031/用意
少しだけ休みを挟みながら、次の準備。
つまり今回の場合で呪法陣に必要となる図柄の絞り込みに移る。
(問題はこの辺をプレイヤー目線で書くことはなかった、ってとこなんだよな……。)
鳥居、岩戸、そして神々の持つ権能を意匠化した形。
日ノ本だから、というのもあるのだろうが幾つかの象徴としての物品達。
最低限これらは刻み込まれ、後はどう言う風に纏めていくのかという素材と配置の違い。
そしてその神が好むものを書き込めば書き込む程に成功率が上がった記憶。
ゲームではそれらは『神々への知識』という能力で表されていた。
だからこそ、『こう』と正しい記述方法も何も分かっていない。
大雑把に絞り込めたとしても、まだまだ不足しているというのが個人的な感想だ。
「…………ええ、っと。 こう?」
「あー……すまん、利くかどうかに関しては真面目に俺は対応できないからな……」
必要なものを口にして、こんな感じ……と見た記憶を再現するように書く。
とは言っても書くにしろ、本来は神職のやる仕事。
何となくで書くことは出来るけれど、効果が出るとはとても思えない。
(だからこそ、なんだがなぁ。)
取引、という形を介したことで少しだけ柔らかくなったらしい灯花。
頼らざるを得ない彼女にも同じように教えたが、書いた経験が無いようで。
どうにも手先が震えている様子が見て取れる。
後は二人の感覚に任せて好きに書かせている中で、少し外を見てくると告げ席を外す。
(……神に対応できる人員が二人。 十二分に贅沢だってのは分かってるんだが。)
一応主人公にも取得できる可能性がある能力の一つ。
それを知っているから確認はついさっきも行ったが、この方向は取得制限が掛かったまま。
その代わりとばかりに、違和感を感じる能力の取得制限が解除されていた。
「……これ以上取るわけねーだろ」
冷たい地面を這い進みつつ。
たった一人だからこそ、誰にも見られていないからこそ出来ること。
愚痴を漏らして地面を叩く。
脳裏に浮かべ、吐き捨てるように消したモノ。
五感の拡張能力の選択肢が更に増え。
其処から派生した能力が幾つか取得可能となっていた。
最初に取ることが出来なかった、父上の持つ『邪眼』であったり。
『聴覚拡張』能力、『飛耳長目』から派生するソナーのようなものであったり。
そして。
手を拱いて誘うその先に、幾つかの見てはいけないものが見えてしまったり。
(明らかな強効果……のように見せかけた罠能力の取得制限解除とか舐めてるのか?)
不利な効果を踏み倒せない。
人として生きていく上で大きく不利になる能力が見えた時点で取る気は欠片もなくなった。
そしてこれ等が解除されたのは、恐らくこの場所に踏み込んだ事と無関係ではない。
(多分だが、先に踏み込んだ先輩達の何人かはこの罠に引っ掛かってると思って良い)
普段は取れないものが解除された。
立ち塞がる存在を、今のままでは打ち払えない。
そんな認識をしてしまえば、何を犠牲にしてでも手を伸ばしてしまうと思う。
……恐らくは、そんな『逃げる先』を作るための妖でもあるはずだ。
ただ、存在種別が偏っているという可能性は否定しきれない。
情報が足りなければ……と言うよりは明日か明後日には一度出たほうが良いのかもしれない。
一歩、手を先に伸ばす。
もう少しで外に通じる穴へと辿り着く。
念のためここで少しだけ待機することにはするが、三人が先に出ている以上。
あの追い掛けていた存在は既にどこかに立ち去っていると判断して良いはずだ。
(あの糸……俺にはそう見える、ってだけな気がするんだよな)
結界に入ってからふと思い始めたそんな考え。
先程の話し合いと、脳裏の適当な考えが結び付く。
そんな事を考えつつに、地面を抉るように文字を書く。
思考を整理する上で、大事と思われる物事を抉っては消していく。
結局あの糸が見えた始まりはよく分からず。
夢で見たままに従い、けれども疑いながらに此処まで辿り着いた。
その上で考えるべきは、同じ視点で見られる相手が誰もいないという事実。
『糸』。
何故そう見えたのか、その理由で浮かぶのは二つ。
一つは神の権能がそれを利用する介入能力だから。
もう一つは、『糸』ならば断ち切れるものだと俺自身が認識しているから。
正直に言えば、俺の考えは後者に大きく傾いている。
理由も単純。
日ノ本……或いは以前の例で言えば日本に置いて、それを利用する神が余り浮かばないから。
西洋における運命の三女神、或いは同一視される三体の女神。
大物主大神の恋物語は浮かぶにしろ、今回の場合は『操る』事に該当しない。
なら、考えるべきはまた別の特徴だろう。
定期的に介入してきており、且つ太さに応じてその力の込め方が変わるというのなら。
全てに関して介入する――――と言うよりは一個人に宿る、と考えたほうが納得がいく。
一個人に憑いているからこそ、見続けているからこそ。
其処から開放しようとする存在を認めず、即座に否定する。
但し、一度それを無効化すれば次の誘導までには時間が空く訳だ。
その対象として最も分かり易いのは……。
「やっぱり灯花、だよなぁ」
あの変なものが見え始めたのは彼女の話題を出した後。
要するに外部要因を含めて外へ出そうとすること全てを否定している、と考えて良い。
……問題はなんでそんな事するのか、なんだが。
神の考えなんて分からない。
どうせ考えるだけ無駄だから無視しよう。
頭をガリガリと削るように掻き毟る。
根の辺りに付いていた土……砂が爪に引っかかり地面に落ちて。
そのまま地面の跡を脚で踏み消す。
「…………なんでこうなってるのかねえ」
自分のせいだ、と嘯く自分を無視しつつも。
蠢く音も聞こえない、穴から外へと身を乗り出した。
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