012/観測
進む度に違和感は強くなる。
粘度が上がる、という言い方が正しいのか。
肌に張り付くような違和感が酷く増していく。
(……一体、何がいるってんだよ。)
視界の端にいつもの数値が見え始めた。
つまり、この周囲が見える程度にまで瘴気か霊力に満ちているらしい。
龍脈の力は……どうなんだろうか。
方向性が定まっていれば見えてもおかしくはないと思うが。
「……ご主人。」
前方向を警戒していた白が袖を引き。
ああ、と乾いた返事をする。
現状、何かを感じられるのは三人というのもあり。
普段取る隊列とはまた別の手段を取っている。
即ち、俺と白が最前列。
中程にリーフと彼女を護衛するような形の紫雨。
最後に伽月、と言った感じ。
何かがあれば即座に駆け寄れる程度の距離感覚ではある。
ただ、戦闘ともなればこそ、その一瞬の重大さは理解せざるを得ない。
だからこその、その一瞬を稼げるだけの編成。
……俺と白でやっと伽月一人分くらい、っていうのもどうかと思ったが。
「いるな。」
その発想は多分に間違っていたと思う。
目前に見える存在を捉えながら、ふざけんなと心の中で吐き捨てる。
猿、虎、蛇が混ぜ合わされたような生命体。
吐く息が黒ずむ、恐らくは木々の合間を獣道のように成り立たせている張本獣。
種族名『魔獣』、分類名『鵺』。
中級幽世から終盤に掛けて見掛けたりするような種族を持つ存在。
そんな一匹が、眠そうに大きく口を開けている。
(……生き殺しじゃねえか。)
相手の特徴を踏まえているなら兎も角として。
そんな知識を持たない相手を捕らえておくには十二分過ぎる。
何しろ、相手は妖と言えど獣の要素を強く持つ存在。
普通であれば五感が強く利く、放し飼いにされた番犬のようなもの。
未だに神社の建物は見えていないが、彼奴がいるということはかなり近付いていると思う。
ゲームの頃だと、その建物に『未だに生きている誰かが住んでいる』と発覚するのが最初の条件。
見つけるものは食事の残骸や未だ残る体温、或いはその当事者まで。
彼(或いは彼女)は見つけられない事こそが末路、としているのか。
死ぬような処理を挟まないと言うのは少しばかり特殊か。
結果、踏み込んだ時間帯や乱数次第で微妙にその後の行動が変異する。
だから、先々を考えれば確実に倒さないと行けないわけだが――――。
「…………。」
見るからに白の顔も真っ青に染まっており、背後は何事かと覗き込もうとしている。
種族的に差が明確で、且つ種族の特徴も通るか分からない相手。
言ってしまえば彼女にとっての天敵の一体に当たるわけだからそれも分かる。
動くな、と
ただ、それでもまだマシだったと安堵している自分もいたりする。
(まだ鵺で良かった、と思って良いんだろうな。)
はっきり言って、この世界の難易度を底上げている要因の一つは情報不足にあると思っている。
妖がどんな能力を持つのか。
幽世にどんな罠があるのか。
どんな事をしてしまえば深度上限の削減に当たるのか。
そういった蓄積されるべき知識が秘匿され、師弟や一族でのみ引き継がれる。
能力者組合で手に入るのは飽く迄一般的な知識。
それより深い情報を得る手段が限られすぎているから、その身を以て理解するしか無いという事。
前世に比べ情報を得る手段が少ないことが、死傷率へと関わっていると思われる。
……それが、この世界に落ちてから伝え聞く話で判断した基準。
けれど、その前提を覆す知識を俺は持っている。
だからこそ、まだ対処出来る相手であるのはそれだけで難易度を下げる理由へと繋がる。
「白、後ろの三人に伝えてくれ。」
「…………おい、ご主人?」
小声よりも更に小さく、囁く程度。
ほぼほぼ言葉として成り立たない程度に小さい声。
この話し方で互いの意思を理解できるようになるまでそこそこ時間が掛かった。
だから、入ったばかりの二人はまだ未習得。
「妖名『鵺』。 特徴は尾が持つ毒と複数回の攻撃、火炎の吐息。
ただ、見る限りかなり若い個体。」
嘗ての鵺――――古代の、言い伝えとして残る鵺の話。
空を飛び回る能力を持ち合わせていた妖は、
但し、他にも幾つかある伝承と複合されてからか。
深度の高さに応じ、『飛行』能力。
システム的には近接攻撃に対する確率自動回避能力を保有する、と定義されていた。
此処で見る限り、目の前の鵺には翼が生え切っていない。
つまり飛行能力を持たない、単純に複数回の攻撃を持つ強大な敵程度。
そして何より、『弓』により落とされた伝承を持つが故に決定的な弱点を抱えている。
「紫雨が彼奴の胴体に矢を叩き込めれば、伝承通りに行動が止まる。
奇襲を掛ければ倒せない相手じゃない。」
より正確に言うなら、成長後ならば『飛行能力』の消滅、及び地面に落下することでの大打撃。
成長前ならば受けた後多少の間行動自体の停止。
何方が楽なのか、と言われると……部隊次第、としか言えない。
「それまでは俺が監視しておく。 伝えたら全員に一度確認させてから作戦を立てるぞ。」
大物食い。
妖退治。
しなくてもいい行為であるとは言え。
「お前のほうが上だと。 そう、示してみせろ……飛縁魔。」
――――深度を上げるには、壁を超えるには恐らく。
いい機会だと、そう判断した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます