034/知見
「お。 ご主人」
「お疲れ、どうだった?」
戻る最中……という言い方は正しくないか。
三人が戻るまでは息を潜めつつ考え続け、背後の状態がどう変わるか確認し。
鳥居側から顔を見せたタイミングで正面から抜け出し、三人と合流。
裏側と鳥居側、どっちから戻るかは不明瞭ではあったが……。
まあ、両方を確認できる位置という意味合いでは間違ってない。
「枝はそれなりに回収できたかなぁ~……って感じ?」
「それと……ううむ、一つ怪しいモノは転がっておった。」
「朔様は……何を?」
ちょっとした物を詰められる、という意味で重宝している手提げ袋。
紫雨が吊るしたその中には枝が幾本も目立って見える。
……正直、神社の中で火を使う危険性は十二分以上に分かっていることではあるのだが。
真逆に火を用いることで出来ることも増えるし、周囲に延焼しない対策が無くもない。
『簡易呪法』を用いて床下から土を集め、竈のようにしてしまえば済むことではある。
まあアレだけあれば二三日は持ちそうだな、と簡単に概算を立てていた。
「ちょい単独で調査」
「また無茶をしおって……」
蓋をし直して脇に挟んだ箱を軽く振って見せる。
がたがた、と中に何かが入っているのを示す音に三人は意識を向け。
そして同時に周囲の変化がないかを警戒……特に異常の発生は見えず。
「……ご主人?」
「気にするな……って言うよりは予想してた通りだった、と言い直したほうが良いな」
何してくれてるんだ、という目線に対して若干の釈明。
ただ、今口にしたことはまかり間違っても嘘でも無く、誤魔化しでもない。
「さっき俺がいた建物あったろ」
「あ~……あの裏側に扉がある場所だよね?」
「そうだ。 で、あの扉の奥では日が暮れると同時に何かが起こった」
この場合の”何か”は直接確認しようが無かった、という意味も含む。
恐らく踏み込めば誰であろうと無差別に対象にし、呪いを振りまくだろう。
寒気と吐き気、そして嫌な直感。
こればかりはもう感覚の問題なので、鋭いかどうかは各個人の資質による。
「つまり……昼と夜とで姿が違う場所、ということかや? この神社は」
「はっきりそうとも言い切れないが……そういう側面はありそうだな」
俺の伏せた言葉を汲み取って、白が後を継いで口にする。
本殿内に直ぐに戻らないのは、人数を掛けて周囲の確認を兼ねているから。
今のうちに確かめて、明日の朝一に再度確認する。
見える範疇、という前提はあるものの……違和感の有無を確かめるには丁度良い。
そもそもの話、神社内で霊障……呪いが発現する時点で色々とおかしい。
龍脈の内側というのもあって、二重に。
普通に考えれば浄化されるなり、力に溶け込むなりしてしまう筈。
それが為されない空間としての意味合いもある、ということになる。
「それで、さっき口籠ってた怪しいものって?」
各々が少しずつ悩み始め、言葉が減って。
ただ黙るだけにならないよう、先程口にした”何か”に対し言及する。
初日の、それもほんの少しの探索で見つかったのだから隠されているようなものではなく。
探そうと思えば誰でも見つかっただろう、というのは口にしなかったけれど。
その程度の認識は全員が共有しているものだろう。
「……何と言えば良いんでしょうか」
「ぁ~……先ず一言で言うなら遺言、かなぁ」
「遺言」
つまり死体の傍に落ちてたとか、か?
……そういえば、死体も下手すると『モノ』扱いされるのだろうか。
そうなると大人のそれも、見た目と実際の時間の経過が当てにならなくなるんだが。
「白骨化した死骸の傍……それも背の高い叢沿いに転がっておったものでの」
これじゃ、と渡されたのは一枚の紙切れの端。
何故無事のままでいたのか、それは今は気にせず。
表と裏を確認してみれば、書かれていたのは単語。
『醜悪』
『闇』
『■』
最後の部分はまるで読み取れないにしろ、何かを遺そうと書かれたそれ。
何を示しているのか、直ぐに思い付くわけではなかったが……。
「……これ、何かを見た結果……だよな?」
「だと思う。 ボク達はこんなの見てないし」
だよなぁ、と同じく頷く。
つまりそれを目撃した上で敗北した……或いは戦闘にさえならずに殺された。
何方にしろ、”何か”危険なものが一つ増えた、という認識は共有できる。
「一応意見聞いていいか? どう思った?」
俺一人の考えでは行き詰まる。
そんな直感の下、三人にも考えを聞く。
「あの追い掛けてきた変なモノとかでは?」
「そうじゃなぁ。 吾としてはまた特殊な妖という線も推したい所だが」
「ボクは……そうだなぁ。 ”見てはいけないもの”を見た、って意見?」
三人の考えはやはりそれぞれ違う。
ただ、その中で最も気になったのは紫雨の考え方。
「いけないもの?」
「ボク達が狙ってる……うん、神の似姿を見てしまった、とか?」
直接的に名前を書かなかったのではなく、書けなかった。
知識を持たず、名前を知らず。
その結果致し方無しに何かを遺そうとした結果がこの記載なのでは、という感じか。
「……何にせよ、何も分からないモノを見た――――というのは一致するんだな」
考え方の基本。
というよりは超能力者、霊能力者としての基礎の基礎。
端的に記せるモノをそのまま記す、という形では長くなってしまうための共通知識。
それを『名前』で定義し、各員が学ぶ事で直ぐに引っ張り出せるようにするのが当たり前。
俺達はその当然が出来ていない、というのもあるが……。
それにしても『名前』を記さない、それそのままを受け止めるなら。
彼女達の意見にも大きく頷けるものがあった。
「……中の二人にも共有するか。
ああそうだ、食い物は普段通りの対応で何とかなりそうだぞ」
「傷んでおらんかったのか?」
「あー……実はな?」
内側での発見と、外側での発見。
その日に見つけたものの共有を行いつつ。
少しだけ時間を掛け、無事に合流を果たすことに成功した。
意味深な発見を幾つも残しながら。
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