015/異変
「…………。」
「…………。」
沈黙の中で、中心に焚かれた火が揺らめく。
幽世の中で簡易の
妖避けの薬が周囲に漂う中で、全員が見詰めているのは今現在での入手物。
長柄、刀、布、杖、数多の武具防具、そして幾つかの道具。
普段から使っているものにも関わらず、見覚えが無いモノだらけ。
「悪運、って言葉じゃ済まないんだが……なんだコレ。」
連戦が多重に発生して。
その結果得た物品が異常な程に希少品で。
その内の幾つかが、今の俺達の装備を更新するに値するモノ。
不幸と幸運が同時に襲ってきたような状態。
そんな中で、唯一平然としているのが伽月だった。
「え、これくらい普通じゃないんですか?」
「普通では、絶対に、無い。」
態々区切って、強い意思を示す。
そして今の発言で、これが当たり前のことだと認識していると分かった。
異常を常識だと思い込んでいる――――これもか。
「……あの、伽月、さん。」
「はい?」
「……似たような、経験が……お有り、で?」
最早何が正常で何が異常なのかが分からない。
全ての情報を一から伝える……いや、流石に誰でも怒るよな。
どう答えれば良いのか悩んでいる際に、リーフが一人斬り込んだ。
「あると言いますか……結構な割合でこういう事起きてたんです、けど……?」
「……昔、から?」
「そうですね……初めて潜った時からです。」
有り得ない。
恐らく共通認識として、そんな言葉が脳裏に浮かんでいるだろう。
このゲーム的に考えても有り得ない状況。
能力にも表示されない隠し要素か何かを疑いたくなる。
乱数、という名前で作られていた様々な『運』としての表示。
それらの基準が明らかに狂った、異常な変動量のみを指し示す状況。
言葉にするなら――――恐らくは奇運。
「なぁ伽月。 今の話を聞いて疑問に思ったんだが。」
「はい?」
純粋な疑問。
割合がどんなものかは分からないけれど、発生していたとするのなら。
「瘴気箱は誰が開けてたんだ?」
恐らく、その人物は異常なのを分かった上で連れて歩いていたのだろう。
だとすれば。
彼女の求められていた役割は、そもそもこの状態を引き起こし続けること。
他のゲームでなら恐らくは『
戦闘など一切させるつもりのない、補助特化の筈の役割。
そして、今まで聞いていた話の中で最も分かりやすい”連れ歩いていた人物”。
「師匠……父です。」
実のかどうかは置いておく。
娘を利用して幽世を探索していた、という結果だけがこれで分かる。
……ああした”暴走”も、ひょっとすれば生存本能の暴走によるものやも、と。
更に考える理由が増えてしまって、どんどんごちゃごちゃしていく。
いい加減何らかに纏めさせて欲しい。 切実に。
「……つまり、纏めると。 伽月の父親は剣術を用い。 目が良くて。
且つ瘴気箱を開けられる人間ってことだよな?」
「……そう、ですね。 呪法などには手を出していなかった、と思います。」
詳細が分からずに、此方だけ知られている。
師匠と弟子、という関係性。
父と娘、という関係性。
その何方も相手が上位なのだから仕方ないとしても。
「……つまり、役割としては白に近い訳だ。」
「んむ?」
自分に関係ないとばかりに飲み物……薬湯を人数分煮出していた白が反応する。
全く発言しないとしてもせめて話くらいは聞いとけ。
「その上で戦力的にも上だとするなら。
解錠系能力も派生1つ目……2つ目くらいまで伸びてるかもしれないよな。」
未だ必要ない、という判断で罠探知系は派生一段目まで取って貰ってはいるが。
解錠系は初期のを最大まで程度で止めていて俺と同深度。
ゲーム上での知識を引っ張り出せば、それらが必須になるのは序盤最終編前後。
幽世で言えば3~5個程度、時間で言うなら13~15歳になるくらいに取り始めるくらい。
その程度であれば狩りの仕方次第にはなるが、深度としては18~20くらいを鑑みて良い。
今までの話を聞く限り、『恐怖した』と言った言葉が出て来ない以上20以上差は開いてない。
なら大凡で考えれば、その「父」も高くても深度21~23程度……だよな。
ただ、其処まで上り詰める事ができたのなら。
連戦のメリットデメリットを知らないはずがない。
「……どれだけ考えてもやっぱり異常だな。」
結局結論はこうなる。
考えられる可能性は幾つかあるが。
娘のことを思って、という楽観的な考えは先ず無いだろうな。
「あの……朔さん。」
「ああ。」
ぶつぶつと考え続けていれば。
恐る恐るに言葉が聞こえる。
「色々とおかしい、と言って頂いていますが……。
何がおかしいのか、頭から教えて貰うことは出来ますか?」
もしかすれば、と言わんばかりの裏の言葉が聞こえる。
確かに俺の常識は他の誰かの非常識。
その可能性は無いとは言えない。
……本来は、誰か中立の人物がいれば良いのだが。
(……仕方ない。 踏み込むか。)
そう割り切るまでには数秒。
対話が必須だとは思っていた。
既に外は陽も落ちているはずで、今から出てもどうしようもない。
寝るまでの話としては、丁度良いかは別として。
「……そうだな。 摺合せをしよう。」
可能なら、彼女の秘密を何枚か捲れれば理想か。
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