007/推測
「…………。」
ぱちりぱちりと着いたままの焚き火。
地面に文字を描いては、時々に枝を放り込む。
火が完全に消えないように継続しつつ、只管に考える。
(……何となくだが、見えてきたか。)
地面に書き殴っていたのは覚えている限りの事々。
既に何年もデータの補填を行っていないから若干曖昧になりつつもあるが。
文字通りに攻略勢の一人としてやり込み過ぎていた以上、忘れないことはある。
(とは言っても、此方方面の確率はあんまり追い掛けてた訳じゃねえのがな……。)
俺が特に突き詰めていたのは能力の発現に係わる部分。
そしてそれらを組み合わせた際のコンボ的な応用部分と、武具防具のドロップ掘り。
もうちょい言ってしまうなら戦闘寄りの攻略勢だった。
ヒロインや友人攻略、と言った部分のランダム性は飽く迄副産物として覚えた身。
だから必要になる道具とかの大雑把な知識はあるけれど、確率までは曖昧で。
自分で思い出せない部分は投げ捨てて、変な固定観念は放り捨て。
今起こっている事だけを考え続ける。
「…………朔、くん。」
「ぉ?」
ただ、そんな思考も。
目の前で声を掛けられれば一旦止めることくらいは出来る。
「……これ。 温かい、の。」
がちがりと頭を掻いていれば、目の前にことんと置かれた湯呑。
湯気が漂う内側からは嗅ぎ慣れた、彼女の……リーフの家特有の薬湯。
「悪い、助かる。」
「…………うぅん。 また、助けて……貰っちゃった。」
夜番として、先に俺とリーフ。
もう半分を残り三人として振り分けた。
普段であれば白と紫雨を同じにするのは危険だと思ったのだが。
『二人で話したい』と直談判されればそういう訳にも行かない。
「いや……それを言い出せば、俺が危険な事に直面させたようなもんだろ。」
「…………それでも、だよ。」
彼女も同じように隣に座る。
そして俺が書いていた地面のそれに目を向けるが……理解できてるかは微妙な所。
彼女自身には説明していないが、同じく三年過ごしてきた身だ。
何となく俺が特殊だ、という認識は持っているはず。
そしてそれに対し何も言わず、仲間として動いてくれていた事には頭が上がらない。
今も同じく。
俺自身の思考を整理する事を優先しているから、何も説明できないのがもどかしい。
仮に説明したとして――――理解して貰えるかは、完全に別物だろうが。
ただ、俺とリーフにも奇妙な繋がりがあることは否定できない。
内側に何かを宿している、という意味合いで。
目の前の湯呑に手を伸ばし、口に含む。
清涼な中に少しだけの甘み。
脳の疲労が和らいでいくような、飲み慣れた味。
「……今までが、運が良すぎた…………だけ、だから。』
一口二口を飲み込んでいれば、リーフが再び口を開いた。
彼女らしい声色で。
「え?」
けれど、その発言内容。
そして声から感じる圧力が、話の途中で急激に増した。
『…………気付いてる、でしょ?』
「……何に、だ?」
それを感じたのは、三年前。
リーフを口説き落とし、落ち着かせ。
仲間にしたあの時の、二階以来。
ただ、それは周囲を威圧するというよりは滲み出てしまうモノ。
以前のような何かを押し付けるようなものではなく。
話がしたいから、伝えたいから現れただけにも感じる。
ただ――――何故今?
そう思った矢先の言葉。
『…………何が起きてるか、だよ。』
え、という言葉が同時に聞こえた。
俺と、そしてリーフの口からも。
……ほぼ確実だとは思っていたが、内側の『何か』はリーフと別の意識を持つらしい。
俺のものとは、また別に。
「……知ってるのか?」
『直接は。 …………言えない、けど、ね。』
恐らく、地面に書いていたモノを見て判断された。
頭文字と、其処から派生する幾つかの確率。
それが意味するのはイベントの発生確率と、派生した結果の落書きだ。
少し前に白と紫雨から言われた言葉でほぼ確実視できたこと。
ただ、これを迂闊に口にして良いのかは悩んでいた。
そう結び付けられたのも俺だけが見えている糸があったからだし。
そして、夢で見てしまった幾つもの派生があったから。
然し……その答えを知っているのなら。
「……低確率の、
答え合わせをするには、丁度いいかもしれない。
実際に出来たとしても対応は出来ない。
ただ、警戒だけは出来る……そんな事を。
『…………やっぱり、凄いね。』
感心した口調。
それだけでほぼ正答だと判断する、が。
確証にまでは至らない。
「良いから教えてくれ。 ……どうなんだ?」
『……余り。 ワタシが言えることは、無いんだけど。』
これだけは、と。
重い、粘ついた言葉を動かすように言葉が届く。
『……ワタシ達以外が、発端だよ。』
その言葉だけで。
干渉。
糸。
断ち切ったこと。
それらが一つに結びついた。
俺達が切っ掛けではなく、他人が起因点。
恐らくは完全に完遂させるような何かではなく、『起こす』のみ。
そうでないのなら、俺達はあの街でとっくに捕まっていたはずだ。
つまり、あの糸は断ち切ることこそ正解で。
故に、周囲の起こす騒動に巻き込む形で処理しようとしてきた、という事。
……上手く言語化出来ないが。
明日、説明の時までに文章化しておこう。
「……分かった。 最後にだが。」
そうして、深い息を吐きながら。
最後の破片を与えてくれた、”それ”に語り掛ける。
本来は、こんな事をするつもりもなかったのだが。
『?』
「お前の、名前は?」
礼を告げるには、名前くらいは知っておきたい。
そう伝えれば。
普段のリーフとも違う、少しばかり年上の妖艶な表情で。
『…………次に会う時に、ね。』
くすくす、と超越者が告げるように。
するり、と手先から何かが逃げていく。
また会う、という。
約束だけを、向こうに握られた状態で。
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