029/定点
それから三日後。
「さて、今日の目的は分かってるな?」
俺達は少しだけ場所を変えた幽世へと足を運んでいた。
武具防具は新しく整え。
道具も多めに、数日くらいは平気で過ごせる量を。
正直、所持重量上限加算系の能力に目が行くくらいに万全の用意を整えた理由。
それはある種の実験――――そして、本来の形とは違う”個人依頼”の為。
「ああ、繰り返さずとも分かっとるわ。」
「……遺留品…………と、武具集め、ですよ、ね?」
こくり、と頷く。
持ち掛けてきたのは紫雨……というより親父さん。
やはり現状は同行を許されなかったが、今の腕前を試すためという名目で。
取ってこれる量と質とを鑑みて判断する、と娘に泣きつかれた結果。
当然、それらは商人の嗅覚という面が混じっているが。
「通常よりも高く買い取る、って話だ。
それに白には無理を言うことになるが、悪婆から遺留品を多めに確保したい。」
背後からの強襲を避けるため、入った直後の壁に背をつけて。
玄室を利用しなかったのは、先ずは意思疎通を優先するためで。
入る前に言わなかったのは、周囲の超能力者に目的を悟られないため。
出る前に話した内容ではあったが、幾つか抜け落ちていた部分を補完しておく。
「……んお、あの素材をか?」
「あの、即死を避けるっていう素材……ですよね?」
今は前衛で最も攻撃を受ける可能性のある人物。
伽月の防具として使われているが、今回で最低でも人数分。
欲を言えば予備も含めて十枚程確保しておきたい。
「装備を変える度に何処かしらの部位には付与しておきたいからな。
付与枠を一つ使うとは言え、誰かが死ぬ所なんて俺は見たくないぞ。」
全ての部位を纏めて変えたくない理由の一つがこれ。
正直な話、この辺りはプレイヤーの趣味の範囲を出ないのだが……。
武具防具の実数値で余りに酷い差が開かない限りは、俺は付与能力を優先する。
全てを同じ付与で固めるのは出来なくとも、必須とも言える部分だけは継続して更新する。
この場合のデメリットとしては文字通りに物理・呪法の何方でも被害が嵩むこと。
だからこそ、ある程度安定して狩れる場所を見つけて定点狩りに近い行為を取っていく。
その切っ掛けとなる場所が此処。
今まで選ばなかったのは、前衛が三人揃ってから来る場所として考えていたから。
此処を卒業したら、次に安定して狩りたい場所は(この世界にもあるとしたら)中部の辺り。
しっかり深度と業、後は装備品を整えておきたい。
「……はい。」
「無論、先々のことも考えて貯蓄にも回したい。
今回はそこそこ粘るつもりだが、来る回数は多分増えると思う。」
正直此処、此方の世界だと若干穴場らしいんだよな。
幾つか部隊を見てるから何とも思ってなかったんだが。
『命を大事にするのが多いからねえ。』なんて紫雨が言ってた。
ただ――――何処か、その言葉は嘲るような色を帯びていて。
頷くかどうかは悩みつつも、何となくその感情の理由だけを理解していたけれど。
「だから……。」
少しだけ、嫌な予感を覚えて。
右へ左へ目を向ける。
暗闇――――何もいないように見えてしまう。
けれど。
>>【種族】:小豆洗い 状態:【隠密中】
>>生命力:【■■■■■■■■■■】 霊力:【■■■■■■■■■■】
見える数値だけは、そんな隠密を無視して映る。
玄室のような直接の遭遇。
或いは連戦のようなそのままの流れでの戦闘。
それらを除いた、通路での――――こうした隠れた相手に対しては、俺の目は応用出来る。
左手、人差し指を立てて唇の前へ。
それだけで三人の持つ空気が戦闘向けへ切り替わる。
指を暗闇に向け、どの辺りにいるのかを指し示してから。
杖を両手に、不自然と思われない程度に持ち上げた。
(……物音だけの妖。 転じて、特殊な能力を持たなければ必ず奇襲してくる妖。)
そして定点狩りの場所として選ぶ理由。
下級ではあるが、様々な能力を持つ妖が尽きないということ。
成長したことで新たな能力を得て、それを以て駆け出しを喰らう場所。
頭では分かっていても、身体で知らないことを身につけるのに最適な場所。
(ただ、先に見つけてしまえば唯の美味しい餌に過ぎない。)
くるくると杖を回し、地面に叩きつけ。
今の行動そのものが陣を描く基点――――外周を描く陣として。
地面にどん、と押し付けることで普段と同じ束縛の呪法が起動する。
ばちり。
隠れていたものに干渉した時特有の異音。
瘴気で出来た物体に霊力が触れ、反発した時に立てる物音。
その音を切っ掛けに、刃を持った二人が飛び掛かり。
人のような姿を闇が象ったような、暗い影だけが陣を頼りに浮かび上がり。
次の瞬間には十字に、袈裟に切り裂かれ散っていく。
「……と、まあ特殊な妖が大量にいるわけだ。
多分こういう類の索敵の中心になるのは俺とリーフ。
基本的な部分は白に頼ることになる。」
目と、そもそもの霊力による探知との両輪。
罠などは白にいつも通りに頼り。
伽月は背後からの強襲などに備えた全周警戒。
後二人いればもう少し余裕もできるんだが――――まあ、無い物ねだりだな。
「取り敢えず今日は慣らしから。 良いな?」
とてとて、と瘴気箱を目掛けて向かっていった白以外の二人に声を掛け。
異口同音にはい、と。
返事を聞きながら――――俺自身も意識を切り替えた。
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