007/対話


準備を済ませ、食事を取って。

その後で二階へと向かい。


「……ふぅ。」


木匙がかつん、と音を鳴らす。

少しだけ熱いかな、と思わないでもない粥の提供。

ただそれがほんの一瞬で無くなるとは思わなかった。

それだけ空腹だったということなのか、早喰いが習慣付いているのか。


「いや、早いの。」


ついつい白が口にしてしまう程で。

リーフが少しだけ驚きに目を開いて。

俺は……表面には出さなかったと思いたい。


足元、寝床から少しだけ離れた場所に食器を置き。

身体毎向き直った上で、丁寧なお辞儀……土下座に近い体勢を取って一礼。


「……改めて。 先ずは感謝を。」


ある程度想定はしていたし、白にも伝えていたが。

動作一つ一つが綺麗に見える。

身体を使うのに慣れているようには思える、そんな少女。

未だ汚れが付いた部分が多少無くもないが、それでもこうして落ち着けば輝きは見える。


白が妖しさを混ぜた少女、リーフが保護欲を感じさせる少女とするなら。

目の前の彼女は、一振りの刀……弱さと強さを併せ持っているように


「いや、それに関しては何らかの形で返してもらえば良い。

 それより……事情を聞いても良いか?」


礼だけでは済まさない、という此方の意見を提示して。

当然ですね、と頷いた上で。


「現状助けられた身で言うのもなんですが……個人的な部分もあります。

 言える範囲で、という形でも宜しいですか?」

「今はそれでも。 信用出来たら教えてくれ。」


当然です、と頷き合う。

二人に目線を向ければ、どちらも微かに頷く。

俺が表立って進めて良い、と判断する。


「では……ああ、先ずは自己紹介からですね。

 わたくし伽月かづきと申します。」

「伽月……ね。 俺は朔。 此方が白で此方がリーフ。」


左右に並ぶ彼女達と俺自身の名前も続けて紹介する。

取り敢えずこれで”何と呼んで良いのか問題”は解決した。

今まであの病人、とか拾ってきたの、とかだったし。


「宜しくの。」

「……宜しく。」

「はい、宜しくお願いします。 それと……色々と有難うございました。」


同性故、というのは絶対あると思うが。

俺に対してよりも少しだけ柔らかく見える。

別にどうこうというつもりはないが、少しだけ嫌な気分になるのは否めない。


「それで伽月とやら。 聞かせて貰えるかの?」

「はい。」


改めて姿勢を正した。

きちんとした正座……とでも言えば良いのか。

足を崩すことはなく、ぴんと背筋が立った状態。

俺が胡座だったりする中で、そんな姿勢を取るのは彼女と白だけ。

少しだけ恥ずかしくなったが……足痛くなるから苦手だし、やらないでいいか。


「とは言っても……大凡予想は出来ていると思われますが。

 村から出て此方に向かう途中、少々……不覚を取りました。」

「何と戦った?」

「妖です。 ……こう、羽根があって。 鳥系の。」


それだけだと幾らでも候補がいるんだが。

以津真天とか姑獲鳥とかか……?

でもそんなの近くの幽世にいなかったはず。


「幽世の外で?」

「はい。」


……何処かから流れてきたか?

目を見ても嘘には思えない。

つまり交戦したのは間違いない、としておこう。

そして打ち漏らした、というのも真実としておく。


「……分かった、気をつけよう。」

「あの場所に隠れていたのは薬が効くまでの避難場所的に、ですね。

 その……万が一を考えて、ですけれど。」


最低限の知識はある。

つまり村から追い出されたり自分を特別だと思い込んでるタイプではない。


……となると、一つ疑問がある。

そいつ等の場合、彼女が負っていた大きな傷の理由が付かない。

きちんと見た訳では無いが、アレはの部類だ。

つまり相手は人型か、或いは人そのものの筈。

それを伏せる?


「…………。」

「……あの、えっと。 朔様?」


少しだけ思考に浸ってしまえば。

訝しんだのか、或いは居心地が悪かっただけか。

俺には相応しくない敬称付きでそう呼ばれる。


「あ、すまん。」

「いえ……。」


どうする? もう少し追求するか?

ただ、何をするにしても現状の彼女では何も出来ないはずだ。

刀も無い、体術のみで突き進むにも不安が残る。

恐らくその辺りが分かっていて街を目指していた?


……駄目だな、答えが結び付かない。

そもそも何処出身なのかも分からない以上、解答も出せないか。

山の中を放浪していた、というのなら迷って変な場所に出た結果も考えられるし。


普段は使わない、使わせていないリーフの占術に頼る必要も出てくるが。

3人に相談して決めるとしよう。


「……まあ分かった。 今後はどうするつもりだ?」

「先ずは仲間を探そうとは思っています。」


……ふぅむ。

上から下まで一回眺めて。


「失礼とは思うが教えてくれ。 成人してるか?」

「? いえ……そう見えますか?」

「逆だ。 見えないから言ってる。」


どういうことでしょう、と首を捻っている。

まさか知らない?

……知識が中途半端なのか?


「多分仲間を探すって事は組合所属の何処かに出向くと思うが。」

「はい。」


頷いてる。

組合の存在は知ってるんだな。


「成人してなきゃまともに相手されないぞ。」

「えっ。」


いや、えっと言われても。

急に真顔に。


「……そうなんですか?」

「何でその知識が抜けてるんだよ!?」


……これ、俺が教えるのか?

なし崩しに色々事情に巻きこまれそうなんだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る