048/母親
手元が少しだけ明るくなり。
合わせて表情も少しだけ和らぎ、笑みを浮かべる。
効果時間内であっても、同じ深度であっても。
繰り返し行うことで術部を特定することくらいは出来る。
そういった意味での”経験”はやはり重要で。
恐らくは単純な深度を上げる以外での回復量の違いは、こういった知識から生まれている。
「……ぁぁ、楽になった」
ほ、っと口から漏れた感情。
具体的に何処が悪いのか、その辺の知識は医師か薬師でもなければ持ち合わせず。
リーフが相当悪い、と告げている時点で長期の療養は確実に必要な現状。
娘には言えないだけで、かなりの部分を我慢しているものと見受けられる。
「だいじょうぶ? お母様。」
「ええ、灯花のお陰で」
綺麗、というよりは元は可愛らしい寄りの女性に見えた。
今は頬も大分窶れ、身体も細く色々な病を背負っていても不思議ではなく。
けれどその眼光と、目元の辺りが確かに灯花との血の繋がりを感じさせる人。
「ええっと……すいません、話をしても?」
そんな親子の会話に割り込んでしまう。
これが末期の会話であるのならそのままにさせたが。
それを防ぐための行動である以上は、後回しにして此方の都合を通させて貰う。
「ええ……勿論です」
そして、その都合は彼女達も理解している。
いや、というよりも彼女達のほうが余程羨望している、という方が正しいか。
故に、その瞳に映っているのは親子共々同じ。
何が何でも抜け出る、という決意の炎に親しい何か。
「その前に、改めて。 灯花の母、
「朔です。 ええっと、今は娘さんと協力関係にある駆け出しの霊能力者です」
布団を纏いながらではあるが深々と一礼。
こんな格好で失礼します、と言いつつも姿勢は一本筋が通っている。
生まれた時から礼儀作法を叩き込まれ続けてきた結果、と察することくらいは出来た。
「それで、早速ですが……灯花さんからお話は?」
本来ならば向き合うのも難しい身分の相手。
ゲームでは既に死去していたから、存在が薄ぼんやりと語られるだけの相手。
しかしこうして相対してみると、纏う雰囲気からして一般人とは異なる何かを持っている。
その一部が娘に引き継がれた……というのもあながち間違っていないはずだ。
「はい、幾らかは。 この御守りと……色々と情報を、でしたよね」
差し出された護符。
受け取り、表裏を確認してから右手側に一度置かせて貰う。
筆で描かれた印も大分擦り切れ、手に持っても目で見ても何も感じない。
ただ、嘗ては強力な効果を持っていたのだと。
確かに感じさせる霊的な重みがあった。
「確かに。 灯花、後でこの意匠をどうにか織り込めないか検討しよう」
「……この、護符のですか?」
ああ、と再度告げる。
「一度言ったと思うが、この護符は御母上様の持ち物であると同時。
お前の本来の血脈を護る守護神としての意味もあると思う。
今回のやることを考えれば、有利になりこそすれ不利には絶対ならんと思う」
今こうして改めて分かったことも付け加える。
個人を守護する神なのか、或いは血族を護るような神なのか。
そんな知識は全く足りていないが、親子何方にも影響を与えている以上。
動ける状態を作り上げることが出来れば、多少は足止めにもなるだろう。
「そう……ですか。」
「随分とお詳しいんです、ね?」
そんな指摘に一瞬身体が固まる。
あ、と言葉が漏れそうになった。
……そうだよな、親からすれば普通に怪しむのが当然だよな。
今までが特殊すぎただけに普通に話してしまっていた。
「色々と俺にも事情がありまして。
此処から出られたら……話す機会があるかもしれません」
「……そうですね。 今はそちらが先ですね」
御母上様……怜花さんに話すかどうか。
その時は仲間全員に告げるのと同じにしたい。
まあ後回しだ後回し、考えるな今はそんな事。
「では、改めて。
……色々と、この中を調べた結果と灯花からの情報を取り纏めました。
貴女だけなら、この空間から脱出も出来るんですよね?」
「はい。 ……とは言っても、今はこんな身体ですが」
まず第一の確認。
灯花の言っていたことが間違っていたとは思わないが、改めて二人から確証が取れた。
つまり『条件が二つある』で確定。
「次は、話せる内容か分からないのですけど。
此処に閉じ込められた……やってきた理由に関しては、教えて頂けますか?」
血脈の高貴さに関しての情報を知っているから遠回しに。
そして、この事態が『事故』なのかの確認も含めて。
「……」
一度、ちらりと灯花を見つめ。
「私は……いえ、私と兄が禁忌を侵したから。
けれど、兄は護ってくれようとしていました。」
語られるのは、ゲームでも説明されていなかった裏事情。
ただ、娘に話すには結構きつい内容というのも有り……若干誤魔化しながらではあった。
此処に追い払われたのは兄の命令、というわけでもなく。
神職の二大派閥の片割れ、『神具派』の画策に依るものだという。
まあ言いたいことは分かる。
もし仮に、最も濃い血を自分の派閥に取り入れようと動いてでもいたのなら。
兄妹間の蜜事の結果、それが台無しにでもなったのなら。
どうなろうと構わない、と考えるバカが出てもおかしくはない。
果たして、それが成功してしまった結果が今。
その全てを告げるのに、たっぷり五分ほどは語り続け。
――――けれどやはり、灯花自身には何のことだか分かっていない様子だった。
「話しにくい事を……有難う御座います」
「いえ。 どうせ他には漏らせないことですから」
……まあ、そうだよな。
漏らせば普通に刺客とか放たれるようなことだから俺も漏らすわけがない。
此方の命を天秤に強制的に載せながらの会話。
只の一個人でしかないのだし、会話術で敵うとは到底思えない。
「では、この廃神社はその……『神具派』の拠点、と考えても?」
「だと思います。 此処に来る上で、傍仕えも殆どが切り離されましたから」
と、なると……此処までの騒動に発展してしまったのか。
或いはさせたのかまでは決定視出来ないか。
何処かからじっとこの周囲を見張っている、というのは考えられる範囲だ。
「……そして、一つ。
今も灯花と私、そして貴方達を蝕むこの場所を司る神について。
私なりの推測があります――――お聞きに、なられますか?」
「無論」
そんな俺達の会話の横で。
灯花が、話について来れずに涙目になっているのを見逃す俺でもなかったが。
悪い、後回しだ。
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