027/事情


手に入れていいやら悪いやらの情報を抱え。

ついでに新しく購入した四代目の杖……いや昆なのか?

まあいいや、杖を右手に店を出る。


背中越しに。


「じゃあね~。」


とかいう邪悪な声が聞こえるが気にしない。

貸しの代償としてこの一件に関わる権利を要求されたりしたが流石に俺の判断じゃ無理。

だから別のものを、と言えばやはり幽世への同行を求められ。

親父さんの許可が得られたらな、と言い返したんだが聞くつもり無いのか此奴。


(めんどくせえ……。)


一つの事情に踏み込めば、其処から派生してまた別の事情に絡み取られる。

生きていく以上、投げ出せないのは分かっているが。

時折イベントを放り投げたくなる感情が浮かんでは消える。


(人間的に嫌いだったらそもそも付き合ってないしな……。)


純粋にアクが強い、というだけ。

見た目は元より、それぞれの個性と内面と。

そういった部分でお互いに好ましいと思っているから付き合いが長引いている。

まあ、こんな考え方をする枯れた子供なんて他にいるとも思えないが。


(ま、悪いことがあれば良いこともある。)


右手の杖……未だ陣を刻んでいないから束縛陣は使用できないものの、俺に合った掘り出し物。

銘は削り取られているが、恐らくは銘有りに付与効果レアにエンチャントを付属した結果だと思う。

本来の性能より若干減少してしまってはいるが。

『干渉効果増大』『状態異常抵抗率増加』が付いているのは十分当たり。

性能が見劣りするか、破損するまでは大事にしていこう。


うん、と一歩頷いて裏道を通る。

何年も暮らしていれば裏道の三つや四つは把握する。

単純に人通りが少ない、という気楽さが俺には合っていた。

無論トラブルに巻き込まれるかもしれない、というデメリットと表裏一体ではあるが。

……その辺は色々あって新しく見るチンピラくらいしか関わってこないもんな、もう。


「ん?」

「む?」


かつりかつりと杖を突きつつ、薬屋へと戻る道程を辿っていれば。

振り分けた防具……の中でも性能面で負けたもの。

但し見た目は気に入ったのか、白が自分のものとした。

蒼い羽織るタイプの上着を身に着けて、曲がり角で出会した。


……白だったり蒼だったり、こういう色ばかりを好んで着る。

やはり思い出すのは禿から羽ばたこうとし始めた、遊郭の彼女。

楽器等の技能は無論だが、美しい少女達の中で殊更に輝いていたように見えた少女。

彼女も確か、この年代であればこんな外見をしていた。

どうにも悪いと思いながら、重なる部分が多くて時々浮かび上がってしまう。


「あれ、縫い物はどうしたんだ?」

「材料が足りんくなっての。 それに、少しばかり気晴らしじゃ。」


気晴らし? と首を捻っていれば。

当然のように傍に近寄り、空いている側の腕に寄り添う。

片手が杖で塞がり、片手を伸ばせば白へと届く。


昔……と言っても三年前であれば何度も合った光景。

今では若干その数は減ったものの、二人で出る時は彼女はこうした位置を好む。

手を繋いだり、腕を組んだりと。

流石に其処まではしなくはなったけれど、今でも機会があれば狙っていると俺は知っていた。


「何処出る気だったんだ?」

「自由市の方かの。 ご主人の方はどうじゃった? あの雌猫とのやり取りは。」

「あー……。」


戻ろうかと思っていたが、まあ彼女に付き合うのも一興か。

何があったかを一通り説明していく。


たった二人で活動していた頃から立場と在り方は変わったが。

それでも、俺が知る事の大半を知る唯一の人物が相方である白。

無論、回りの人物に抱く感情面も違うから。


「な~にが貸しじゃぁ!」


大方の予想通り激高するこうなる

でもお前も当たり前に取る行動は近いし大差ないぞ?

いや多分、白の中では違うんだろうけど。


「はいはい、どうどう。」

「うぐ。」


頬を片手で押し潰す。

膨れ上がっていた空気が口から漏れ、元の形に戻す。

このままだとまた何やら騒ぎ出すし、先に幾つか抑えておかないと。


「そんな文句言ってる顔は似合わんぞ。」

「しかしのう、ご主人。」

「ほれ、気分転換しに来たんだろ?」


……何で俺が対応してるんだろうな、と思わんでもないが。

相方の精神的な安定くらいは俺がやるべきなんだろうな、とも思う。

まあ『俺』が目覚めてから一番長い付き合いなんだし、苦というわけでもないんだが。


空いた手で頭を撫でてやれば、それで良いと気分を持ち直す。

手を離そうとすれば、両手で手を抑えて離そうとしない。

……身長差も合って、年下が年上を慰めてるような光景になるんだけども。

まあ今更か、と思考を戻した。


「そういや渡してたアレは上手く使えたか?」

「ああ、アレか。 確かにちょっと戸惑ったが次からは大丈夫だと思う。」


例の即死を避けるためのエンチャント用アイテム。

使い方としては服の内側に織り込んでいく、という形になる。

だから服の方が成功率は高いし、皮鎧の方が成功率は低い。

使用する素材に依っても変動があるんだから細かいよな、この辺。


「まあこれからも色々と頼むことになるからなぁ。」

「そうかそうか。 精々吾に頼るが良いぞ。」


便利に扱うぞ、と口にしたのに。

何処か上機嫌で返してこられて。


ぐむ、と口を噤みながらも。

一歩、自由市の方へと歩みを向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る