028/買物


「それで?」

「ん?」


時間としてはほんの数分程で表通りに当たるような位置。

現代社会よりも入り組んでいるとは言え、歩いて抜け出せる範疇。

迷路のように敢えて作られた地形とは違い、飽く迄生きていく上でこうなった形状故に。

然程時間が掛かる訳でもないから、実際の時間としてはもう少し短かったかもしれない。


そんな街中……人目が増える頃には手の位置が少しだけ変わっていた。

以前と同じ様に、手を掴まれて。

それでいてどこか上機嫌だからこそ否定しきれない俺もいる。


「自由市まで出るってことは足りない素材とかも買うんだろ? どうせ。」

「うむ。 と言っても然程業が掛かるわけでもなし。

 後で請求する程度で対応できるつもりだったんじゃが。」


俺達の部隊の場合、という前提は付くが。

ゲームの頃とは当然違い、稼いだ金銭の分割はシステマチックに定めている。


先ず各個人向き、として分けた物品以外は全て叩き売る。

その後店を回り、仲間向けの物品があればその場で合わせて買えるなら購入。

何もなければその総額を十分割。 

各1割ずつを当人へ、1割を消耗品へ、残りを部隊用として貯蓄。

現状だと伽月が入ったことで4割が各個人へ、1割が薬など。

残りの内ルイスさんへ支払う分が大体1割の生活費で2割……貯蓄できていたのが2割。


だから武具として吐き出した額は結構痛かったりしたが、その分リターンで返ってきた形。

もう少し総額が増えてれば楽だったんだが、余り考えず良くなったのは功罪半々といった具合。

いや、今後を考えれば先行投資と考えたほうが正しいか。


「それで何を?」

「針と布、後は……幾つか残留物としての皮が出回ってたら買っておきたいの。」

「あー……。」


針は鍛冶屋、布は呉服屋か単純な布屋で良いとして……。

残留物ドロップ、となるとちょっと特殊だしなぁ。


実際、残留物は別の街のほうが売れたりする可能性が高い。

無論一定数は蓄積されるのだが、ある程度増減はするが定期的に入手可能なだけに積み重なる。

なので街にある超能力者向けの店、というよりは。

あちこちを行き来して入手する可能性のある、流れの行商人の方が面白い素材を持ってたりする。


「その辺りのコネは親父さんとか経由だもんなー。」

「そうじゃのう。」


無論、流れは流れだけに街で大きく商売をするなら知り合いの店持ちに持ち掛けたりする。

なのでコネを頼りに直接行くか、或いはこういった自由市で掘り出し物を探す位しか無く。

白はその後者を選んだ、と言うだけの話。

……紫雨絡みで頼りたくなかった、という感情が絶対混じってそうだが。


(……父上ももう少し、売買関係に手を出していてほしかった。)


父上とかは凄い雑。

本当に見知った店で全部売却して終わり、位のはず。

まあそういう人だからあの店主も苦笑しながら長く付き合えているんだろうが。


「じゃあまずは鍛冶屋から回るか。 いつものとこで良いんだろ?」


武器などを打つ鍛冶屋と、一般的な調理器具などを打つ鍛冶屋。

鍛造と鋳造、のように明らかに分かれていることはあまり無く。

何方かと言えば『重い武具を作る』『軽量化に自信がある』等の特色に分かれている。


その中で向かっているのは、『小さいけれど頑丈さに自信がある』鍛冶屋。

斬れ味そのものよりも丈夫さに重きを置いた、やや新興寄りの店。

俺達の小刃ナイフや細々とした調理器具、後は針などはそこで揃えている。

ここからだと……俺達の足で八半刻といったくらいか。


「うむ。 幾つか試したがあそこのが最も使いやすいしの。」

「そこそこ距離があるから途中で色々冷やかしていけるもんな。」


紫雨のとこに行く時にも見るだけ見たが、特に良さそうなのなかったしなぁ。

ひょっとすると職人と俺のような鑑定人だと見方が違う恐れもあるが。

まあ先ず、白と俺とじゃ根本的な部分でのズレは無い。

それが主と式という関係であり、三年間の積み重ねでもある。


「そういえばご主人よ。 今日の稼ぎはどのような感じじゃった?」


何やら武具が更新されておるが、と向けられるのは杖。

戻った後で三人に言おうと思ってたが、今口にされるなら答えておくか。


「四代目買ったから多少は目減りしたが、それでも驚け。

 まだ六桁ある。」


具体的には十万前半。


「ほ。 それはそれは。」


ただ。

白からすればそれくらい当然の額だ、という態度。

想定外の反応だな……俺だけなのか?

こんだけ稼げた、と喜ぶの。


「……何じゃ、その表情。」

「驚かなくてつまらねーなーって顔。」

「当たり前じゃろ。」


何がだよ、と口にしようとして。

彼女の空いた手……左手が気付けば唇の前に差し出されている。

静かに、とでも言いたげに。


「ご主人なら……いや。 吾輩達ならその十倍、百倍。

 それくらい目指して当然――――じゃろう?」


七桁、八桁。

つまりそれは超能力者としてもかなり上澄み。

妖の王の存在が明らかになり始める辺りで出入りし始める位の額。

少なくとも、今の俺の周りにはそんな知り合いは一人もいない。

日ノ本全体で……どうだろう。 どれ程いるのだろうか。

だが、と彼女は口にした。

以前に俺が言った通りに。


「……そうだな。」

「そうじゃそうじゃ。」


表通りが見えてきた。


手を握る力がほんの少し強くなり。

それに対して、返すように握り。

人混みの中へと、飛び込んでいった。

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