飛んで戸惑ったとか言ってたもんな。
「…………はい。」
それ以上濃くも薄くもならず。
その場でじっと、押し黙りながら焚き火の火花を眺めている。
それだけでも恐ろしく感じるのは――――何でだろうなぁ。
「良し、じゃあ先ずこの薬湯に関してから行くか。」
少しばかり、自分でも無理をして話す。
こういう時に無理をするくらいならまあ問題はない。
「基本的に幽世の中で休息するなら必ず一杯は飲んどけ。」
「……必ず、ですか?」
「そう、必ず。 味が合わないなら個人で変えればいいが絶対。」
そのまま仮眠を取ったとしても疲労が完全に抜け切らない、というのは内部の一つの特徴。
ゲーム的に言うなら周囲の瘴気と霊力が眠りながらに相殺し続けているから、の筈。
外……集落なら問題がないのは例え微かであっても霊力のほうが量が多いから。
ほんの少しでも回復を取ると取らないでは大きな差が生まれる。
何しろ、命は金で買おうとすれば釣り合わない程なのだから。
「のうご主人。」
「なんだよ。」
今まで押し黙っていた白が漸く言葉を発する。
そうだ、お前等も入ってこい。
「いまいちよく分からんのじゃが、この薬湯は混ぜ物をしても問題ないのか?」
「それか。 いや、俺は特に問題はないが子供舌とかだと苦いのが苦手だったりするだろ。」
「うむ。」
「そこでなんか試した暇人がいたらしい。 問題ないとさ。」
薬師ロールをしていた一人の廃人曰く。
時間があったので仲間になる可能性があるキャラ数十人に呑ませて確認した、と。
その結果、なんだか味の好み次第で回復量が違うんじゃないかと推測出来るデータが出たらしい。
なので砂糖や乳……要は『割って』好みに近付けた所その効果量が若干上がったと報告してた。
本来はそのままが最適らしいが、元となるのがこの薬湯なら若干の減少程度で済むとか。
後は好感度の変動が云々書かれていたが流石にそこまで覚えてねえ。
「結局精神に作用する薬だからな、当人の好みが一番。」
「成程のう……。 伽月、お主はそのままで良いか?」
「え、えっと……とりあえずは、このままで。」
無理はするなよ、と面倒を見始める白。
姉貴分と言うには少しばかり背丈が足りていないが。
ただそれでも、おっかなびっくり伽月も対応してる。
「……朔、さん。」
「ん?」
リーフの言葉。
混ざっているのは……心配のような色合いの感情?
「…………普段、は。 私達も、見るように、するので。
無理は――――しないで、下さいね。」
「分かってるよ。」
……そう、言われるまでもない。
出来るかどうかは別として、だけどな。
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