027/伝達
「…………多分、もう直ぐ……起きると、思う」
そんなリーフの言葉に従って。
針の筵に包まれること、体内時間で約八半刻。
こういう体内時計の管理に関しては人によって得意不得意があるのだが……。
色々見えるようになり、それを活かすようになってから。
つまり一年程前くらいから誤差数分程度まで安定して分かるようになってきていた。
なのでそれに匹敵する時間帯の間は誰も、何も言わずに。
寧ろ言わないのが俺に対する苦痛を増すと分かっているように、目線のみで責められ続けた。
その感情の大半は「またか」というモノであるのでもう諦めるが。
もっとねっとりとした、黒い感情が幾分か混じってるのが凄い恐怖を煽ってきた。
(多分紫雨……だよな? これ。)
何度か経験済みではあるものの、慣れるものでもない。
背中の見えない部分が汗で湿り始め。
そろそろ精神的に摩耗が見え始めてきたりした頃。
「……ん、ん」
「!」
口元が微かに動き、薄く目を開いて行くのが遠目からでも認識できる。
無論真っ先に反応したのは隣に座る
眼を覚ました事自体にホッとした雰囲気を見せたのはリーフ。
「と、うか?」
「おかあさま!」
最初に発したのは娘の声。
すぐ顔の横、見上げた所にいるのだからそれも当然。
少しばかり離れたところだったり、物理的に視界の外だったりと。
若干俺達が距離を取った場所にいたというのも関係していたと思われる。
「…………どれくら、い」
ゲホッゲホッと咳を繰り返す。
意識を保てていなかったからこそ、彼女が全ての面倒を見る必要があったのだろう。
手慣れている様子で彼女自身が水を含ませていく。
皮の……恐らくは超能力者の遺品に水を汲んだもの。
何処に水場が残っているのか、それも後で聞いておかねば水分不足という未来もあり得る。
一口、二口。
「おかあさま、無理をなさらないでください。」
そうしている姿はどう見ても親を心配する一人の娘。
何かを抱えるような能力者……いや、拒絶する様子を見せる一人の人間には見えず。
ただ、自身の辿ってきた経緯から……というのもあるのだろう。
伽月は何とも言えない顔を浮かべているのだろう、というのが容易に想像できた。
「……ごめんなさい、ね」
「いえ。 寝ていて下さい、まだ万全ではないでしょうから。」
……おい、と言い掛けるが思わず押し留めた。
それを言われてしまうと此処で耐えてた多少の時間が無駄になるんだが。
あの針の筵に耐える必要なかったじゃないか、と。
浮かぶ言葉を胸の内に留めたのは。
彼女が横目で鋭く此方を見つめたのが分かったから。
ただ、彼女自身にも伝えたように。
出来る限り早急に、親御さんからの確認は必須になる。
それをどうするんだ、という謎は残ったまま。
ただ、彼女がそうする理由も納得がいく。
何方を優先したものか、と少しだけ悩んでしまったのは仕方のないこと。
「……そうするわ」
ごめんなさい、と弱った腕を無理に動かし、頭に載せて。
微かに撫でた後に戻すまでに、言葉は特に必要なかった。
そうして再び目を閉じて、少しの後には寝息に変わる。
今更によくよく見れば口元の端に残った、緑色の一筋の雫跡。
リーフが先程まで対応し、飲ませた何らかの薬品なのだろう。
ただ……病状に関しても細かくは聞いてないんだよな。
早く対応しなければ、としか確認していない。
そしてそれ自体も、リーフから伝えていないとは考え難い。
「ん」
はぁ、と一度溜息を漏らす。
はらはら、と汚れた顔に涙が流れる彼女に意思を伝える。
泣き止むのを少しだけ待った上で、先程の部屋で、と。
肩越しに親指を背後に向けて、場所を変えようと提案を伝え。
それを確認したのを見た上で、他の四人も引き連れ穴の中へ。
本来は無理にでも動いた方がいい、とは分かってる。
ただああして泣いていると少しくらいは大事にしなければ、と思ってしまい。
そして同時に面倒臭いお使い系のサブイベントを思い出してしまう。
あっちに行って、此方に行って。
それを熟さなければそもそも発生しない……というより進行しない類のやつ。
自分でいけよ、と何百回思ったことか分からない例のアレ。
(……まぁ、協力相手の機嫌を伺うのは大事だもんな。 そういう事にしとこう。)
考えるだけ内心が黒く染まってしまうので一度顔を振って考えを消す。
肥後から突き刺さりっぱなしの視線もいい加減鬱陶しい。
もう協力して貰えることを大前提として、動き出して貰った方が良いかもしれない。
身動きが取れなくなって破れかぶれになる前に。
「……さて、全員に指示を出す。 聞くつもりがないなら反論してくれ」
本来は顔を向かい合わせてするべき会話。
ただ……少し、考えるのも面倒で。
緊急時特有の言い放つような話し方で、全員に言葉を投げ掛けた。
反論は無い。
ただ、ジーッと目線の力が増すのは分かった。
もうこれに関しては先程の約束を盾にゴリ押す。
「白。 さっき頼んだ通りに神社の建物とかを探ってきてくれ。
一人か二人、これに同行する形で」
無言。
目線の力が増す。
「リーフ、悪いがお前の力が必要になると思う。
出来れば使わせたくは無いし、見せたくもないが……全力で頼む」
無言。
目線の色が変わる。
「もし誰かが余るようなら物品の消耗具合とかの確認を頼む。
それらが全部終わった後でまた追加で指示を出す」
無言。
何かを頷きあうような空気の流れ。
「……何か言えよ!?」
最も前を進んでいたから、後ろの動きが見える筈もなく。
ただ奇妙な同意を四人が四人とも抱えているのだけは分かった。
「ご主人」
「お、おう」
……そんな中で、代表して白が口を出す。
なんだろう、反論だろうか。
言い返す準備はあるし、白には十二分に説明したつもりだが。
「普段からそうやって導いてくれる方が断然良いぞ?」
「余計なお世話だよ!」
一瞬で、真剣な空気が霧散した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます