030/多種


小豆洗い。

赤坊主。

磯女。


音だけを持ち、姿を隠す妖。

炎に包まれ、鬼のような力を持つ妖。

人とは違う爬虫類の動き方を持ち、出血効果を持つ髪を振り翳す妖。


今までの、主に最下級の妖が強化されてきた姿とは違う。

それぞれが逸話に関係する、或いは作り上げられた能力を持ち。

それぞれの身体が持つ特異性を生かして攻撃を繰り出し、防御する。


「白さん!」

「分かっておる! お主はそれを潰せ!」

「その後は後ろ側に回ります!」


慣れと、基本的な対処を身に着けた後の戦い。

謂わば、何処か”駆除”に近かった作業と違い。

”戦闘”がきちんと成立する相手との戦いの数々。


「リーフ! 奥の集団に落とせ!」

「……はい!」


俺が持つ束縛、或いは攻防の減少による遅延策。

白が持つ速度、そして出血の付与による生命力の消失。

リーフが持つ対多数への殲滅力と、小回りが利く強弱を変えた呪法。

伽月が持つ斬り込み能力の高さと、一対一を任せられる確実な火力。


それらが漸く噛み合い始め、『連戦があること前提』の心構えも成立し。

疲労しているところを狙う敵をリーフが殲滅する、などの部隊独自の流れも芽生え始めた。


「白!」

「ああ!」


とは言え、敵の集団が断続的に襲いすぎだ。

これで4連戦……何処から湧いたんだよ。

恐らくは伽月の体質の何らかが反応して強弱を決めてるんだろうけども。


目の前に近寄ってきた悪婆の頭部を【迫撃】で吹き飛ばし。

宙を舞っているところを白が首を刎ねて一段落。

玄室に繋がる各通路の扉を見、違和感がないことを確認して大きく息を吐く。


「一段落だな……少し休むか。」


どさり、と腰を下ろす。

それに続いて各人も腰を降ろしつつ、白だけが這うようにして現れた瘴気箱に向かう。


「…………む?」


ただ、この世界ではじめて見る形。

箱が二つ。


「のうご主人。」

「ああ……ちょっと瘴気濃度が行き過ぎたか。」

「は?」


ゲーム時代、レア掘りをする際に苦しめられた要素の一つ。

『レア品が入っているかは外から見たのでは分からない』。

箱の色が変わる、とかの分かりやすい変化があれば良かったのだがそんなものはない。

その代わりにゲーム上で判断する基準として用意されたのは、箱の数。


「連戦し過ぎで一つの箱の形に収まりきらなくなったんだよ。

 つまり、どっちかは難易度クソ高いけど中身良いのが入ってると思う。」


発生条件は至ってシンプル。


連戦が起こっていること。

仲間に死者が存在しないこと。

そして、一定の条件が満たされていること。


箱の内部の質をポイントとして計算し、それが一定数以上で箱が別れる。

質が普通の場合は……どうだったか、中身が10個以上で分割だっけ?

細かい数までは覚えてないが、基本そのどっちか。


ただ、この場合問題になるのが解錠難易度と識別難易度も馬鹿みたいに上がること。

能力を極めていて、超能力もほぼ特化のような形に伸ばせていれば別なんだが……。


「一応どんな罠かだけ確認してみろ。 今日は秘密兵器も持ってきてるし。」

「ほ? 秘密兵器?」

「ああ。 だからまぁ、挑戦?」


分かった、と口にしてリーフを手招きしている。

同じ様に這うようにして近付いている。


……立ち上がりたくない程疲れてる、というのは分からんでもないが。

膝とか痛めるし、何よりその方向だと下着が見えるんだが。


(その辺無自覚なのは今更か……ええっと。)


背負袋から休息用の一式を取り出すついでに、箱に入ったそれを地面に並べる。


親父さんから譲られた幾つかの、折れ曲がった針金のような形状の道具。

余り使いたくは無いが死蔵してても仕方ないし。

何より、これは作ろうと思えば作れる道具だ。

前提になる能力が七面倒というだけで。


(入手経路さえ確保してるなら幾らでも買えるからな……。)


お得意様であったり。

仲間であったり。

その関係性次第で値段や入手量は様々だろうが、『買える』という事実は変わらない。

ある程度貯蔵はしておきたいな、と思いつつ視線を再度箱の方へ向ける。


「うおお……どうなっとるんじゃこれ……!?」

「……多分…………ですけど、転移…………?

 呪法……みたいな、道が……。」


下着が見えるか見えないか、という体勢で普段と違いすぎる形状の罠に苦しむ二人。


ああ、この段階でのレアref箱が増えた時の呼び方。別名は増殖箱。《/ref》の罠でもう出てくるのか……。

普通にしてればこの段階でこんな数の連戦なんてしねえもんなぁ。

俺も知らなかった、純粋なミスだな。


「解除は無理そうか?」

「無理じゃ無理! というか根本的な知識が足りんわ!」

「だよな。 それ解錠するなら最低でも派生一個目の能力深度3くらいいる筈だし。」


は!?とか叫んでる白がいるが、距離があるから耳を塞ぐ程じゃない。

伽月に点火と茶の用意を頼み、道具を手に箱に近付く。


「これ使え。」


ほい、と彼女の手に道具を渡す。

即座に中身を見て、空に翳す。

純粋に疑問に思ってだろうとはすぐに分かった。


「……なんじゃ、これは。」

「『盗賊神の悪戯』って通称の道具。 効能は確実に罠の解錠を成功させる。」

「は!?」


うるさ。

今度は距離が近いからか、耳がきんきんする。


「普段遣いするには勿体ない位の価値があるんだよ。

 ただ、箱が増えたんだったら使う価値がある。」


装備が更新できれば良し。

無理でも売れば、この程度の幽世の武具防具でも同価格くらいにはなる筈だ。

どう転んでも損だけはしない。


同時に出た箱が消える1戦闘分までは消耗せずに使えるはずだ。

 それを使って……こう、普段通りに罠を解錠するようにやってみてくれ。」


ふぅむ、と口にして。

眼の前で、そんな事を実行し。

数秒後に、また叫ばれることになる。


人の耳を壊すつもりか…………!?

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