004/帰路


『北麗』から歩いて約数刻の南側。

俺達が出向いていた集落はその辺りに存在していた。

もう2刻も進めば山にぶつかり、登る羽目になるギリギリの平原地帯。

だからこそ、なのだろう――――瘴気が溜まってしまうのは。


(やっぱり西か東……少し離れた場所にも行きたいんだが。)


ただ行ったとしても所持金が稼げない。

今回手に入れた武具や道具を売り捌けばそれなりにはなるが。

逆に言うならのだ。

もう少し高価に売れる道具が拾えていれば別なんだがなぁ。


「~♪」


少しだけ先を、鼻歌交じりに歩く白。

聞き覚えがない音程は自分で作ったものなのか。

左右を見て、木々に隠されている辺りに何か落ちてたりしないかを確認しつつ。

年齢に不釣り合いな装備を持って、只管歩いていくしか無い。


「……楽しそう、です、ね?」

「まあ……自由に歩き回れるってのは特にな。」


俺達の中で一番年上に見えるのが白。

しかも唯でさえ美少女/美女として見られる種族。

いつぞやみたいに声を掛けられる機会は減ったけれど。

視線で追い掛けられるのは増えてきている。

特に”妖”だからこそ、何か言いがかりを付ければ――――なんて。

そんな馬鹿げた考えの奴らは、流れ者にこそ多かった。


「……でも。 朔さんと、一緒なら……楽しそう、です、よね?」

「まあ、一緒にいるときなら自由にさせるようにしてるのもあるしなぁ。」


街では必ず手を握り合って。

一般人からすれば姉弟に見えるように。

能力者であっても、深い関係であるように。


街に長く住んでいる面々からは漸く”安全”だと見られるようになってきたが。

余所者がそれをすぐに受け入れるのかはやはり別問題。

その為もあり、早く『深度証明』を済ませて安全性を確保させたいんだけど。

最低でまだ6年掛かるしな……。


「……良いなぁ。」


ぽつりと呟く言葉が耳に入る。

というか、態と入るように言った気がする。

それ程に近く、隣り合って歩いていたから。


「……そんなに?」

「……私に、してみれば。 ですけど、ね。」


小さく微笑むのが目に入り、少しだけ目線を逸らす。

そのまま視界に入れていると、なんだか胸の辺りがどうしようもなくなりそうで。

その状態を、感情の名前を知っていても。

まだ子供の肉体が納得して落ち着くかはまた別問題。

……成人するくらいには、何かしらの結論用意しないと。


そんな事を考えながらの帰途中に。


「……ご主人。」

「ん?」


突然に鼻歌を止め、足を止め。

自分達から見て右側……茂みのようになっている位置を見て、訝しげな表情を浮かべる白。


「どうした?」

「あぁ、吾の勘違いの可能性は十分にあるのだが……。」


その辺りから、少しだけ声を潜める。

なんだろう、と眺めていたリーフも近寄ってきて俺達へ耳を傾ける。


「あの辺り……

「は?」


指差したのも同じ場所……茂みの辺り。


「誰かって……盗賊とかか?」


この辺りは治安良い方だからないとは思うが。

少し田舎に行くと『能力者の盗賊・山賊』が湧いてくることがある。

そいつらのせいで風評被害を受けてる側面は結構あるので。

見つかり次第根切りにされる傾向にある奴等。


「いや……ううん……?」

「珍しいな、煮え切らない意見なんて。」


白はうちの部隊のメイン斥候。

だから気配探知系も(頭を下げて)一人前それなりに修めている。

にも関わらず断定できない、ということは。


「……隠れる……道具、とか?」

「道具だとしたら相当高位の消耗品のはず。

 基本能力者には役に立たない道具だからねあの辺。」


正確に言うと深度を深めた能力者に働かせるには、道具の効能を上げる系列の能力が必要。

ただそれらも最低で深度10以上でないと取得できない、とか制限があったはずなので。

そこまで行くなら素直に自分で気配を消す系列の能力を覚えた方が手っ取り早いという。


(にしても、基本探知系有利のはずだから誰かいるとして……最低で気配抹消系の……Lv2以上か?)


対抗ロールの存在を考えれば同能力レベルでも運次第で変わるし。

狩人とか弓使い系なら有効なのは間違いない。

後は良くいる全身クリティカル装備変態野郎全裸二刀忍者マン辺りは覚えるとして。

……一体何がいるんだ?


「考えても仕方ない……か。 白、警戒して踏み込んでくれるか?」

「若干いいかや?」

「任せる。」


どう飛び込むかは一番危険性が高い白の自由に。

これが街中なら間違いなく禁止だったが、今は別に問題ない。

俺達も最低限武器を構えて、警戒の体勢を取る。


、でいいな?」

「ああ、指で頼む。」


飛び込むまでの猶予。

三カウントで突撃する、という普段から幽世でやっている連携の延長線上。


後ろ手で、指を三本立て。

一つずつ折って、カウントとする。


二、一、零……。

着々と減り、零になった瞬間に少しだけ浮いて茂みに飛び込み。

一秒か二秒か、その程度の短時間が経過した後。


(……さて、何事だ?)


ご主人、と茂みの奥から声がして。

顔だけを此方に突き出した白が、理解が追いついていない顔で悩みを浮かべていた。


「どうした?」

「どうしたというか…………。」


行き倒れが寝てるんじゃが、との返答。

はぁ?と。

それに対し聞き直してしまった俺は、間違っていないと思う。

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