003/成長


「さぁて……。」


簡単な話し合いは終わり、各々の成長の確認に入る。


反省会で言っておくべきこととしては敵に応じて補助能力を使い分ける事くらいで。

今日に限っては三文、ほぼ通常詠唱での発動。


恐らくあの相手なら今のリーフなら短縮版、二文で殲滅できたはず。

ただ確実とは言えなかったから間違いでもなく。

次回同数の時は短縮してみよう、程度で終わる話。


……正しく使用できる呪符なら、発動時の言葉だけで起動できるんだからその差は明確だよな。

まあこの部隊、俺を含めて正しく使える人材一人もいないけど。*1


「あ、やった。 深度上がって、ます。」

「おお、これでまた一歩成長じゃの。」


横で普段より少しだけ高いはしゃぎ声。

まあそれもそうか、深度レベルが上がれば出来ることが増える。

画面を通してでさえ次の幽世ダンジョンで武具掘り出来るのは楽しかったのだ。

それが現実味を帯びていれば、成長することにさえ意識を向けているのなら喜ぶに決まってる。


「やったなリーフ。 何処かで感覚あったか?」

「……ええと。 多分、最後の。 子鬼……の時、かも?」


俺と白は分かるので良く知らなかったことなのだが。

深度上昇レベルアップ時に感じる不思議な感覚は、分かる側と分からない側に別れるらしい。

とは言え写し鏡の呪法に類する物を使用すれば確実なので、然程影響があるわけではないのだが。

、と言うのは能力を選ぶ上である程度選択先を絞るのに応用できる、とか。

因みに教えてくれたのはルイスさん。


「このままじゃとリーフに追いつかれそうじゃな?」

「まあ今回で差が1まで縮まったもんなぁ。」


指を立て、周囲の空気から水滴を生成する。


俗に『簡易呪法』と呼ばれる便利な部類の能力。

物理的な損傷が発生しないから戦闘では使用できないが、能力点を使用せずに扱える道具という認識。

西洋の方では普通に使われているそうで、日ノ本では知る人ぞ知る……くらいではないかと聞いた。

これを利用すれば何もなく『写し鏡の呪法』を使用する際の負担を軽減できる。

それに霊力で水や火を生み出せる、というのはその量を扠置いてもこうした集落生活で助かるもんだし。


「俺達は感覚無かったから成長してるとは思わないけど……。」


そう呟きながら、映る水鏡に目を凝らす。


『朔/深度9』

『力』 『霊』 『体』 『速』 『渉』 『呪』

 6   7   9   11   12    1


『未取得/0点』

【無】 :『写し鏡の呪法』 :1/1

/自身の内側の情報を水鏡に映し出す簡易呪法。

【無】 :『狩る者の眼差し』:1/1

/任意対象の生命力・霊力・状態を確認する眼差しを得る。

【無】 :『習熟:長柄』  :3/5

/長柄武器の扱いに習熟する。能力上昇で補正。

【無】 :『徒人の慧眼』  :3/3

/鑑定に習熟する。能力上昇で補正。

【花】 :『瘴気変換:霊力』:3/5

/周囲の瘴気を霊力に変える体質へと変化する。

 ┗  :『瘴気吸収:霊力』:2/5

/瘴気を吸収し、常時霊力を賦活する体質。

【鳥】 :『迫撃』     :2/5

対象の内部を貫く一撃。【物】【格・長】【麻痺発生】

【月】 :『式王子の呪』  :1/1

/式を扱う才能を目覚めさせる。強さは主と同等となる。

【月】 :『劣火の法』   :3/5

/対象の害する才能を劣化させる呪法。【物・魔】

 ┣  :『法則干渉・低』 :5/5

/他者に影響を与える呪法の効果量増加。能力上昇で補正。

【月】 :『削減の法』   :3/5

/対象の肉体を脆弱化させる呪法。【物・魔】

【月】 :『封縛の陣:地』 :1/5

/対象の行動を阻害する陣を刻む。【物】【半減/魔】


「……うん、変わってないな。」


当然3年前からは大きく変わっている。

最も大きい部分といえば戦闘中に霊力を余り気にしなくても良くなったこと。

そして西洋からの知識で、『陣』系列の呪法に手を出したこと。

これに関しては全くと言っていい程無知だったので一から学び直した形だ。


何でも、戦闘に用いる『陣』はに近いらしい。


付与効果に近い、後天的に刻み込む能力。

発動自体は足元なり使用する場所に武具を押し付けて詠唱。

利点は極めて短時間で、且つ広範囲に発動する事。

欠点は武具に刻み込む関係で付与効果枠を消費する事と、で刻めるかが変わる事。


その結果、鉄製だった二代目の長柄武器は木製の三代目に生まれ変わった。

そして何より、この『陣』発動時にのみ使える回復系があるという事実。

当初の予定だった『月』系列の回復魔法を取得しなくなったのはこれが原因。

なので少し力を入れていきたい能力系統だな、これは。


「変わらんなぁ……。」

「ただ、リーフが上がったんだろ? 多分俺等もそろそろだと思う。」


今までの上昇時の時間感覚からすると、後一度か二度潜れば上がると思う。

必要な瘴気/霊力量も増えているが、それに合わせて潜る場所も調整してるし。


「ならばいいのだがのぉ。」

「そんなに心配しねーでも、俺が頼りにしてるのは変わらないって。」


頭を一度二度叩けば。

それを当然のように腕にこすりつけてくる。


「当たり前じゃろ。 ご主人の式は、吾一人で十分じゃ。」

「……そうだな。」


……大分変わったよなぁ。

成長に合わせて、感情表現が豊かになったというか。

大人の女に近付いている気がする。


「……むぅ。」


反対側のリーフが、頬を膨らませ。

同じように近付いてきて、慌てて。


その日の晩、寝るのは結局いつも通りに。

川の字に近い、並んでということに落ち着いてしまった。


――――どうしてこうなった?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る