026/話題


「じゃ、あらためて。 武具と防具だよねー?」

「そう。」


多分、見詰め合っていたのはそう長くはない。

ただ、今までを含めて。

こうして二人で話した数少ない会話の中で。

それなりの回数発生して、そのまま流されている。


分かってる。

彼女が何を求めてるかは何となく分かってる。

ただ、今は何も言えずに伏せておくだけ。

罪悪感が塵のように積もるのを見なかったことにして。

二転三転している話を、元の形に戻そうと二人で努力する。


「とりあえずー、今ボク等が把握してる限りではこんな感じかな?」


ぽいっと投げ渡されるのは丸められた紙の束。

とは言っても唯の紙というわけではなく、態々道具作りに長けた人物が作ったもの。

虚偽を記す事は決して許されない呪法が制作段階で織り込まれた契約紙。

羊皮紙みたいなものは日ノ本だと輸入に成り、特に高くなるので普通は使わない。


結ばれた紐を解き、内側を見る。

記されているのは名前と形状、武器種に効果。

そして


実際に幾らになるかは積み重ね……と言うよりは普通なら店主とのやり取りの結果次第。

この中身自体を見せるはずもなく、何かしらの別の紙に書き写した上で最低額以上を提示され。

やり取りした上で最終的な価格が決まるような、そんなシステム。

だからこそ、自分が主とする街の店員との仲というのも地味に大事にしないといけなかった。

本来なら。


「まぁた増えたな在庫……。」

「これでも入れ替わりははげしいんだけどねー。」


右上から目を通している間に次、その次と投げつけられる。

何故かカウンターの下に落ちることはなく、それら全てが並んでいく光景が視界の端に。

『力』……実際に攻撃を与える力自体は然程ではないが、命中精度だけは異様に高いのが紫雨。

だから普段から使うのも矢に色々と塗布して使うとか言ってた。

戦闘時に良く迷わないな、と少しだけ感心する所。


「さっき言ってたが新人に売る分確保した上で、か?」


読みながらの雑談、も熟れてきた。

慣れて良いのかどうかはまた別問題ではあるが。

この店だけでなら先ず問題ない。


「んー、それがさー。」


その理由も、彼女に渡したあの短剣の影響。

この店……というか紫雨親子が係る店の場合は最低価格に近い額でやり取りさせて貰える。

これ自体はゲーム版でも商人ヒロインイベントを完走したした場合に似た特典があった。

欲しい道具を優先的に手配して貰えたり。

色々な商品をほぼ原価……利益を無視した額で手に入れたり。

それにしたって此処まで歓待されるほどではなかったけれど。

だから行き過ぎてる感も強く有り、何度か直接言ったがこれに関しては固辞された。

何でも『末娘の品格を保ってくれた恩人にはこれでも足りない』とか。


高値で買い取って貰ってほぼ原価で買う、とか大分申し訳ないんだが……。

それだけ、あの一件で上がった好感度の量が異常だったのが分かるというもの。


「ちょっと前に通りの店でいっぱい売っていった人がいたみたいでさ。」


一枚それを読み終えて、紐で括りつつ。

へえ……と言い掛けて、引っ掛かるものを感じた。

それは彼女の言い方であり。

俺自身の直感でもある。


「一杯?」

「そー。 それも付与効果付きとか銘有り品ばっかね。 」


物凄い聞き覚えがある。

というかじゃないか。


幾ら運が偏っていても普通はそんな連戦は発生しない。

あるとすれば、特殊な罠を設置して連戦を強要するか。

溜め込んでおいて、一気に売るか。

同類か、くらいしか浮かばない。


ばっ、と視線を持ち上げれば。

掛かった、とばかりににっこり笑みを浮かべられた。


「……姉上様……お姉ちゃんが回収担当したから詳しくは知らないけどね~。

 なんて言ってたっけかなー。」


もはや隠すつもりもないらしい。

チラチラと此方を見ながら言っているし。

何かしらを譲れ、と暗に……どころか思いっきり言ってるのと同じだ。

当人がいるならこの場で聞いて終わりなのに、いないからな……。


「……望みは?」

「貸し一つ?」

「分かったそれで良い。」


どうせ一回ついてくるとか言ってなし崩しを狙うパターンだろ……。

絶対にそうはならないだろうからまぁ、今はこれで我慢するしか無い。

二束目に手を掛け、開きながら先を促す。


「お父さんくらいの年齢の……男の人って言ってたかなー?」

「他には?」

「んー……なんか焦ってた、とは言ってた。」


だから安く買い叩けたんだってー、と。

思い出せない、とは一体何だったのか分からない変わり身の速さ。

ただそれにツッコミを入れる余裕もない。

何方かに絞るべきなんだろうが、もう既に文面を追うのと話を聞く事。

それら二つが平行に走っていて、何方かを止めれば多分ぐちゃぐちゃになってしまう。


「……その人は何処に?」

「一応きいたみたいだけど、西に行くって言ってた感じ?」


……多分、それ伽月の父親だよな。

それが今までとは違う売り方をするためにやってきた。

追うように現れた伽月。

……足りないピースは二つ。 兄弟子と姉か。


「紫雨、三本目と最後の見せてくれ。」

「杖の?」

「そう、杖の。」


分かった、待っててーと言い残し奥へと消えて。


……何となくだが、一歩進んだ感触を得つつも。

今日のやり取りで何か大事な物をやり取りしてしまったような悪寒が、ずっとしていた。


(……気の所為だと良いんだが。)


大概、俺の願いは叶わないけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る