044/常世


結局、約半日を掛けた成果が出たと言って良いのか。

”何か”を見つけたという意味では成果だろうけど。

”知りたくなかったこと”を見てしまった、という意味では大失敗。


「………………これ、が、長柄の……杖、です」

「って言っても【土属性強化】【水属性強化】が付いてるだけなんだけどね~」


各々が見つけた情報・道具の情報交換。

そして延々と見張りを続けているのも疲れるし、実質的な探索終了と休憩を兼ね。

本殿の地下、床下にて六人で色々と話し合いを続けている。


「その二つでは……確かにリーフにも意味を為さぬのぉ」

「こう言ってはなんですが、外れということでしょうか」


自分が扱う武具ではないから、其処まで注意を向けているわけではないが。

それでも仲間が扱う種別のものは特別のようで。

前衛二人も次から次へと見せられるモノを確認しては自分の感想を述べつつ。

薬湯を口に運び、無理にでも水分を多く摂取するようにしている。


「……はぁ」


まあ、得た物自体は大きいが。

その分抱えなきゃいけない情報が多く、気疲れが出る。

余り口にしないようにはしているのだが……ついつい、溜息が出そうになっては留め続ける。


「……まあそうなる気持ちも分かるがのぉ」


ただ、その程度で隠せているなら今までも苦労してない。

顔に出やすいからなのか、或いは特別鋭いのかは分からんが。

あまり良い状態でないのは全員が簡単に見抜いてきていた。


「地下室の中に更に情報がありそうで、次いで言えばその上には怨霊……かぁ」


新たに情報が入ったとは言え、今の大問題は紫雨が述べた通り。


どういう経緯で地下室の情報を得たのか。

どういう資料を見つけてしまったのか。

それらだけは何とか隠し通せたものの、地下の話だけは隠し通せるものでもなく。

同時に言えば隠す理由もそれほどない、というのは俺個人の問題点。


、ってところがネック何だよなぁ……。)


恐らく灯花自身に宿る神の力の理由の一つ。

この周囲を覆っている結界……或いは封印、牢獄の元々の切っ掛け。

あの世を支配する、とされる権能を持つ存在。

そんなのが此処にいたせいで、と言うには余りに責任転嫁過ぎるか。

ただ、そうなると問題がまた幾つか。


「で、誰と行くんじゃ?」


じろり、と俺を横目で舐めつけるように見る。

当然吾は連れて行くよな、と言いたげな白が問題提起した通り。


地下の現状が分からない状態で突撃せざるを得ない、というのが一つ。

これは周囲の風化現象とかそういった事を纏めて考えた結果浮かび上がるもの。

何らかの手段で封じられた地下の神々を開放できれば、決戦時は此方に一手有利になる。

周囲の『常世』という地形効果ラベルを剥がすことが出来る、という意味合いで。


一つは上の怨霊の浄化……鎮魂が必須となるということ。

これが実行できるのは、この面子だと灯花のみ。

つまり何かしらがあったことを考えると、上と下でまた割り振りが必要になる。


そしてもう一つは、実行してしまえばそのまま決戦に移行するのが必要になる事。

周囲の状態が若干なりとも薄れるのなら、相手に準備をさせる理由もない。


これらを複合すると、俺達がやるべき事は以下のことを連続で対応する必要がある。


・(事前準備:呪符の作成・結界構築準備・呪法陣準備・戦闘用意)

・受付奥にて怨霊の浄化、及び地下の神の開放

・間を可能な限り空けず神社内で召喚・結界展開

・戦闘・撃退(或いは討滅)

・この場所からの速やかな撤退


……無理じゃないか?

強大過ぎる敵と実質二連戦みたいになりそうで怖いんだが。


「どうするかねえ……何にしろ昼間の内に片付けないと不味いんだよな」


ただ、そんな言葉を口に出来るはずもない。

士気を落とさず、可能な限り勝率を引き上げる。

俺がやるべきことは結局其処に尽きる。


「…………その。 陣の方、は、どうです、か?」

「一応使えそうな情報は幾らかあったから二人も後で見てくれ」


それを判断できるのは二人だけだから、また負担を掛けることになるが。

二人は午後をそれに費やして貰い、使えそうなものを探して貰うとして。

俺達はもう一回森の外でも……。


「ね~、朔君」

「ん?」


ただ、どの方向に向かうにしろ火力担当と回復担当がいないとなると。

無理はできないよなぁ、と皮算用を浮かべる中で、手を上げ提案するのは紫雨。


「誰が行けるか分からないけどさ、一回地下を探してみるってのは駄目なの?」

「ああ……それはそれで良いんだろうが、怨念の次第かなぁ……と思ってる」


方向性?と首を傾げる彼女に。

飽く迄一例だけどな?と前置きを挟みながら、説明を続ける。


「怨霊が動き出す切っ掛けが『地下に踏み込む』だと面倒そうだよなぁ、ってのがあってな」


可能性としては……精々半々くらいだろうか。


『研究者』を呪ったまま、あの場から身動きが取れなくなっているタイプが一番安心。

最悪なのは全てを呪い続けるタイプの暴走状態なんだが……。

俺達の今の運を考えるとそれを引き当てそうだとも、神社だからとも分からない。


「なら、最初から浄化しておくのは?」

「準備に時間が掛かるから今日は無理だろうなー」


いや、もっと深度を深めたちからをもつ霊能力者なら多分出来るんだろうが。

今の灯花だと……御神酒とか沐浴だとか、外部からのバフが必要だと思うんだよなぁ。

下手に実行して怒らせた時が怖いっちゃ怖い。


「……なら、決まっておるようなもんじゃろ」

「へ?」


だから、と続けようとして。

それを遮られながら、白は全員に頷きを向けつつ口にする。


「吾とご主人、或いは雌猫と伽月。 三人でこっそり向かえば良い」

「いやいや、気付かれるだろ」

「それこそ何を言っておる?」


え、と。

噛み合わない会話の中で。

やれやれ、と肩を竦めながらに白は偉そうにした。


「伽月一人で問題ないかを試し、問題ないのなら気配を増大させ一人と誤認させる。

 ……出来るはずよな?」


――――ぁ。

理論上は、通る……のか?

こればっかりは、試してみないと分からない。


不安そうな伽月に、全員の視線が向かった。

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