003/『月』


スキルの大分類。

ファンからは『無駄に拘り過ぎ』と苦笑され。

一般プレイヤーからは『分かり難い』と酷評され。

そして俺は『実質的に職業みたいなもんじゃん……』と思っていた幾つか。

その中で選んだのは、『月』。


「ほう。 『月』か。」

「はい。 ……まあ、色々と理由はありますけれど。」


眼帯を一度擦るように撫でた。

それだけで、目の奥に浮かんでいた虚ろな影のような物は掻き消え。

同時に強く感じていた圧力から解放される。


「分かった。 ならばその鍛錬から始めよう。」


父上が必要な道具を取りに戻る中で、深い深い溜息を吐く。


(やっぱり圧力ヤバいだろ……レベル差どんだけあるんだよ。)


ゲーム内でたまに出ていたレベル差が有りすぎる際の表記。

『恐ろしい圧力を感じる……。』という一文の意味を噛み締めた。


確か主人公基準で20以上離れてると出た表記の筈だから……最低で21以上。

時間さえ掛ければ(そしてイベントを無視さえすれば)レベルは青天井まで上げられるとは言え。

20代なら序盤の後半、或いは中盤の前半くらいまでは辿り着けるレベル帯。

そんな相手が自分(?)の父親というのは大きなアドバンテージでも有る。


(……とは言え、出てくる妖のレベル算出基準を考えれば嬉しいとも思わないが。)


基本は同行者の平均値から+-10レベルの範囲で現れる、幽世の妖ダンジョンエネミー

だからこそ、出来るならレベル差がない状態で潜るのが基本中の基本。

ただ万が一を考えれば同行者が強いほうが助かる確率が上がるのもまた必然。

そうなるとどっちのリスクを負うかという話ではあるんだが。

俺はある程度のリスクを飲んででも、同じレベル帯で揃える派閥に属していたと言うだけ。


(だからこそ、俺は序盤『月』を優先するタイプなんだしな。)


俺が『月』を選んだ大きな理由。

それは序盤から使用可能なスキル群の中でから。

というのも。

スキル大別それぞれにはイメージ毎に良くある効果が割り振られている。

(これらはアイテムでスキルポイントをある程度リセットできるというのも理由の一つ。)


『花』はなは植物のような地面に根を張り耐えるイメージ。

【長期戦に有用なスキル】【防御面を強化するスキル】が該当する分類。


『鳥』とりは素早く舞う鳥のように確認し、隙を穿つイメージ。

【罠などを調べるスキル】【短期戦に有用なスキル】が該当する分類。


『風』かぜは実物を掴むことが出来ない、周囲に影響を与えるイメージ。

【相手に直接攻撃する系列の呪法まほう】【味方を支援・治癒する系列の呪法まほう】が該当する分類。


『無』はその他の該当しない一般的な変異・強化を詰め込んだ常時強化パッシブの詰め合わせ。

【ステータスの恒常的な強化スキル】、

【防具装備枠を一つ武器装備枠に変更するスキル】なんかが該当する分類。


結局どの大分類も最低限は習得するかじることにはなるが、大体2~3種類に絞って取得するのが普通。

であるなら、俺が選んだ『月』つきと呼ばれる分類は何なのか。

ゲームでの説明をそのまま流用するなら。


妖の力を取り込み。 それを霊力と合わせることで蝕み、逆に利用するイメージ。

【妖を利用するスキル全般】【敵を弱体化・汚染する系列の呪法まほう】が該当する分類。

つまり――――。


「用意したぞ。」


父上が家から出てきた時に持っていたのは、何かが封印されたような形の呪符*1が二枚。

片手で空中を扇いでいるところから見て、倉庫かどこかに眠っていたものを発掘してきたらしい。


「この中には幽世で捕らえられた妖が封印されている。 屈服させるも良し、倒すも良し。

 。」

「分かりました。 ……その前に、準備をさせて頂けませんか。」

「無論だ。 その為の呪法は此方に封じてある。」


俺が好んだのは、

これ以外の手段取ろうとしたらもう少し時間が掛かるってどうなってんだあのゲーム。*2


もう一枚の札を差し出す父上。

それを恭しく受け取りつつ。

楽しんでやってはいたゲームではあったが。

それはそれとして、内心で愚痴として吐き捨てた。




*1:呪法まほうの一部を使用する際に消耗する道具。また、下級の呪法まほうを封印してあるタイプのものも有る。

*2:無論経験値的な面を含めメリット・デメリットはどれを選んでも有る。但し【選ばない】は地雷。

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