059/発現
体内でどくん、と何かが弾けた気がする。
目の奥、脳の中心。
肉体と言うよりは霊体……霊能力者としてのもう一つの存在。
触れられないものに触れる為に存在する物質。
仮の死から蘇ることが出来る最も有力な説。
ある一定以上の階位を重ねることで、その片鱗に触れることが出来る存在へ。
――――世界から、何かが与えられ。
――――世界へと、何かを刻み付けた気がする。
その一瞬だけは、『世界』と『俺達』が同じような。
比較さえもするものではなく。
当然出来るはずもない存在と、並び立った気がする。
(これ…………が、『血盟』か?)
ちかりちかりと光が明滅する。
落ち着こうと息をしようにも、どうにも息苦しくさえ感じて胸へ手を伸ばし。
けれど肉体が追いつかずに意識だけが先走る。
正しく、周りを見れているのか。
正しく、俺は其処に存在するのか。
本来抱く筈もない疑問と、幾度か見てしまった有り得ない光景が重なって見える。
……ああ、もしかすれば。
あの背だけが見えた『俺』は、こんな事を繰り返したから。
肉体では耐えきれない何かを背負い過ぎた故に――――。
「…………っは!?」
唐突に、意識が再動する。
気付けば身体が横倒しになっているし。
全員同じように倒れ伏し、目覚めたのもほぼ同時に思える。
「……今のは、何じゃ?」
「…………夢?」
「ではない…………悟りの前にあるという世界、でしょうか?」
「いやぁ……ボク達がそんなモノ見られるとも思えなくない?
悟りの真反対、どっぷり俗世に浸った先の強欲なら分かるけどさぁ」
「……たぶん。 母様達が見ていた、モノ?」
めいめい、見ていたものを口にする。
幾人か……というか全員だろうか。
見ていた光景が違う気がするのは気のせいなのだろうか。
(……ああ、こんなもん見るんだったら制限も必要だよな)
多分下手に手を伸ばせば《u》二度と目が醒めなくなる《/u》。
それをシステム的に再現したのが様々な制限、であるとするのなら。
ふと思うことが一つある。
(ひょっとして、在り方が逆なのか?)
ゲームの世界に降り立ったのではなく。
元々あった世界から干渉を受け、ゲームを作り上げた。
卵が先か鶏が先か、という逆転問題にしか成らず。
同時に答えを持つ相手もいないだろうから、重い頭を振って考えを追い払う。
「で、だ。 ご主人よ」
「ああ……手に入った能力に関してだよな」
求めていたもの。
対応するために、立ち向かうために得た無作為に選ばれる能力。
無論幾らかの効果は覚えているから、その中でも有用なモノを引いてくれることを祈る訳で。
(【窮地逆転】とかだと助かるんだがな……)
その能力名は常に四文字の漢字で表される。
例えば……相手と此方の階位差、能力値差に応じて補正が掛かるタイムアタック勢のお祈り能力、【窮地逆転】。
例えば……自身が使う道具の効果量・範囲・所持上限を常に倍増化・拡大・増大化する【倍倍倍化】。
有用なものしか発現せず、但し確実にこの舞台に有用と言い切れるかは未知数。
だから、少しだけ緊張しながらその能力へと目を通し。
「………………は?」
少しだけ固まった。
「どうした?」
「いや…………なんつーか……」
其処に記されていたのは、見覚えのない名前。
それ自体は良い、俺だって全部覚えてるわけじゃない。
関連性を付けて引っ張り出せることはあっても、そうじゃないものもある。
だから、忘れただけだろうと思うことだって出来る。
けれど。
>>【血】/『洽覧深識』/1/1/相手ヲ知リ、己ヲ知レ。
「説明文が短すぎる……」
というよりも説明にさえなっていない。
少なくとも俺はこんな四文字の漢字の意味は知らんのだが。
知識を武器にしろ……って意味でいいのか?
にしては何も分かってないんだが。
「はくらん……しんしき? でいいのか?」
読み方さえも分かってないから、能力としてさえ成り立ってないのだが。
各々が自分の写し鏡を見て、それに思いを馳せる中。
一つの声が対面上から挙がる。
「……あー。 これで多分『こうらん』だと思うよ~?
確か、『知識が深い人』みたいな意味だったと思う……?」
「……
ぼそり、と呟いたつもりだった。
特に何の理由もなく、もっと分かりやすくしろよと。
対策を練る根幹に据えるに相応しい能力なんだろうな、と。
幾つもの文句を込めた呟きのつもりだった。
「多分ご主人に引っ張られたんじゃろうなー」
「そんな気はする……が、白。 余計なこ、と……」
言葉を言い切る前に。
瞳に映ったのは、有り得ない光景。
「ご主人?」
心配そうに投げられた言葉に反応する余裕が消えていた。
左上から右下へ。
右上から左下へ。
幾度も移動する瞳に気付き、余計に心配そうな表情へと変わるのを認識しながら。
「……行ける」
「は?」
「発動条件を突き止められれば、対応できる。
理論上用意出来るものを全て準備できれば、多分一矢報いることは出来る」
地下のオモイカネに頼ることもなく。
――――神を、引き摺り落とせる。
「…………ご主人、何が見えた?」
「白の全て」
「は?」
「お前を構成する、現状の全ての情報」
状態異常への耐性率。
生命力・霊力の数値化された値。
武具に宿る特殊効果の、本来切り捨てられる小数点以下の割合まで。
――――情報という名の、武器を握った。
「……成る程な、こういう名前になるわけだ」
「それは良いが」
「んあ?」
「いつまで見てるんじゃ戯けぇ!?」
顔を真っ赤にして、殴り掛かられる光景まで後一秒未満。
……余計なものまで見えたんだが、どうなってんだこの血盟能力。
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