028/分担
休憩するならこの場所で、と。
指定された穴の位置を示した後で、外の探索に出たのは結局三人。
白のことだから紫雨を置いていくんじゃないか、と半々で考えていたが。
今はそんな事を言ってる場合じゃないと判断したのかもしれない。
「…………それ、で?」
奥側、壁に背を向けながら荷物を探す俺。
それに対し、その近くの片隅に座り込んでその手の先を見つめるリーフ。
何かを探しているのは目に見えて分かるだろうが、それが何かが分からない。
そんな事を思っているのだろう、少しだけ顔を傾けつつに問い掛けを発する。
「ああ……本来は来てから準備しようと思ってたけど」
内側から取り出したのは塩漬けの干し肉(二人分一週間でお値段1200業)。
ぽろり、と転げ落ちた塩を指先で軽く擦り、舌先に乗せる。
強い塩分、そして肉から微かに移った肉の味を確かめ。
目を通して確認しても、『腐敗』に似た表示は発生していない。
……ただ、表示されていないからと言って食えるかどうかは別というのは良く知ってる。
一々全部確認するのも手間ではあるけど大事だよな。
「……取り敢えず肉類は大丈夫、と」
「…………朔、くん?」
目をぱちくり。
前髪の奥で、分かりやすい程に瞳が動揺するのも珍しい。
まあ、今やってること考えるとリーフ呼ぶ必要ないように見えるもんな。
「誰かが残ったんだったらこの辺の確認任せちゃったんだけどね」
苦笑しつつ、少しだけ除けて纏めておく。
目線が干し肉に向いているのは分かったから、お互いの分から一枚抜き取って差し出す。
本来は汁物とかに入れる用途の干し肉だが、直接噛み続けられないことはない。
変に気を利かせて俺の分から、とかは彼女自身が嫌うことだし。
それにこうして補給もはっきりしない場合なら、無理をし合うのも不味いこと。
恐る恐るにそれを摘み、お互いに噛み続けることで若干の空腹と喉の乾きを紛らわす。
塩っ気が強いから水が欲しくなるのも間違いないが、行軍に近い行動で塩分が不足もしているし。
早めに水を汲める場所だけは確認したい。
「それに……何だかんだ言って、舌が平均的なのは俺か紫雨だろ?」
まあ何だかんだ人に依って食える/食えないのラインも違う。
こう言っては何だが、伽月は食事も普通に作れるんだが食える最低ラインが相当低い。
それが良いか悪いかで言うと……今みたいな場合は士気も下がるし難しいよなぁ。
それに反しリーフは細かく計算して作る分、自分で作る料理の許容幅が余り広くない。
白は式というのもあって、割と何でも食えることを考えると。
生まれが生まれだけに美食と粗食、何方も経験している俺。
彼方此方に商売に出向く分、様々な味に慣れている紫雨。
この二人が安定するのは言うまでもないことでもある。
「…………それは、そう、ですけ、ど」
「……んー?」
気付いてください、とばかりに。
少しだけとぼけた返事をすれば、むぅ、と口元を歪める。
口元は未だに辿々しいままだが、それでも感情を出せるだけまだ彼女は大丈夫だと思う。
疲れていたようだが、それも一時的なものだったのか――――それとも、無理してるのか。
まあ何処かで仮眠をとる必要性はありそうだし、早めに寝て貰う方向で調整しよう。
「まあ本命は此方」
そんな食料の奥底から引っ張り出したのは、予備として何人かで分けて持っている探索道具。
その中でも地図記述に用いる紙と筆の一式だった。
今は紫雨が記述役として動いているので、使う機会も中々無いとは分かっていても。
何だかこの三年で身に付いてしまった予備の所持、という行為が役に立ったという感じ。
まあ普段遣いのを何枚か分けて貰えばそれで済む話ではあるんだが……。
使って慣らしておかないとこの手の筆記用具は色々面倒なんだよな。
「……筆?」
「呪法陣を書く。 それも今回の目的……神を呼び出し、拘束できるような複雑なやつ」
え、と口にしながら呆然とするのを見て。
一本取ってやった、と少しだけ愉快な気持ちになってしまう。
それもそうだ。
こんなもん、超々高等技術で秘匿されて当然の技法。
もしそこそこの確率で出来る超能力者が外野にいれば、どんな小さな組織だって狙ってくる。
と言うより、ある程度の――神社に入れるような――部隊であれば。
どんな犠牲を、何を費やしても捕まえようとする。
「…………そんな。 いつの、間……」
そして、リーフであればこそ。
この技術の危険度が嫌というほど理解できる。
宿している神秘に、内側にいるナニカ。
それらは今回呼ぼうとする神々と同じ呼称で呼ばれるモノ。
発展させていけば、彼女を捕らえることだって可能な――――そんな、外道の手法。
「ああ、勿論出来るとは言わないぞ。 何となくそれっぽい図形を知ってる、ってだけだ」
そして、そんなもんを俺が自分で作れるとは言わない。
何となく画面に映っていた図形の形を覚えていて。
そして最低限記入しなければいけない部分を理解しているだけ。
どう配置しなければ行けないか、どんな記号が必要なのか。
その辺りを詰めるには、呪法のセンスや感じる才能が必要になる。
だからこそのリーフであり、灯花。
俺は飽く迄サポート程度に過ぎない……と後から付け加え。
ふと、頭上に感じた影に顔を持ち上げ引き攣らせた。
「だか……ちょっ、リーフ!? やめろ!?」
無言で立ち上がった彼女が。
ぷるぷると両腕を持ち上げて、無言で執拗に殴り掛かって来た。
そう叫びながら腕を取ろうとしても、不思議な事に押し負ける。
ぽこぽこ。
ぽこぽこ。
痛いのは間違いないがそれより長い!
そうしたくなる気持ちは分かるけど!
俺が悪かったけど!
無言でぽこぽこ殴り掛かるな!
(……これ、リーフだけの行動じゃねえな!?)
そう思いつつも。
口には出さずに――――何をやっているのか、と。
穴の底から、灯花が呆れながらに止めに掛かるまで。
延々と、叩かれ続けていた。
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