057/仮契約
さて、と。
互いに互いの打ち合わせを済ませた上で。
はっきりしたことは一つある。
敢えて言わなかったこと。
黙っておこうと思ったけれど――――言わずにはいられなかったこと。
「……んで。 ちょっといいか、全員」
「んお?」
おそらくは薄々と気付いていること。
漂っている雰囲気の重さや何処か沈痛とした表情。
真剣、と言うだけでは諸々足りていない状況。
それらを組み合わせた上で、実戦経験が深いならば誰でも気付くこと。
そして幾人かは敢えて口にせず。
そして幾人かは経験不足により言葉として気付いていない、現実を見据える言霊。
「対応策に関しては取り敢えず一旦置く。
その上で、率直に確認するが……現状で突破できる可能性はどの程度と見積もってる?」
その為に、今更ではあることを問い掛ける。
各々の危機感の確認。
やれ、やると決まればそうするのは当たり前の職業として。
それでも対応策、対応できる可能性に関しては各々自身の力量と照らし合わせるはずだ。
特に、俺達は無理をして突破してきたようなタイプじゃない。
自分に出来ることを当たり前に熟し続けてきた、何方かと言えば安定型だからこそ。
今の内に意識の摺合せが必須だと、そう思うのは多分俺が考えすぎる性質だからだろうと。
そう思いつつも、全員の顔色を確認した。
「現状見えている情報だけで言うならば、一割は切るじゃろうな」
それがどうかしたのか、と答えたのは白。
「…………上がるか、どうか、は……私達次第、ですよ、ね」
唯でさえ抱え込む性質のリーフは、胸元で小さく力を入れて手を握る。
「本来なら、私が断ち切れるのが理想なんでしょうけれど」
自分の力を求める伽月は、一歩踏み間違えれば闇へと転がり落ちる思想を口にする。
「相手が相手なんだし~。
……まあ、ボクも何時かはこういうことになるんじゃないかって心配はしてたけどさ」
それでも終わりが決まったわけじゃないし、と最初の出会いを思い出すように呟く紫雨に。
「もとはといえば……灯花の問題、でしたから。」
そして、ある意味諦観。 ある意味では前向きな色合いを滲ませた灯花。
五人が五人共に、各々の考えを浮かべながら。
『そんな当たり前のことがどうしたのか』と伺ってくる。
其処に混じる感情は今までの経験を積み重ねてきた成果で。
同時に感じるのは地下から届く混線したような意識と視線。
どう対応するのか、と確かめるような雰囲気。
これだから神と名の付くやつは、と思ってしまうのは。
……多分、この世界に来る前の自意識が強いからかもしれない。
『神』と呼ばれる存在は人が作り出すか信じるモノのみで。
身近に感じることも、実感として感じることもなかった故の存在。
人が用いるモノとして確立してしまっているからこそ、遊戯や空想として利用できる情報。
こうあるべき、と決められているからこそそれを鵜呑みにできてしまう情報体。
特に、俺のような。
そういったものから意図的に距離を置かれていた都市に住んでいたのなら明白で。
だからこそ空想の世界として構築されたゲームの世界にのめり込んだ一面は確かにあったし。
普通では触れることさえ出来ない情報だからこそ、好んで調べ始めた一面も確実にあった。
(とは言え……今此処に至っては他人事どころの騒ぎじゃないもんな。)
気付いた時から『この状況はいつまで続くのか』と心配し。
それから数年間が経過して、情報を知り得た上での行動を取り続けた今。
急に『俺』の前の……何も知らない主人公として戻ったとして。
的確な行動が取れるのか、と聞かれれば決して首を縦には振れない。
そもそも『何が切っ掛けなのか』という情報には一切触れることさえ無く。
それを知るには、恐らく霊能力者から一歩踏み外したような存在から聞くくらいしか思い付かず。
誰が――――何が思い付くかと言えば、やはりそれも『神』なのだろうか。
(……こんな悩みも楽しみながら見てる気がするんだよな。)
別世界、別の視点。
本来持ち得ない別の
知りたくもなかったことを知ってしまう、という意味では不幸で。
知らなければ終わっていた事を知れる、という意味では必要不可欠。
……つまり、何かしらの役割を担わされていると考えるのならば。
それを踏まえた上で、俺が取っておくべき行動。
後回しにできる、という甘い考えを切り捨ててしまうべき行為。
正式に儀式として行うのは後でとしても……実際に勝率を1%でも上げられる可能性のある行為。
他の全員から、他の可能性を奪い取る許しを確認する行為。
それを、もう一度確かめる。
「なら――――」
きっと、それを口にするのを期待されている。
そう感じてしまう自分もいて、自分自身を嫌になりつつも。
「その勝率を少しでも高めることにする。
お前等から選択肢をまた一つ奪うことになるが……許してくれるよな?」
敢えて自虐的に、自罰的に。
この世界に敷かれた、理の一つ。
血盟を結ぼう、と投げ掛けた。
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