049/守護


「……聞くまでも無いことでしたね」


怜花さんの言葉に覆い被さるようにして答えたからか。

若干の苦笑いを浮かべ、そしてすぐに元の顔へと戻る。

俺自身も恥ずかしさを纏いながら、けれど情報を求めて先を促し。

灯花は俺達の顔を交互に見ては、反応を待つように座り込んだまま。


「まあ……良いんじゃないですかね?」


無駄な時間はお互い省くが。

それは言い換えれば、必要がある時間は当たり前に取り合う、ということだ。

目線の端の少女を、親の目線で見つめるくらいは別に大したことじゃない。

そして、それを待てる……理解できる人間として認識させるにも丁度良い。


「そう言ってくれますか?」

「当然でしょう?」


……腹の探り合いに慣れてしまっているのが、こうも役に立つとは。

嘗ては嫌で嫌で仕方なかったことだったが、まあ使えるなら使うだけか。


お互い目で笑っているような、そうでもないような。

生半可な相手じゃない、という理解と。

ある程度以上の信用が置ける相手、というのは恐らく互いの認識として認めつつある。


「話、戻しませんか?」

「そうですね」


この短時間で、と疑われればそれも分かる。


ただ、似た相手だとこんな少しの会話で認めてしまったから。

言葉が足りなければ視線の違いから答えはブレても。

事前の認識が同じなら、恐らく似たような推測まで導き出せる人。

そんな相手だと、俺は彼女を認識した。


「それで……私の推測ですが」


こほんと一度敢えて咳をし。

灯花が佇まいを整え直すのを確認してから、彼女は再度話し始める。


「恐らくこの騒動の全ての大元には、『神具派』が関わっています」


……………………ん?


「それは……」

「此処に私達が閉じ込められたのも。

 何かが暴走し、妙な効果の檻に閉じられたのも。

 …………そして、のもそうでしょう。」


酷く当たり前のことでは、と言おうとした言葉に被せられ。

凛とした、部屋の中全てに響くような声色に声を押し留め。

そして、最後の一文に目を見開く。


「守護神を弄った……?」

「おかあさま、それは一体?」


自分自身の名前が出たからか。

思わず灯花も口を出し、けれど目線で押し黙らせられてしまう。


待て待て、落ち着け。

そもそもの話、此処にやってくる切掛になったのが灯花を妊娠したからだよな。

それ自体は別に男女間の話だし、何も口出すつもりはない。

ただ。


から、ということですよね?」

「ええ。 元々、幹部以上の神職には一人に付き一柱の守護神が宿る取り決めがあります。

 元々宿していなかった場合――――或いは悪神だった場合。

 それらを入れ替える呪法、儀式の知識を持っているのがあの派閥ですから」


……次から次に出る新事実。


とは言え、今直ぐ知らなければならない知識は然程多いわけではない。

ほぼ確定したのは、二大派閥の片割れは俺の目線からしても『敵』だということ。

そして、守護する神を入れ替える方法がこの世界にも存在する、という確かな証明。


ゲームの頃なら、特定の場所でのみ行えた方法。

後天的に霊能力の才能なんかを弄くる、エンドコンテンツとしての役割を担った設定。

それが今、はっきりと口に出された。


「……此処までは分かりました。 ただ、疑問が幾つか」

「どうぞ」


――――ただ、話を聞く中で明らかな疑問。

そして、『ある程度任意に入れ替えられる』という。

リーフともまた違う、恐らくは彼女の血筋だけが持つ特性に関しても確認する。


「灯花が生まれる前からそのような儀式をして、気付かなかったので?」

「正確に言うならば陣を描くような儀式でなく、室内に閉じ籠もり行う祈祷です。

 必要なモノは『器の名』『呪文』『神の名前』『呼び寄せる媒介』……辺りだった筈です」


……ああ、加持祈祷という意味合いの儀式か。

そう考えると、あの地下のあの部屋はその儀式室を模している可能性もありそうだ。

器として不相応な部分を他の部分で補う、というイメージ。


「邪法については余り聞かずにおきます。

 ……では、次。 神を複数その身体に収められますかね?」


もしこれが通るなら、少しだけ方向を変えられる可能性が生まれる。

そして、この言葉だけで何をしようとしているのか薄っすらとでも判断してくれたと思いたい。

『神を入れ替えられる』という情報を、たった今自分で吐き出したのだから。


「……灯花ならば、一時は恐らく大丈夫だと思います。

 この子は私達に分けられた血を更に濃くした、体質としての天才です。

 ただ……それでも、力を使おうとすれば先に使ったほうが優先されるでしょうね」


……目線が、少し重力を増したのが分かった。


若干の願望を込めているような声色。

ただ、それでも自分の事を俯瞰した上で口にした、と判断する。

なら。

やれるかどうかは別として、先に意思確認だけは済ませておく。


「灯花、恐らく結構な負担を掛けることになる。

 それでも、今後を考えれば出来れば今済ませておいた方がいい事だと俺は判断する。

 今と先、何方を取る」


今度は目線を彼女へ。

刺さるように向けられた冷たい目線が頬に。

そして、それを意識して無視する。


「え、えっと……何を?」


この中で、唯一理解していない少女。

彼女に噛み砕くように、どう説明するかだが……。


「今呪法陣の準備してるよな?」

「はい。」

「これは、『お前の身体に宿っている』って縁も集めることで効果を発揮する。

 言い換えると、お前を護る……守護神は一時的にいなくなる、ってことだ。」

「……そう、です、ね?」


おっと、この辺から付いてこれなくなったか。

まあ後ちょっとだから頑張れ。


「これを利用して、結界に閉じ込めてる間にお前の守護神を別の神に切り替える。

 しつこく粘ろうとするのを断ち切る、ってことだ」


無論断って貰っても構わない。

それなら一時的に守り神がいない状態が出来るだけ。

一部の能力や回復呪法の効き目が落ちるくらいで済む筈……多分。

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