<Chapter2/宵の明星、刀刃振るう黒き修羅>
とある世界の片隅/嘆きと共に
奇声が空に舞っていた。
悲鳴が地に転がっていた。
何も話さない亡骸が、世界に溶けて消えていた。
一つ、二つ、三つ。
近付く度に増える亡骸。
何を狙っての行動か。
何も考えずの行動か。
その中心に佇むのは、故も知らない男一人。
腰に佩くのは大刀二本。
腕に持つのは大刀一本。
予備としてなのか、或いは。
この程度の相手にならば、抜くことすら必要としないからなのか。
血が地面を染めていく。
やがて、周囲の気配が掻き消えて。
小さく小さく息を吐き。
その場に残った――――残ってしまった血と肉を。
そのまま喰らい、飲み干した。
やがてゆっくりと立ち上がり。
口元からだらりと流すそれを、腕で拭い。
刀を仕舞うことさえ無く、奥へ奥へと進んでいく。
足元に残された、瘴気の欠片に見向きもせずに。
何かを求めているように。
何かを失ったかのように。
その目だけは爛々と輝き。
何者かの吐く息と。
小さく聞こえる、人の物ではない声を聞きつけ。
次の獲物と見定めて、その中心へと飛び込んで。
一振り、大刀を振り回した。
――――刃から放たれたのは、嵐。
術技由来か、或いはその手に持つ大刀の付与効果由来なのか。
それを問い掛ける物は誰もおらず。
ただ、それを警戒していた人面獣身の妖は次の瞬間に血飛沫と化した。
警戒するだけ無駄で。
戦い続けるだけ無為で。
逃げることさえ無理で。
恐らく数分も経たない間に再び、沈黙が世界を支配した。
先程まで聞こえていた声は既に無く。
ただ中心に立つ男の静かな呼吸音だけが、その場に残り続けている。
周囲を見回し。
何かを探し続け。
何も見つからないことを理解し。
胸元に唯一揺れた、金の首飾りを手に取った。
それそのモノを大事そうに握り。
戦っていた時とは正反対に、愛おしそうに。
傷付いた一筋の跡をなぞり、手を離す。
次の瞬間には、再び獣のような匂いを嗅ぎ付けて。
そちらに向けて、歩みを向けた。
影へとその姿は消えて。
その奥で、再び悲鳴と血飛沫の朱が飛び散った。
――――人々は噂する。
狂ってしまった怪物が住む場所があると。
愛した誰かを探し続ける、悲しい怪物が住んでいると。
元は人で、けれど既に人ではなく。
人の身の内側に怪物を飼う、また別の怪物であると。
既に散ってしまった誰かの面影を追い続け。
陽の当たる場所へ戻ることを諦めた、哀れな操霊術師が住まうと。
きっとどれもが正しく、間違って。
その『誰か』のみが、目的を知り得ているというだけ。
――――いや。
その『誰か』を追い求める、また誰かも、また。
知り得ることを、知っている。
……ただ、それだけの話だ。
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