003/道中
街を何とか脱出して半日。
体勢であったり、疲労であったり。
或いは周囲の警戒であったりと普段よりも時間を掛け。
初日の目的地まで漸く半分と言った所。
「……予定より時間掛かってるな。」
「そーなのー?」
肩を貸すのを途中でやめて、その分やや急ぎ気味。
漸く山間の境……旅人向けの茶屋で一休みをし始めた所。
「日が暮れるまでに宿場町までは行きたいところだな。」
「……行けます?」
「幽世を進むよりは断然楽だろ。」
不安そうな伽月には、そう答えるしか無い。
まあ何にしろ一休みしてからだ。
「すいません、これとこれ五つずつで。」
はいよー、と返事をして奥へと移動する店長。
隠すつもりもない、漂わせる圧力。
普通の人間ならば俺達を訝しむところだろうが、そこはそれ。
まあこんな場所にあるだけあり、普通に高いし店員も超能力者。
こんなところに作るのはどうかと思っていたが。
実際使うようになると精神の休養、という意味では地味に欠かせなかったりもする。
甘い蜜が掛かった団子と緑茶、五人分で四桁業。
街中で食べるのと比べて約二倍……まあ仕方ないよな。
「……はぁ。」
「…………どう、しました、か?」
伽月とリーフの二人は落ち着いて話を続けている。
足を伸ばして、脹脛を何度か揉んだり足首を回したりと。
休める時に休む、というのが習慣づいているのが見て取れる。
「いえ、脚の長さとか色々不足しているなぁ……と。」
「あんまり無理するものでもないよー?」
じーっと白を見詰めながらボヤいているが。
その当人と、周囲が上しかいなかった紫雨からすれば当然の要求に過ぎない。
それに、いくら願っても成長が促進されるような手段等存在しない。
「……多分、お主等が吾と同じくらいになったら大変じゃろうなぁ。」
「何がだ?」
「
「うっせ。 年齢とか貫禄が足りてねえのは俺が一番分かってんだよ。」
文句を漏らしつつ、同じ様に靴を脱いで内側の確認を進める。
途中道が荒れている場所があり、足の裏に痛みが走ったことがあったが。
靴の内側まで貫通とかは特に無いらしい。
一応予備は持ってきてるが、足装備は呪法道具が欲しくなる。
……呪法道具であれば、幽世内の罠でもなければ基本的に防げるし。
「全員、靴とかに変な影響が出てないかは確認しとけよ。」
分かっている、という旨の異口同音が隣と机を介した向かい側から聞こえる。
言わずとも忘れるとは思えないが、口にしたくなってしまうというのはあると思う。
(……まだ痛みが来る程じゃないが、近々来そうだもんなぁ。)
見つめる先は関節。
能力が補助してくれているから何とかなっているとは言え、まだ年齢が全然足りてない。
成人になってからでは遅い、というのが経験則上分かっている側ではあるのだが。
早く大きくなりたいと思うのは全員の共通したところだと思う。
もう少しすれば成長痛で関節が痛み始める。
そうすれば今のように動き回るのも難しくなるだろうし、それまでに貯蓄はしっかりしないと。
……唯でさえ、肉体面では本来の性能を発揮できているわけじゃないのだから。
「はいよ、五人分ね。」
脚や身体の不調を確かめていれば、横から声。
少しだけ身体を傾け、その隙間から頼んだ五人分の軽食が並べられる。
……声を掛けられるまで気付けなかった、って時点で色々失格……判定でいいのか悩むな。
「えーっと……朔君、どーするの? どれくらい休んでく?」
「休憩終わった後早めに移動するし……今の内に休めるだけ休んでおきたいよな。」
「今後の予定次第かなぁ。」
軽食を取り始める前にそんな質問。
急いで食べるかどうするか、その時間が分からなければ……という恐らくは手助けでもある。
……ああ、まあそうだよな、と頷きつつ。
今の内に場所だけ教えておくか。
「全員傾聴。 一応今回の最初の目的地だけ説明する。」
がさごそと手書きの地図を取り出せば。
全員の視線が中央に向く。
隙間からも覗き込まれないように、白には警戒を目線で告げれば小さく頷かれた。
「今いるのがこの辺……丁度この山と山の間のところだな。」
自分でもあまり上手くはないと思っている地図(直線が多い)でも意図は通じる。
幽世だとこれくらい直線とかで書いたほうが伝わりやすいからいいんだが。
「で、今日の目標はこの宿場町。 出来れば一泊の余裕を取りたい。」
「無理なら?」
「街の傍で一泊。 何にしろその辺りで一日を終える。」
つつ、と道の先を滑らせて目的地を指で叩く。
地図の縮尺的に通じるか分からないが、大雑把に5里も行けば見えてくる筈。
直線距離ならもっと短いんだが、途中で山沿いにうねり道があったはず。
場合によってはその辺に盗賊が潜んでる時もあったから、少人数で行く時はセーブ必須だった。
「で、次は街道じゃなく獣道を進む。」
「……言ってたやつか。」
当初説明していたプランとは道を変える。
そうした理由は――――見た夢の影響。
道中をただ進んだ結果、遭遇する悪党に散らされた生命の事を目の奥で反芻して。
「この森の中を南西方面に進めば途中で……アレの付近だな。」
龍脈、とは口にしない。
それが分かる、というのを明言するリスクが大き過ぎる。
感覚が鋭いかどうか、程度の差ではあるが――――これを感じ取れない部隊は行き詰まるしな。
「其処からは着いてから説明する。
重ねて言っておくが、危険だと判断したら一度引くからな。」
「……のう、ご主人。 今の内に教えてくれ。」
「ああ、何だ?」
恐らくは全員が気になっていると思うが、と前置き。
「その場所で何をするのだ?」
…………全員の頭上を見る。
ぷらん、と糸が再び伸びるような幻覚。
それが、再び頭上に張り付く前に一度立ち上がり。
虫でも払うように、二度三度と手を払った。
不思議とそれが出来るという確信の下で。
そうして、張り付くことが出来ずに宙に消えるのを見た上で。
小さく、全員にだけ聞こえるような声色で絞り出した。
「痕跡を確かめる。」
その場所に、今もいるのかどうなのか。
――――いや。
その場所で。
今も生きているのかどうなのか、か。
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