014/視線


かつん、かつん、かつん。

ざっ、ざっ、ざっ。


木々に乱反射しながら飛び掛かる白。

歩法なのか、一歩の踏み込みで数歩分を詰める伽月。


立体的と直線的。

直接的に相手を切り払う。

撹乱し、相手の隙を貫く。


得意とする行動が違うからこそ、行動する順序が噛み合っていく。

幾度となく模擬戦を行い、実戦の中でああだこうだと言い合った分。

『何がしたいのか』という根底部分の共有がある分、連携が噛み合っていく。


『――――Ahalaxaxaq!?』


言葉として認識できない、叫び声が響く。


『劣火の法』……相手の才能を腐らせ、澱ませる呪法。

それは本来自分の体が持つ、極当たり前の動作の根底を狂わせる弱体化呪法。

だからこそ物理も、呪法も、それこそ能力さえも正しい効果を発動できない。

初めてこれを受けると、大抵の相手は混乱に陥る。

それもそうだ、動こうと思っても思ったように動くことが出来ないのだから。


「伽月!」

「はい!」


白が枝の上から飛び掛かる。

俺の行動が起因となって、何かに襲われているという事実は把握できたのだろう。

身を捩って回避しようとし、けれど動き出しが鈍ったことで左の刃が軽く体毛を抉る。

地面に落ちれば、その衝撃を利用して体の下を潜り抜け反対側へ。

伽月もその行動、そして声に合わせて鵺の真正面へと飛び掛かる。


「行くよ~!」

「白! 伽月!」


紫雨の声が何処かから響き。

そして視界の端に高速で動くものを捕らえると同時に叫び、杖を地面へと叩き付け。

呪法とともに、周囲に光の円が走り始める。


『okfodiasji!!!!』


自身に傷を負わせた張本人を狙おうと、尾と右爪が小さく揺れる。

しかし、その合間を貫くように。

後から続き、天から矢が降り注ぐ。


恐らくは一撃で当てることを狙わずに、複数の矢をバラ撒いている。

威力ではなく阻害こそを目的として、能力さえも使わずに。

自身の努力のみで行う、可能な限りの速度の射撃。


ひょろひょろ、とでも言ってしまえそうな威力の攻撃。

けれど、そのどれもが弓から放たれた攻撃であることは間違いなく。

触れた時点で尾は萎れ、爪の動きも散漫に。


伝承通りに、討ち取られる直前を再現するように。

本来の動き全てを麻痺させられ、足を止められる。


>>奇襲成立。『0行動目』

>>『朔』の『劣火の法』。干渉成功。対象の攻撃低下。

>>『白』の『血飛沫月光』。攻撃が1回命中。『鵺』の生命力が15点減少。

>>『紫雨』の攻撃。3回命中。『鵺』の生命力が7点減少。

>>弱点成立。伝承誘発。 『鵺』の次回行動は自動失敗。

>>行動待機中...


目線の端で移り変わる記録事項。


その中で気になったのは、弱点を突いた時の表示の一文。

……弱点成立、は分かるが「伝承誘発」?

少なくともこの三年間で一度も見たことがない文面。


これが、書かれた通りの意味を持つのなら。

高名な妖で有れば有る程、知識を持てば有利な面を持つことに繋がる。

ゲーム版では見たことのない特徴。

この世界の根底に関わる内容であるのなら。

俺が今の状態になってしまった、始まりへと繋がるのかもしれない。


(細かく考えるのは後……!)


両手で長柄……杖を握り締めぶつぶつと言葉を紡ぐ先。

伽月の刃が鵺の右目を上から下へと裂き潰す。


『――――――――!』


悲鳴にさえならない声。

吹き出る体液に触れるのを恐れ、その場で飛び退って回避する。

リーフは行動する分を紫雨へと回しているはずだ。

此処までで体感約30秒程。


恐らく、行動処理が『○行動目』と記載されているのは。

取った行動に応じて実際の時間経過が異なるから……

だからこそ、呪法を放つタイミングは経験を重ねなければ安定させられないのだろう。


(とは言っても……此処からはほぼ固定行動。)


呪法陣の場合、詠唱は必要ではない。

唯それでも唱え続けるのは、そうすることで集中できると俺自身が理解してしまっているから。

言葉と思考を分離する訓練を重ねたことで、俺の特異性を活かせる形に成長したから。


今は速効性を必要としない。

必要なのは、確実性。

呪法陣自体の発動に失敗しないのなら、相手の行動停止に失敗したところで影響は其処まで無い。

だからこそ、再度発動しようとして――――。


じっ、と。


(…………は?)


目線だけを視線の元、木々の中へやるが何も見えない。

立ち位置の問題も有るのだろうが、肉体が見えないから感覚拡張も効果を発揮しない。

思わずそっちに身体を向けてしまいそうになるのを止め、握力を更に込めることで意識を戻す。


「ご主人!」

「ああ!」


羽根を用いて上下左右、空中での姿勢制御や自身の身軽さを利用した空中殺法。

皮膚を少しずつ削り、体液を零しながら相手の動きを止める白ではあるが。

体重差もあってか、完全な無傷とは言えずに彼方此方に損傷が見える。


数値に現れない生命力の減少。

或いはこれから減る予兆とも取れる状態。

ただ、それを見るのは今までも何度も有る。

足止めに成功している以上――――。


「呪法陣行くぞ!」


一度杖を持ち上げ、地面に埋まる程に叩き付ける。

振動、地面を這っていた霊力の円。

形作られ、けれど中心の鵺は縛られるのを嫌がり霊力の鎖を引き裂いている。


「朔君! 一歩左!」


言われるがままに左に飛び。

俺が一瞬前にいた場所を、今度は力を込められた矢が貫いていく。

瞬間、首元にめり込む白木の矢。


「伽月!」


相手の生命力は確実に、そして大幅に減りつつ有る。

終わらせるまで、視界の主が残っていれば良いのだが――――。


そんな期待を、思考の果てに追いやって。

更に詰めを掛けようと、普段とは違う治癒の為の霊力を練り始めた。

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