031/宝物
「ご主人!」
「聞こえてるから叫ぶな!」
スタミナとか付けられる範囲で付けてるけどこちとら身体が出来上がっていない。
腰掛けて少しでも休みたくなる自分を何とか叱咤しつつ。
引き渡して戻ろうとした背後にもう一度向き直る。
「どうなんじゃこれ!?」
「……それより、その道具の使い勝手はどうだった?」
「勝手に開いて変な感じじゃったの。 それよりほれ。」
どんだけ期待してるんだ。
目を輝かせる白の手元を覗き込む。
「…………うわ。」
口が開いた瘴気箱の片割れには、何処まで深いのか良く分からない暗闇。
幾つかの武具と、恐らく頭部用の防具が見える。
そしてもう一つ、早く見ろとばかりに押し付ける中身。
此方は底が浅く、手を伸ばせば届く距離。
そして内側に転がっているのは唯の石のような形をした物体が7,8個。
――――そして、その物質が目に入った時。
全身が硬直したような錯覚を受けた。
(……嘘だろ。)
まだ伝手も何も無いのに手に入るのか?
豪運にも程がある――――いや、いっそ売ってしまえば。
いやいや、売ったら次いつ手に入るかすら分からないのに。
ただ準備を整えるには余裕なだけの業が手に入る。
「ご主人。」
「うお。」
没頭していた目の前に白の顔が映る。
……駄目だなぁ、悪い癖だと分かっていても中々直らん。
「また何やら考え事か?」
「あー……だな。 悪い。」
「今更じゃろ。 それで?」
三度目かよ。
まあ、俺が考え込んだってことから何か感じたんだろうが。
「あー……大当たりも大当たり。
唯、俺等向きかどうかは分からない、って答えでいいか?」
「…………?」
あ、白とリーフが全く同じ様に首を傾げてる。
多分これの価値が分かるのは……知り合いだと紫雨くらいか。
後は純粋な呪法師、神職。 そういった存在くらいだろうけど。
「説明するから焚き火の近くに行くぞ。
少しでも休まないとやってられねえ。」
行くぞ、と足を若干引きずるようにしながら戻る。
二人に箱を任せる形になってしまったが、その分先に戻って休める用意を。
思いっきり寛げるように、敷き布持ってきておいて正解だったな……。
荒れ地とかじゃ使えない安物でも、あるとないとじゃ全然違うだろうし。
「朔さん。 勝手に用意しちゃいましたけど……。」
と、そんなつもりだったが。
伽月が先んじて準備をしてくれていたらしい。
助かった、と告げて思い切り腰を落ち着ける。
一度小さく痛みが走るが、そんなことより足の関節と張った脚を休めるのが先だ。
「はぁ……。」
可能なら湯とかに浸かって解したいんだが。
街中だと銭湯のような広い湯はあるけど個人湯は殆どないんだよな。
その内、この世界にもあるようなら『秘湯』とかに行きたい。
こっそり生命力とか霊力とかに補正掛かるはずだし、あの辺。
まあ当然無理なので、薬湯を入れて貰っている間に脚を強く揉み解していれば。
「…………ごーしゅーじーんー。」
「…………あ、っと、っと!」
多分白は態と。
リーフはその流れに押し負けて。
数秒後、二人も同じ様に倒れ込み。
身体が崩れるように俺に接触。
ほんの少しだけ柔らかいような感触がしつつも、防具の硬質な部分が接触。
そのまま倒れ込みそうになるのを何とか気合で堪える。
地味な痛みがやってきたが、言葉に出なかっただけ良しとしたい。
「……皆、似たような感じですね。」
「緊張感が違いすぎるからな……。」
何かしら言うか、とも思ったが……伽月が笑っているのを見たらなんか気が抜けた。
俺が持ってこなかったのも悪いんだし、仕方ないから黙っておいてやろう。
珍しく傲慢な感情を覚えつつも。
背中からずり落ちた箱の中身……石を横目で眺める。
「……で、これに関してだったよな。」
「うむ。 早く言わんと投げつけるぞ。」
「やめろ馬鹿。」
価値が分かってないから言えるんだろうが、超高額の銭投げと同じなんだぞ。
……やらせるわけにも行かないし、早く説明してしまおう。
「瘴気が凝縮して塊になりすぎた物質……『宝珠』の原石だぞ。」
地面だったり火山近くだったり。
或いは珍しいタイプの幽世で発見される宝石とはまた別物。
瘴気が凝縮しないと出来ない宝石のような物質、故に宝珠。
希少度で言えばレアの中でも高めではあるが、最高レアまでは行かない。
ただ、今の深度では到底入手できない物質。
使い方は幾らでも。
例えば、これを消費しないと使えないような最上位呪法があるような始末。
ただ、今の俺達向けで言うなら――――。
「ほう……?」
「その内側を開けてみないと当たりかははっきりしねーけど。
簡単に言うなら増幅剤にして御守だよ。」
内側の色次第。
確か五行思想に則って赤青黄緑金に黒白、後は紫の8種類だっけか。
その属性の加速器であり、軽減するための盾であり。
回復/阻害の為の
純粋に呪法の身代わりになる使い捨ての無効用の道具でもある。
「……聞いた、こと……無い、です。」
「私は――――父が一度漏らしていたのを聞いた覚えが。」
「俺も街だと殆ど聞いた覚えない。
……まあ、先導者との付き合いが薄いのも原因だろうけど。」
仲介所いっても何の意味も無いしなぁ。
ただ、そうか。 これが手に入るなら……。
「最初に向かう場所、変えても良いかもな。」
「ほ?」
何となく考えていたのは西へ、という曖昧な考え。
その方向を正しく決めても良いのかもしれない。
まだまだ、先の話ではあるが。
「これをちゃんとした効果のある装飾品にするのに必要なのは二つ。
一つは
そして。
「もう一つは巫女か神主系……それも可能なら神職の血を受け継いだ能力者の儀式。」
回復役を探すこと。
その、探す場所。
「巫女の住まう地を目指す、ってのはどうだ?」
いまいち、決まらない状態ではあるが。
三人に、そう提案を投げた。
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