039/封印
結局、彼女が近付いてきたのは白が戻ってくるのと同時。
後ろの方で待ち惚けを食らっている三人は焦れているようで。
自ずから周囲の調査――或いは獲物探し――を続けているらしい。
まあ、他からすれば”負担が軽い”と思わんでもないのは認めるし。
誰の為に、と考えれば善意で動いてしまうのもまた認める。
俺自身もやってしまうことだろうし、色々と探してしまうだろうし。
とは言え、だ。
(……『水虎』らしくないとは言え、紫雨が気付かないとも思えないんだが。)
深く突っ込むと色々面倒事が起き上がってきそうなので胸の内だけで。
分かりやすく疲労の毛色を見せ、それでも自己治癒で多少はマシになった彼女へ。
アレ、と白の手の内を指差し、示す。
「ごしゅじーん」
「おう。 罠とかはなかったか?」
「無かった。 然し、何故吾に見えんかったのかの……?」
恐らく、拾い上げる前だったら灯花にも見て貰うことで確定出来たとは思うが。
深くは言わずに、取ってきて貰った黒い物体を受け取り。
くるくると回転させながら目を介して見る。
大きさとしてはバスケットボール……或いはサッカーなどに用いる球くらいか。
今の俺からするとかなりの大きさではあるが、重みも其処まであるように感じない。
ただ、内側を見通すことは出来ない。
触覚でも駄目、視覚でも駄目。
誰かが相応の力……或いは怨念でも込めて覆い隠したかのように。
(……ま、やってもらって損はない筈だ。)
内側はなんだろう、と考えた所で。
幾らでも浮かぶし、同時に何にでも結び付けられてしまうのが現状。
だからこそ、実物を見てから考える方向に切り替える。
「灯花、深度上がったか?」
「……えっと……多分? 何だか、震える感じはしました、けど。」
それを彼女に手渡しながら、小さく頷く。
深度を上げるとしても、1から2に上げるには其処まで負担ではない。
俺も白……『飛縁魔』を一人で打倒したことで上がる程。
『水虎』を複数人で、とは言っても相手も複数体。
俺達は早々上がる訳では無いが、彼女一人くらいなら問題なく上がる基準には達する。
「なら後で写し鏡で確認してくれ。
それと、これは神社に戻った後での頼み事なんだが……」
「ここじゃなくて、でしょうか?」
ああ、と再び頷いた。
正直な話、こればっかりは実験に過ぎない。
朝から考えが二転三転し続けているが、封印されていると考えるなら。
それを解決するために取って貰う手段は現状一つしか無い。
「多分、これは封印されてる。」
「ふういん?」
相変わらずの言葉。
話が進めば普通に会話できるのに、最初の部分が舌足らずのように感じる声。
妹弟子……とでも見るべきなのか。
或いは純粋に俺の弟子みたいなものと見るべきなのか。
「なんつーかな……普通にやっては絶対に開かない瘴気の箱、か?」
単純に罠が仕掛けられている。
或いは鍵が掛けられている。
そういったモノとは違い、幽世に固定で配置された箱。
一つの部隊に付き、入手する機会は最大で一回。
そもそも出現するかどうかも不明で、出たとしても開封に条件がいる。
『部隊合計で深度が一定値以下』。
『幽世の主を一定数以上撃破』。
『特定の目標を受諾中でなければ解除が出来ない』。
ランダムで発生する瘴気箱とはまた別口。
連戦を行うことで発生する希少箱ともまた別。
存在そのものが特異性を秘める、分かりやすく言うならRPGに於ける重要品。
「はぁ……?」
「多分此処で見つかったのも偶然じゃない……んだろうなぁ」
白へと目線を向けた。
開封条件の調査、文面で表示されるそれ。
本来ならば画面上に浮かび上がるはずの情報は、この世界ではまた別で。
罠を調べる能力持ちが調べた際に、脳内に文章として提示される、と言ったものらしい。
つまり、だ。
「白」
それを知るのも、先程調査して貰った彼女だけということになる。
「ああ。 『浄化』そのものが条件だの」
小さく頷いて、そう伝え。
どうせいつかは、と半分取って貰う理由付けにしようと思っていたそのものを口にされ。
後方の三人の方へと向かっていく背中を追いながら、一つの疑問を脳裏で巡らせた。
気になるのは、あんなところに隠されるように置かれていたこと。
本来なら目立つように、もっと別の場所に設置されるのが普通なんだが。
何しろ、普通にしていては絶対に開かない物体。
それを知らない相手を引き込む為の罠にだって用いられてしまう物品だ。
それをひっくり返して考えれば――――。
隠した相手は誰にも知られたくなかった、ということになるのだが。
或いは、これを見つけられる相手に託した、か。
ゲームであれば普通、けれど現実からすれば異常。
この隙間をどう埋めるべきなのか。
「――――の。」
「ん?」
「あの……?」
ブツブツと考え事をしながら独り言を呟いていたらしい。
気付けば黒い物体を両手に抱えながら、目前で俺を見上げている。
そうしていれば、単純に年下の女の子に見えなくもないんだが。
「すまん、ちょっと考え過ぎてた」
謝りつつ、自分に対しても警告を促す。
どうにも引っ張られすぎるんだよな……。
もっと単純に、分かりやすく考えて良い気がする。
多分その鍵が、目の前の変な物体。
「いえ。 ただ、一つ聞いてもいいですか?」
「答えられる内容なら構わんぞ」
「そとのひとって、皆……貴方のような感じなんですか?」
一瞬ぽかんと表情に出たと思う。
そして即座に首を横に振った。
「ないない」
異常集団、というのは年齢だけじゃなく性格にも掛かってくると自覚してる。
まあ他のメンバーに正面切って言うようなら相応のお返しはさせて貰うが。
自虐するなら……良いかなぁ。
「俺達と同じだと思ってると色々苦労すると思うぞ」
「そうですか……分かりました、お兄様。」
「おう。 ――――ん?」
あれ、今なんて呼んだ此奴。
問い掛けようとしたが、背を向けてしまい。
どうにも一瞬動けないところで……背後から、改めて。
警戒を知らせる声が響いた。
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