008/悩み
「で――――。」
もう少し寝ると良い、と話を終えて。
彼女が再び眠った後のこと。
買い出しに出る前に意識を統一したく、集まった先はリーフの部屋。
「どう思った?」
中にこうして踏み込むのも何度目か。
恐らく両手の指で数えられる程度ではあるが、その度に色々と気になってしまう。
なし崩しに俺の部屋となっている客室とはまた違う、色々と女性っぽい飾りだったり。
少しだけ香る、薬草の残り香とか。
「なんじゃろうなぁ……大枠では嘘は無いと思う。」
「……です、ね。 話していない……話せない、というだけ、で。」
ただ、今はそんな事を気にしてる余裕はない。
俺自身、どうにも判断しにくいからこそ意見を聞きたいのもある。
だが二人も俺と似たような考えのようで。
「ただ、リーフは怪我見て貰ったから分かると思うが……あの傷と矛盾してるよな?」
「……そう、ですね。 妖から、受けた傷は。
どんなに小さく、ても……瘴気を、帯びます。
でも……。」
「瘴気が一切無かった?」
白の問いにはいえ、と首を横に振った。
怪我を受けた直後だったら兎も角。
時間が経つに連れて、能力者は無意識に肌の瘴気に霊力で対抗する。
これは放っておけば肌を蝕み、その部位が汚染され……悪影響が発生するのを防ぐ為。
だからこそ、怪我を与えたのが人か妖かは普通であれば判別可能な筈なのだ。
今回の場合は時間が経っているのにそれを嗅ぎ分けたリーフが優れている、という事。
「あの……鋼傷、と呼びますが。 其処以外、には微かに残って、いました。
ですから……戦っていない、ということは。 無いはず、です。」
「時間の経過幅までは分かるのかの?」
そう言われて、あの時の感覚を思い出すように目を伏せる。
霊力量が常に最大だからこそ、自身の減る霊力の量から概算化出来る。
十二分以上に特殊な能力に近い。
多分組合に漏らしたら連れて行かれるだろうな。
「細かくは、分かりませんが。
……ただ、今日見た限りでは……数日以内ではある、かと。」
「成程、なぁ。」
今日から数日前。
彼女を見つけた日数を考えると。
「ってことは倒れてから直ぐに俺達が見つけた……ってことだよな?
……そうなると、あの鋼傷をいつ付けられたのかが問題か。」
恐らく妖と人、どちらが先かは余り考えなくて良い。
最終的に倒れ伏したという結果のみが重要で、それ以外の部分であれば。
危険な存在が複数いる、という前提の共有は必要と言ったくらいか。
……にしては、道中で誰かを見掛けた覚えもないんだが。
「……まあ現状は良いとしよう。 それで?」
「放流するかどうか、って意味でいいか?」
「うむ。 吾としてはこのまま手綱を離してしまうのは危険だと思うが。」
……まあ、俺等に迷惑を掛けるようなタイプじゃなさそうなんだけどなぁ。
事情を知るためだけに同行させるか?
にしては何が出来るかを確認できなきゃ怖くて仕方ない。
こういう時、写し鏡で見せるかどうかはある種の基準に出来るから便利だよな。
「俺としては、向こうが素直に能力を見せるなら暫く同行させて良いと思う。
まあ、伽月が求めた上で……って前提だけどな。」
「……私は……そう、ですね。 あまり怖い人では、無い、ので。」
基本は問題なし、と。
なら、此処からは何もなければ。
俺の警戒しすぎとして笑い話で済むライン。
「なら、リーフ。」
「は、はい。」
「彼女が俺等に与える影響を占ってくれるか?」
え、と言葉が二つ。
白とリーフとで、ほぼ同時に言葉が漏れる。
「占いを……です、か?」
「ご主人。 良いのか?」
使用を可能な限り封じよう、と提案したのは俺から。
そしてそれを受け入れたのはリーフ。
全ての場所で同席していた白も当然、その言葉を知っている。
今までの3年間で、これを解禁したのはたったの3回。
山賊に襲われた時。
幽世の中が変異し、内部で記録が役に立たなくなった時。
そして、ルイスさんが酷い流行病に掛かった時。
それに類する状態だと判断した、ということ。
「完全に頼り切るのは不味いだろうが、今回は特殊過ぎる。
ある程度の方針……大まかな影響だけでも判断基準にしたい。」
仲間を探すにしろ、本来は『ゲームに存在したキャラ』を探そうとしていて。
けれど誰も発見できず、父上に聞いた所『紹介できる相手はいない』とも言われ。
どうしたものか、と悩んでいた矢先にこの遭遇。
……道端で見つける、拾うヒロインとか覚えがないからなぁ。
知識優先で考えると失敗する、というのは経験してきていても。
仲間に関しては、警戒しすぎるくらいで丁度いいと俺は思ってる。
「……分かりました。 少し、待ってください。」
「……悪いな。」
「いえ。 ……頼まれるのも、嬉しいん、ですよ?」
小さく微笑んだ上で。
腰からカード……占いに用いるらしい束を引き出し手元に置く。
大アルカナ――但し絵柄はゲーム仕様に変わっている――のみを用いる占い。
小アルカナのような細かいものまで採用しなかったのは、戦闘時の効果を考えてだろうか。
目を瞑り。
大きく、深い深呼吸を繰り返し内面へ沈む。
内側の『だれか』に切り替わる時に行う儀式のような形。
夢を見るように、意識を切り替える。
「――――。」
がくり、と。
急に顔を上へと上げる。
「……入った。」
言葉として、漏れた。
けれど今回は俺へは一切反応しない。
目の前の束の、裏返しにされた中から一枚を選び出し。
指でくるくると回転させ――――ある程度のところで表裏を入れ替える。
そして、それに合わせて彼女の意識も元へ戻る。
たったこれだけの占い。
けれど、短期間に繰り返す程に”戻る”までに時間が掛かるのだという。
それもあって普段は使わせないようにしているのだが……。
「……出ました。 ”正義の正位置”、です。」
「……結果は?」
捲られたのは、天秤のような形が象られたカード。
俺の曖昧な知識だと、良い効果だったことくらいしか覚えてない。
だから専門家にこそ尋ねれば。
「”正しい判断””正しい終着点”。 ……間違い、では無い……みたい、です、ね?」
「……拾って正解ではあった、ってことか。」
三者三様に。
息が、漏れた。
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