070/分離
各個人に道具を分配した後。
特に霊力を消費することになる灯花が落ち着くのを待ち、全員で呪法陣へと移動する。
特に此処は倉庫という立地である他に、『閉じられていた』経歴を持つ。
色々と弄った事で、召喚した後……暫しの時間的猶予を設定できている筈。
言霊、という理論を相手が用いる――――神である以上。
此方も同様に、相手に対して有効な部分は活かさせて貰う。
『ふむ、ほぅむ』
特に、
記す方法としても問題なく成立している、と考えて良い。
”知識を与える”という名目の元に憑いてきている、と判断するのなら。
此方から問わなければ……という危険自体は常に付き纏うが。
ここはもうそういうリスクなのだと考え、踏み潰して処理する。
「灯花、準備は?」
「……は、はい。」
何より、この後に彼女は再度別の
その為の呪法陣自体は外に刻まれているし、その媒介となる存在も一応いるが。
俺が望む相手を降ろせるかどうか。
それ自体は実際の所、運頼りと言うか挑戦してみた結果を待つ他無い。
(……この部隊で確実に有効に働くのは俺くらいだろうが。
逆に言うなら、確実に一度は通せる裏技だろうし)
裏に伏せた札は何枚用意しておいても良い。
そして、思い出すのはほんの数日前。
俺だけが見える視点で見えてしまった、一つの文章。
アレが再度実行できるのだったら、仮に能力として取得していなくても再現は出来る。
後はもう信じるしか無いが……最後の手段として構える覚悟だけは出来ている。
すぅ、はぁと呼吸を繰り返し。
見るからに緊張している、最も幼い少女頼りというのは正直申し訳ないが。
今現在……いや、下手をすればこの世界中。
彼女以上に、この儀式に相応しい人物を探す方が難しいという事実がある以上。
背中を押し、守りつつも頼らざるを得ない事実は続いていく。
「全員、一応陣は機能してるとは思うが……。
周囲に衝撃が来ないとも限らん、その時はなんとか踏み止まってくれ」
それぞれが武具に手を掛け。
万が一の場合にはいきなりの戦い……時間稼ぎの戦いになることを伝えながら。
頷くのを見た上で、灯花の呼吸が整うのを確認した。
「……いきます。」
微かに声が震えているのが分かった。
とは言え、それ以上に何かが出来るわけではなく。
「――――
画面越しには一瞬で済んでいた。
実時間ともすれば、体感時間と実時間の差が確実に発生するだろう一幕。
その開幕は、小さな請願から始まった。
「――――我が身に宿る神よ、我が身と繋がる数多の神よ」
ずしん、と周囲が揺れたような気がし。
思わず周りを見回す伽月に紫雨、そして正面から目を離さない白にリーフ。
そんな全員を目線に捉えながら、後ろからも聞こえる声に耳を欹てる。
『もう入ったか。 この辺りはやはり血筋かね』
表情、外見とは裏腹に何処か老成とした声色。
女でありながら男、男でありながら女。
本来性別という観念からすれば、恐らく男の筈の知恵の神。
ただ、今だけは物珍しいものを見た時の少女のような色合いを含めていた。
「――――その在り方を私は否定し。
――――その在り方を私は受け入れる」
矛盾するような内容。
神を否定し、同時に肯定する。
それは、自身の内側の存在と外側の存在に向けての言霊。
不思議と、その内容に関して知識が深まっていく。
(……お前の影響か?)
『言ったろう、知恵を与えると。
切っ掛けさえあれば、宿主はワタシが持つ知識に接続する権限を得た』
ふとした疑問。
そしてそれに対しての返答。
やはり、聞けば答える……そんな単純な部分での契約は成立していると思って良い。
口約束程度で、と思う部分もあるが。
嘗ての世界、約定を交わすとしても当然に。
口頭で、言葉を介していたのは間違いなく。
故に、名を名乗った上での口約束はそのまま基礎原則として契約となった。
そう考えるのが多分正しく、故に言霊の内容も当然に理解していく。
「――――他と新たな契約を。 内と、契約の断絶を」
今口にしているのは、守護神との契約の基本部分を用いた神降ろし。
基本的に神とは一人一柱しか契約できず、その相手も選べない。
唯、それを選ぶ技術を持ち合わせるからこそ。
内側に潜んだ、彼女を蝕む神との契約を切る事を理由に目の前に呼び出し。
本来ならその上で互いに納得させることで成立する、加護破りの儀式。
その前提をひっくり返し。
陣の内に閉じ込め、『断絶』することで結ばれた契約の線を一時的に断ち切り。
新たな神を降ろしてしまうことで、戻る場所さえも奪い去る行動。
太陽神、天照大御神を呼び出した儀式とはまた別。
この世界だからこそ成立する、人が神を騙してしまう……そんな反逆論理。
それが成立するのもまた、この場所……龍脈の上だからに他ならない。
「――――故に。 今此処に降りよ、我が加護神」
普段の口調よりも大人びた雰囲気。
漂わせる気配は肉体年齢をゆうに倍はしたような濃密さ。
彼女が
「名を、黒闇天」
そんな彼女が口にしたのは。
己自身で調べ上げたのだろう、そんな名前の神だった。
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