063/変化


「それで……灯花。 前に言ってた浄化を含めた能力調整どうなってる?」


「あ……はい。 こんな感じ、です」


全員が食事を終えた後。

念の為に倉庫の入口を大きく開いたままで、其処に描かれたままの呪法陣を前に。

一度執り行いはした……けれど以降に確認していなかった能力の状況を確認し直せば。

特に警戒することもなく【写し鏡の呪法】を展開し、此方に向けてきた。


……余り見せるものでもない、というのをどれだけ理解しているのか。


言動でなく行動ぶつりで理解させるのが一番手っ取り早い気がしないでもないのだが。

それだけ信頼して貰えている……或いは頼られている、と思えば悪い気はしない。


ただ、外に出ても同じ状況を繰り返さないように後でもう一度言い直そう。

そう心に決めて、水鏡の画面を覗き込む。



『灯花/深度4』

『力』 『霊』 『体』 『速』 『渉』 『呪』

 1   6   6   1   1   6


能力スキル


未取得/0点

【血】 :『洽覧深識』 :1/1

/相手ヲ知リ、己ヲ知レ。

【無】 :『写し鏡の呪法』 :1/1

/自身の内側の情報を水鏡に映し出す簡易呪法。

【無】 :『知識:神々』 :1/3

/神々への知識・索引機能を得る。

【無】 :『龍ノ威光』 :1/5

/特定能力の制限解除。【領域変換】

【無】 :『清めの燈火』 :1/5

/物質・肉体を清める祈り。【呪詛無効】【浄化】

【風】 :『陽月の癒』 :3/3

/任意対象の生命力を癒やす。【単体】【回復】

 ┣  :『陰陽の灯』 :2/5

/生命回復量の増加。能力値増加に応じて増大。【回復】

【風】 :『陰月の光』 :1/5

/任意対象の生命力を癒やす。【全体】【回復】

【風】 :『新月の帳』 :2/3

/任意対象の肉体的異常を治癒する。【単体】【深度個数】

【風】 :『龍ノ加護:威風』 :1/5

/自陣への攻守加護を与える。【物理攻防】【龍脈】



「…………ほぅむ」


「え……な、なにか間違いました、か?」


「いや、俺の希望通りまんまにしたんだなぁ、って」


初期も初期、最初の割り振りのときに比べて深度も急激に増加している。

それだけあの戦闘連打が強制的な成長パワーレベリングに繋がったんだろう、という理解を浮かべ。

そして、その能力も極めて支援・回復役として特化……を通り越し。

恐らくはこの世界基準だと、いきなり一流に近い存在として名乗り出ていることに苦笑が浮かぶ。


その理由……その大きな理由はまぁ当然、彼女の持つ特異性。

前提条件を無視した能力取得により、部分にある。


例えば、【巫女】などの神職の家系でなければ取得できない【清めの燈火】。

彼女自身の名前とも被る部分が存在する浄化用の能力ではあるが、これの本質はもう一つある。

それは取得した時点で発動し、そして能力値を増加することでその数を増加させる【呪詛無効】という効果。


つまり、呪われる反面……効果量や特殊な効果を持つ装備を、というぶっ壊れ。

デメリットだけを受けず、メリットのみを受ける装備を最大五箇所に装備できると言えばヤバさが分かる。

この能力があるお陰で、先天的に物理攻撃職には適正の薄い神職が前衛を張れる側面がある。


例えば、本来であれば【陽月】【陰月】共に最大まで取得した上で取得可能になる【陰陽の灯】。

どのゲームにも、そしてどの能力系列にも存在する指定された分類の常時効果底上げ系列ではあるのだが。

問題は、この世界では細かい回復量まで具体的に理解出来る人員がどれだけいるのか、という話。


正直な所、突き詰めていった場合。

この手の回復能力は単体下級カンスト、上級の全回復を1止め。

それに加えて範囲下級・中級カンスト。

そして、【陰陽の灯】があればなのだが……。

その数値を具体的に観測出来る訳では無い。


故に、明らかに余分な部分が発生している――――というのが俺の読み。

少なくとも、今現在で進められる最大の方針を取っているのは間違いない。


そして、俺達が欲し。

彼女自身も半ば導かれるように選んだ、【結界】型支援バフ能力。

【龍脈】と付いた其れ等は、指定された場所でしか使えない名称で。


それを誤認させる能力もまた。

前提条件を無視して取得したことで問題なくどこでも使用できる。


それらを重ねての評価は『評価規格外』。

嘗ての画面越しであればそういうものだと飲み込めはしても。

今のこの身体からしてみれば、少しばかり苦味が浮かばないでもない。


(……はっきり言えば、俺達には勿体ないくらいなんだよなぁ)


首を傾げるのが半分。

少しだけ怯えるのが半分。


やはり、何処か小動物じみた反応を示す彼女を近くに寄せ。

事前に用意していた……俺の愛用品短刀を彼女に手渡す。


やだよ、結構金が掛かってる特注品でアレをぶっ刺すとか。

絶対呪いが短刀の方に移ってくるだろ。


「あの、なにか……?」


「いや……俺もまだまだだなぁ、ってさ」


はぁ、と理解していない言葉が聞こえてくるが。

肉体年齢で未だ齢二桁に達していない現状、未熟と言えば返るのは『当然』の言葉だろう。


「それより、それを浄化したら呪法陣を書ける範囲まで手直ししてくれ。

 その準備が終わり次第全員の確認。

 今日中に下の解放から灯花の守り神の入れ替えまで済ませたい」


実質的に、決戦を挑むのは明日早朝になるだろう。

それを言外に告げながら、確かに頷いた少女が陣の中央に刃を置き。

手を組み合わせながら、微かな言葉と共に祈りの言葉を唱え始める。


きちんとした場面なら、映像にでもなっているのかもしれない。

もしかすれば、この場に閉じられた従者の魂までもが浄化されているのかもしれない。

そんな益体もないことを幾らか想像しながら、彼女が汗びっしょりになるのを見届け。

ふらり、と倒れそうになった身体を後ろから支える形で終わりを告げる。


陣の中央。

介入する、と告げていた証なのか何なのか。

緑色に彩られた、刃一つをその場に残して。

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