013/適正


弓と長柄、両方に触れて大体7日程が過ぎ。

その頃には大体自分の適性が分かり始めていた。


「……白。」

「ん? どうしたんじゃ、ご主人よ。」


食事……恐らくは麓にあるという街で交換でもしているのか。

混じり物有りではあるが、白米に山の幸を適当に焼いただけの夕食中。

父上は用事があるとのことで今日は戻ってこないという。

……恐らく幽世の一つに潜ってるんだと思うが。

一人で大丈夫なんだろうか。


「暫く武具触れてみたが、決めた。 長柄にする。」

「ほう。 遂にか。」


互いの相対距離は意外と近い。

最近分かってきたことだが、白は暑さには強いが寒さに弱い。

故に、少しでも寒さを感じると俺に近付いて体温で熱を取ろうとする。

……まだ子供だからなんとも思わないけど。

成長したら色々と大変そうだよなー、と他人事のように感じている。


「白も近くにいたんだから知ってるだろうが……。」


弓を暫く扱ってみて感じたこと。

、という事実。

……より正確に言えば。

本来ならある程度感覚で補える、対象を穿つまでの数瞬の合間。

、という俺の本質。


真逆に長柄の場合。

その術理……つまり、どう扱ってどのタイミングでこうすれば効果的、と。

基本的な技の存在する理由を先に噛み砕けるからこそ、色々と応用が効いた。

まあ妖の場合、姿形がたまに全然違うのもいるから常に有用とまでは言えないが。


「それでも人は適正を乗り越え、とかを求めるモノではないのか?」

「そんな物語の主人公みたいな努力、俺には出来ねーよ。」


に全力を振れるなら兎も角。

たった一人で動くのならば兎も角。

複数で動けるのだから、自分に完全に向かないものはバッサリ切り落とす。

代わりに対策……対遠距離系の術技か呪法を身につける必要性は出てきたが。


「しかし、そうなると……どうするんじゃ?」

「今日寝る前に能力は確定する。

 取ろうと思ってた補助能力も決めた。 『自動回復』にしておく。」


その中でも霊力の自動回復。

一人前になるまでは戦闘中の自動回復への派生強化は取れないが。

幽世の中で歩いているだけで、多少なりとも呪法の回数が増える選択肢を選ぶ。

――――つまり、中を長く探索できる選択肢。


「まあその分次の深度上昇レベルアップまで白には負担掛けることになるが……。」

「ああ、良い良い。 式となった以上その辺りは織り込み済みじゃ。」


手をひらひらとさせながらの返答。


「ただ、一つ頼んでもいいかの。」

「あん?」


既に互いの口調にも慣れてきた。

だから、ある程度いつもの話し方……の話し方が出来る。


「ご主人が言っていた方針……立ち位置自体に否はない。

 じゃが、式を癒やす手法を早めに取得するのは難しいか?」

「それなぁ……。」


白の意見に、悩んでいることを明かす。

他者の回復を行う大分類、『風』。

ただ、と限定し。

効果の増加や式の蘇生を行う分類は『月』に属している。

故に、当初からそれ自体を取得することは考慮済み。

問題となるのは取得するタイミング。


「分かってるとは思うが、癒やしを使ってればその部分の霊能力が上がるだろ?」

「そうじゃな。」

「問題はその部分のはあんまりしたくないってことなんだよな。」*1


『力』『霊』『体』『速』『渉』『呪』。

普段余り気にしない霊能力者の霊能力ステータス

レベルが上がる毎に最も使われていた部分三つに1ずつ、フリーで2ポイント。

合計5ポイントの成長が発生するわけだが、当然構築次第で求められる部分は違う。

俺の場合、最も必要になるのは『体』『渉』『速』。

絶対に死なないようにし『体』呪法の干渉効果を上げ『渉』術技を的確に当てる『速』

逆に言うなら威力は其処まで求めないし、回復効果の底上げや呪法の火力上げは最低限でいい。

だからこそ悩ましい。


「……この段階から其処まで見据えるのかや。」


若干呆れた顔。


「逆に何処から見据えるんだよ。」

「普通は”生き残る”事が優先で後から詰めるものじゃよ……?」

「後々を考えたらそんなこと言ってる余裕もないだろうに。」


表情の差からして、何かが食い違っている

……いや、見ている先の違いか。

俺はこれからどう変化していくのか、大雑把でも理解している。

色々とおかしい部分はあるが、ある程度の流れは変わらないのなら。

準備をしておいて損をするようなことにはならない筈。


「まあ、白の言うことも分かる。

 ……そうだなぁ。 一度幽世の中を見て決める、でいいか?」


……ゲームと変わっていないのなら。

街とこの里の間には幽世が存在し、行き来を妨げていたはず。

それも核となる妖が存在しない、干渉空間として。


そもそも幽世自体、一部のを除き。

構築の中心となる瘴気の濃度に応じて難易度が変わる。

ゲーム的に言うなら『偶然発生の幽世ランダムダンジョン』的な要素が存在する。

だからこそ序盤でクソ難易度に遭遇し全滅することもあれば、その逆もある。

運良く『相性がいい』幽世に遭遇できれば序盤は余裕になる装備が整えられたりもする。

……まあ、放っておいても時間が経てば霧散することもあるしその逆もある。

発生も、消滅さえも。 人の手が入らなければ完全に偶然の発生。

――――


加速させる存在。

この世界全てを自身の幽世と定義し、幽世の中に幽世を生み出している存在。

故に、妖の王。


「遠目に見て不味ければ逃げるぞ?」

「そりゃそうだ。」


俺だって、死にたいわけじゃない。

食事を終え、寝る用意を整えながら。

『写し鏡の呪法』をそっと、展開した。


【無】 :『写し鏡の呪法』  :1/1

/自身の内側の情報を水鏡に映し出す簡易呪法。

【無】 :『狩る者の眼差し』 :1/1

/任意対象の生命力・霊力・状態を確認する眼差しを得る。

【無】 :『習熟:長柄』   :1/5

/長柄武器の扱いに習熟する。能力上昇で補正。

【花】 :『瘴気変換:霊力』 :1/5

/周囲の瘴気を霊力に変える体質へと変化する。

【月】 :『式王子の呪』   :1/1

/式を扱う才能を目覚めさせる。強さは主と同等となる。

【月】 :『劣火の法』    :1/5

/対象の害する才能を劣化させる呪法。【物・魔】

【月】 :『削減の法』    :1/5

/対象の肉体を脆弱化させる呪法。【物・魔】


「……これで、良し。」


もう、後戻りは出来ない。



*1:構築上の問題。バフ/デバフ担当としては切り捨てたくなるステータス。

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