026/分担


這い上がった上の部屋。

寝息が一つ、横になり。

それを見守る影に、部屋の隅で背を壁に傾ける二人。


「…………」


二人の横顔を見る限り、やはり良い流れでは無いのが見て取れる。

その視線に反応し、横目で此方を見つめる紫雨。

伽月は何かを思い起こすかのように眼を伏せて座り込み。

灯花は横になった顔を不安そうに眺め、此方に気付いて身体の向きを修正した。


「落ち着いたか?」


そんな言葉を、先程まで話し合っていた灯花に向けた。


全員が全員疲労を背負っている。

実際俺だって見せてはいないが、根本の部分は引き摺ったまま。

本来はこんな状態を避けるために宿に泊まりたかったんだが……。

それを口にすると色々問題が再発する。


「……まぁ、落ち着きはしましたけど」

「もう少し人の気持ち考えない?」


今はお前等に言ってないんだが、と思いつつ口にはしない。

俺が言われる側に留まっておけば、精神的な面では多少マシになる。

代わりに色々と不満だとかは貯まるが……まあうん、その内仕返しさせて貰おう。


「落ち着いてると判断するぞー?」


二人に言い返していれば、背後から手が伸びる。

肩に触れたのはやや小さめの、言葉を押し留めるような白の者。


「……ご主人。 良いから話を進めぬか?」

「…………お願い、しま、す」


またか、とでも言いたそうに呆れの声が混じっていて。

そして先程の話を早くしろ、と力が指先に入っている。

このまま放っておけばミシミシ言い出しそうなので、意識を切り替え。

出来る限り短く、意識の統一化を図ることにした。


「あー……無論休憩した後で構わないんだが、協力してほしいことが有る」


ちらり、と目線をやった先。

灯花かのじょ自身も、話を聞いてくれる気くらいは有るようで。

その眼の奥に映っていたのは、同じことを繰り返すことで微かに宿る退屈ではなく。

何かが変わるかもしれない、と期待するような正の方向性への光。


「また~?」

「それ自体は構いませんけど……」


それに対して二人は文句たらたら。


……この約定はしたくなかったんだがなぁ。

一度口にしたら多分全員にすることになるし。

さっき白が言っていた警告が本気だとすると沼に踏み込む一歩になりかねないし。


ただ、どうしようもなくなるよりはマシか。

恐らく神の側も、俺の事は幾らか把握してきているはずだし。

このまま放っておけばそれこそ詰む。

物品の風化・腐敗の原理も分かっていないのだから、早急に動く必要性を共有しないとだし。


深い深い溜息を吐き出し、その言葉を音に乗せる。


「全部が全部片付いたら頼み事聞くから、今は黙って手伝ってくれ。

 このままだと俺達全員が詰むかもしれねえ」


は、とかえ、とか。

二人が当然の如くに聞き返してくるが一旦放置し。

一番の鍵になる巫女と互いに視線を合わせる。


再び感じる奇妙な共有感。

一体これが何なのか、聞きたい所ではあるが後回し。

そもそも彼女が知ってるとも限らないし。


「灯花。 協力して欲しいことがある」

「……それは、先程の話の続きですか?」


そう切り出せば、分かっていたかのように会話が成り立つ。

、という話だったからというのもあるだろうが。

恐らくは彼女自身も、嘘を付かなかった俺とならば。

話をしても良いのかもしれない、と思うが故の流れなのかもしれない。


「無論それもある……んだが、何と言えばいいのかね」


目線を寝込んだままの女性に向けた後、背中の二人の内の片方。

先程まで対応していたリーフに向けてから、再度少女へ向き直る。

これだけで察知できたら、思考を読む超能力者……と疑いたくもなるけれど。

言葉を選ぶように少し視線を持ち上げて、また降ろした。


「互いに取って利点がある協力関係、という一点で互いに手助け出来ると思うんだが」

「……そう、ですね。 灯花の望みは言うまでもないと思うのですが……。」


そちらは、と。

目線を更に強く、睨みつけるように向けてくる。


他人に対して――――いや、何方かというのなら。

自身達に対して何かを求める相手に対して、信用を欠片も持ち合わせていないのだろう。

先程までの話で何となくそう察すると同時。


(……何でこうも超能力者共は何か抱えてるんだろうなぁ。)


と、自身のことを捨て置いて考えてしまう位にはちょっとアレ。

ゲームと食い違う部分が発生するのなら、その辺も何とかしてほしかった。


「先ずは無事に脱出すること。

 それと……干渉してきているであろう神を打ち払うこと、だな」


灯花に対し干渉している神とほぼ同一視出来ている……のは、恐らく俺だけ。

糸を実際に目視し、今までの行動を外部目線から確認できる相手でもいるなら兎も角。

今できるのは俺の望みとして行う行動が、彼女と偶然に一致するということだけだろう。

ただ。


「かみを?」

「そう、神を」


不思議な言葉を耳にした、とばかりに聞き返される。

ほんの数瞬前まで抱えていた雰囲気は何処かに霧散し。

其処に残ったのは……ええと、何と表現して良いのやら。

俺より年下の、本当にちっぽけな少女一人。


……いや、其処で聞き返されるのは想定外なんだが。


「そうしない限りは俺も灯花も抜け出せない。

 だから打ち払う、薙ぎ倒す、何とかする。

 考え自体は単純だろ?」

「……できるんですか?」


その発言でちょっとダメージが来た。

何とかする手段を知らない、というのを暗に理解させられてしまったので。


「何とかするんだよ。 ……お前の御母上様が起きたら、少し話をさせてくれ」


知ってるかどうか聞かなきゃならん。

……問題は、それまで合計五種類の感情を込めた視線に耐えなきゃならないこと。

なんだコレ、精神修練か?

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