050/確認
ずるり、ずるりと音がする。
昨日と同じ物音で目が覚める。
「ふぁぁ……」
少しずつ覚める頭と思考。
妙に張り付いた目やにを拭い、少なくなった水を飲み干した。
(……疲れる程活動してもないのに、異様に疲れてる気がする。)
話し合い、というよりは突き詰め合いか。
お互いが握った情報、考え方、見逃しがないか。
そういった物を只管に話し合う事約一刻。
結局食事を告げる連絡が来るまで延々と話し続け。
途中から完全に置いていかれていた灯花だが、離れることも出来ず。
全てが終わって一段落……とする余裕もなく。
そのまま眠って気付けば翌日今の時間。
仲間内の中で誰よりも早く。
正確に言うなら灯花と共に眠りについていたから、恐らく起きるのも彼女と同じ。
他の四人はもう少し起きていて何かをやっていたようで。
その痕跡が彼方此方に残ったままに、全員が眠ったままの様子というのもあって。
上に羽織った布を畳み、もう一度欠伸を浮かべてから穴へと飛び込む。
「お」
「あ……おはよう、ございます。 お兄様。」
「その呼び方は変わらないんだな……?」
御母上様の部屋の方を向けば、ほぼ同時のタイミングで降りる彼女と目が合った。
どうやら少し早く起き、その分を治療に回していたらしい。
……ひょっとすると眠れなかった、という可能性だってあるが。
あまり気にしないことにする。
「……だめ、です?」
「いやもう諦めたって言ったろ。 ああ、朝食はまだ先だからな?」
「わかってます!」
一瞬ふにゃり、と表情が和らいだが直ぐに怒り始める。
やっぱり朝飯の話題いきなり出したのが悪かったか?
「で、灯花。 外の音が消えたら浄化してるアレ確認しに行きたいんだが」
「あ、そうです、よね。」
「結局昨日確認できなかったからな……彼処まで話がし易いと思ってなかった」
予定がブレた、という意味では間違いなく痛手。
ただ得た情報の重要度を鑑みるとなんとも言い難い。
灯花に宿る守護神を切り替える、という新たな方針が見えた以上。
地下の……恐らくは暴走し続けている神と話が可能ならば。
彼女に宿すに相応しい存在なんじゃないだろうか、という考え。
(……回復キャラ、として考えるならこれほど有用な神もいないしなぁ。)
常世に関係する相手である以上、反魂や現世に留まる為の手札にも長けている。
怜花さんにも(若干ボカして)聞いてみたところ。
今の状態は器が暴走しているのだろう、という知見も貰った。
抑え込めるだけの力が足りていない存在を降ろした事による弊害。
悪神ならば既に神社を破壊していただろう、という意見に俺も賛同できる。
今もこうしてあの場に留まり続けるのも、結界に似た効果と後は神自身が持つ善性から。
交渉の難易度は相応に高いが、最悪でも帰って貰えば済むこと……ではあるんだよな。
出来るかどうかじゃなく、もうそれはやるしか無いことなんだけど。
「……とうかも、お母様とお兄様があんなになるとは思いませんでしたから。」
「言ってること色々おかしいけど実情は正しいんだよなぁ」
生まれた時からずっと一緒の母親と、出会って数日の兄。
色々おかしすぎるが、義兄と考えれば普通なのか?
考えれば混乱してくる。
「まあ、動けるなら良い。 倉庫まで行くぞ」
「はい。」
頭を振って、その場で一回転。
もうこんな行動にも慣れてきてしまっているし、早く脱出したい。
その為に決行するのは明日か明後日。
今日はその為に最終チェックを行う大事な日。
なにか一つであっても見逃す訳にはいかない。
ずるり、という物音はいつの間にか消えて。
来る時にあれ程目の邪魔になっていた糸も見えなくなっていた。
それは俺の眼の異常……というわけでは当然なく。
今までに取ってきた行動一つ一つが小さくとも積み重なった結果だと、俺は信じている。
頭だけを穴から突き出し、淡い朝日に包まれ始めた神社の中を確認できる限りで見回す。
妖やら阻害やら、邪魔するような相手は誰一人として見えず。
ただ、倉庫の上……上空辺りに奇妙な煙のようなモノが立ち上っているように見受けられる。
「灯花。 あの煙っぽいの、浄化してるからか?」
「……たぶん、そうです。 昨日は気付きませんでしたけど。」
後ろからひょっこりと顔を覗かせたので、指を向け同じ方向を確認させる。
彼女となら同じ光景を共有できる、と思っての問い掛けだったが。
やはり実行者だからなのか、或いは”禁忌”を共有するからなのか。
見えているものは同じらしい。
「朝だから……ってわけじゃないよな?」
「はい。 多分、色々と剥がせた……浄化出来たから見えてるんだと。」
ああ、成程。
あの黒いのは発見されないようにするだけじゃなく。
周囲に悪影響を及ばさないように封印していたんだと解釈している。
その悪影響の部分が全て溶けて消えたからこそ、本質部分が浄化されているのが見える、と。
ってことはゲーム版でも呪われた装備の浄化の時はこういうの見えてたのかもな。
「なら安心した」
「なにをおそれてたんですか?」
「倉庫の中が呪詛でいっぱいいっぱいになってる光景」
浄化されたものが消え切らずに残ってる、だなんて馬鹿げた光景。
浄化に失敗する、なんて不運があればあったかもしれない。
「……やめてください。」
「すまん、俺も言ってて嫌になってきた」
顔を顰めた灯花。
それに釣られるように俺も浮かべながら、やや早足で倉庫前へ。
閉じられた扉を頷き合い、開く。
少しだけ警戒していた、内側から溢れる妖気はまるでなく。
地面に白墨で描かれた浄化の陣の上に、昨日彼女が言っていた白い物体が一つ置かれている。
「…………ああ、うん」
「でしょう?」
確かに。
こりゃ白骨……頭蓋骨だわな。
それも、材料として扱えるように弄くられた。
誰か、人間のモノ。
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