004/幻想視


「はぁ……。」


やや急ぎ足で移動して、漸く着いた宿場町。

立地上、どうしても超能力者と一般人が混合する場所。

故に治安が良い、とは言い切れない場所。


(此処も下手に出歩くと罠だらけだからなー……まだ未成人だから起動しない筈だけど。)


全員個別の部屋を借りる程余裕があるわけでもなく。

そして湯女なんかを利用するわけもない。

唯でさえ人数を絞っているのか、店員の数も店主程度しかおらず。

そちらも俺達が宿に入ってからは姿を見せなくなっていた。


(忙しいんだろうな、多分。)


ただ、お湯を利用して汗を流すくらいは出来るので女子は全員でそちらに向かい。

俺は桶に貰った湯で身体を拭く程度で済ませた。


本来なら(簡易呪法とかを利用して)ゆっくり浸かりたいところだが……。


(多分、今その辺利用すると面倒事になるからなぁ。)


俺も俺もと他の超能力者が寄ってくる。

便利に使い倒そう、と考える奴等が現れる。

そんな面倒事な不定期事象ランダムイベントを思い出す。


発動条件は……あー、なんだっけ。

血盟結んでない状態で部隊に一人以上の空きがある、だったような気がする。


それを防ぐ意味でも、実行してしまうのは考慮の一つだったが……。

リスクとメリットの可能性を考えて、此方の天秤に重しが乗ったと言うだけの話。

そして、それがまず発生するだろうという確信……いや、からこそ言えること。


(便利ではあるけどまともに使えるもんでもない……確率頼りの能力は好きじゃないんだがな。)


はぁ、と息を吐きながら片目を手で覆いつつ目を瞑る。


あの日、あの変な夢と共に急に生えてきた【禁忌】指定の派生能力……『彼方ノ幻想視』。

それを手に入れてから数日、大雑把というよりは推測ではあるがこの能力についての知見を深めていた。


発生基点は夢の中。

俺が眠っている間、意識を失っている間に勝手に発動する。

発動回数は複数回で消耗は無いが、夢と現実を混同しかねないというのは確かに禁忌と言う名に相応しいと思う。


そして、この能力の効果……『あり得ざる世界』と言うのは、恐らく『発生する可能性のある世界』を指している。

必ず発生する、だとか変更しなければこうなる、では無いのが厄介な点。


喩えるなら、明日の当初の予定……普通に進もうと思っていた街道を進んでいた場合。

幾つか見たモノの中で、山賊に襲われた夢の回数は

残りの三回は問題なく通過出来、その先でトラブルに巻き込まれる可能性が2/3回。


(実際、妙なイベントが発生するってのは俺自身が良く知ってる事なんだが……。

 発生頻度も、巻き込まれる回数も多すぎるんだよな。)


一人も大人がいないから発生頻度が増える、のは分かってる。

システム的にも発生率が上がる、って処理をされるのも分かる。

ただ、それにしても巻き込まれる可能性が高すぎる。


それを夢で察知できる――――先のイベントを見知れる、という意味では極大に有利で。

見れる時間が、出来事が不明瞭に飛んだりする、という意味では役に立たない。

恐らくは慣れるなり制御出来れば更に優位性は上がるんだろうが……。

問題は、これを与えた『俺』の意図か。


(……確か、餞別とか言ってたよな? 後は見えてしまった、とか。)


言葉が足りないのは俺も彼奴も同じこと。

其処から拾い上げ、足りない情報の部分は開けたままで考えを纏める。


……先ず、『見えてしまった』ってのは多分あの糸に関してだと思う。

夢のことを指しているのかとも思ったが、それにしては順番が前後している。

未来のことを夢で見る、だなんて下手に口走ったら笑われるもんな……。

『巫女』とか、その手の血を継いでいて能力が目覚めてるなら兎も角として。


(そうだ、あの糸に関しても――――。)


あの茶屋で見たモノ。

巫女に関して話した時に、白に見えていたモノ。

恐らく、アレは何方も同じモノだと直感が囁いている。

ただ、払ってもまた繋がっているという疑問と。

何故払えているのか、という部分に関しては疑問のまま。


俺以外の誰にも見えていない、という時点で何かが異常。

『狩る者の眼差し』にしても、能力としては取得しやすい範囲内。

取ることが基点で発生するイベントにも思い当たらない、純戦闘向けの能力の筈。


『五感の拡張』だからこそ――――そんな事を、『俺』も言っていたが。


(幽世の中で見える画面もそうだが、全く答えに繋がらないんだよな。)


唯一他と違うと言い切れるのは、俺が持つ良く分からない知識。

この世界の内側として生きているこの目線と。

この世界を外から眺めていた、別の視点と。

それらを共有して、混同して持っているという位。


「別の意識、ねえ。」


思考がついつい言葉として漏れる。


俺の一族に発生していたらしい、妖との関わり。

何となく俺はそれを突破した、と思っているし今のところ異常も起こっていないが。

やっぱり視点を二つ持つ、ってのが理由なのかね。

元々そうして分けて考えられるから、夢で色々見ても狂うほどには疲労しない……みたいな。


(ま、これも落ち着かせる手段……制御できる外付け手段は考えないとな。)


今までのような短時間睡眠だと肉体は兎も角、精神的にはあまり休めない。

夕食は戻ってきてから全員で……ってなるだろうし。

今の内に少しでも寝ておくべきか、と。

布団に倒れ込んで――――少し。


冷や汗と共に飛び起きる羽目になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る