076/展開


(……さて)


右手の光の発光/収束が加速しているのを横目で見ながら。

視界に映る時間経過カウントを数えながら。

所持能力スキルリストに記載された内容を、頭の中で反復しながら。

を行使する為に、動きに乱れが見えない神の行動の隙間を狙いながら。


誰にも、部隊の仲間達にさえも言わなかったモノを噛み砕いて咀嚼りかいしていく。


『調』――――俺が継承した、してしまった。

実際に会っていれば幼馴染、と言う身分だっただろう少女の特徴は。


どんくさい、行動が一歩遅い。

けれど、一度手を付ければ最後までやり通すだけの胆力を持ち。

そして何より、最初よりも最後のほうが進行具合が進んでいくタイプの人種。

一言で纏めるなら、圧倒的なスロースターター。


『え、ええっと……どうすればいいの?』


そんな事を言っていた事を

そんな事を言っていた事を画面越しに見た気がする。


そもそも、俺達の里生まれにしてもそうだ。

生まれついて、戦うことを半ば強制される場所。

そんな場所にも関わらず、当初は戦うこと自体を忌避する少女。

その外見に似合わず、只管に『力』の霊能力ステータスが伸び続ける少女。


幾度も話し合い、幾度も連れ出し。

そして半ば強引に連れ出し続けることで根負けし。

合わせ、里には殆ど存在しない書物を餌にすることで仲間とし。

最後の最後の時、幾度も対話を重ねて好感度を高め、固有能力を突き詰めた先。

純粋なパワーアタッカーとして開花する、遅咲きの戦士としての側面を持った子。


(――――


そんな。

既に存在もしない筈の、誰かに声を掛ける。


『うん』


返答が返る筈も、それを求めたわけでもない。


ただ、極純粋に。

考えれば考えるだけ深みに嵌められる、神々から思考を逸らそうと思っただけ。

宿らされてしまった、同じ姿を担った思兼からも同時に思考を外そうとしただけ。


普段から何かを考え過ぎてしまう俺は。

同時に、何かを考えなければ動けないという意味合いにも合致する。

いや、正確に言うなら全力を出し難い――――か。


だからこそ、刃を交え、吹き飛ばされ。

そんな中で行き着いたモノ。

読み取られようと、向きを変えられようと。

その固有の在り方だけは決して変わらない、そんな得てしまった答えを想う。


生きてさえいれば。

触れ合う機会さえあれば。

その方向性や深度は千変万化する、術技にも似た特性を持っていた筈なのに。

既にその答えは固形化し、凝固化したことで一つの方向性以外を指し示すことはない。


本来であれば常時効果として在ったその在り方を、能動術技として移し替えた劣化固有。

その祈りを宿した右手越し。

新たに得た長柄の柄を握り直し、一呼吸を重ね。


「ふっ!」


荒れ放題の状況へと塗り潰されていく森の中。

木々の合間にその姿を隠し始めた、邪神へ向けて大きく踏み出す。


「……ご主人!?」


「えっ!?」


途中、攻撃を回避した白の横を抜ける。

既に何度か起こしている行動なのに、奇妙な程の大声で叫んだのは。

多分、通常の俺ではなかったからか。

その声色には、焦りにも似たモノが漂っていた風に思う。


『苧遣香ァ!』


両手を振り上げ、地面を叩くように木々の根を刺激する。

それに直撃してしまえば、俺の防御の薄さからしても柘榴の実のように弾けてしまうだろう。

それに合わせ、避けることを前提とし、木々の影から突き上げるように幾本も突き出る影の刃。


(ただ――――攻撃で阻害してくれて助かった)


直撃することのみを避け、敢えて一歩踏み込む。


左腕、肩に近い部分が微かに削れ。

一瞬だけ目眩にも似たふらつきが起こり。


「おにいさま!」


背後からの叫び声。

俺に纏わり付くように降り注いだ光。

痛みが掻き消えるのとほぼ同時、目眩も消え去った。


『陰月の光』……月の光を媒介とする肉体治療。

単体回復の呪法と違い、夜にこそその本領を発揮する呪法であり。

同時に龍脈という属性を利用し、太陽と月が同時に存在する”あわい”の在り方を両立し。

治療効果の最大化を齎し、紫雨からの道具効果による肉体への変異をも打ち消して。


「――――助かる!」


万全な状態でこそ、


呪法と術技、それぞれで消耗するコストとしての値。

俺自身が未だ会得せず、将来的には取ることも考慮しなくてはいけなくなった自己治癒能力。


生命力HP』としての意味だけでなく、戦闘を続行するための気力という意味合いも持ち。

その殆どを費やさねば発動さえも出来ず。

だからこそ、こうした戦いでこそ本領を発揮する。


投げるのではなく、一度大振りなほどに腕を引く。

足元を固定化せず、大きく踏み込む動きのままに慣性を利用する。


半ば自動的に動く、そんな在り方。

以前に幽世で体感した、正しい――――熟練者の動き方。

自分自身の肉体に適応しない、その効果のみを活かすことに注力した全力を発揮する動作。


その反動を呑み込み、死を堪える為の消耗。

故に、死を覚悟するのならば。

使い捨ての形とはなるが……連続した動作も出来なくはない。


時間を掛けることで、その本領を発揮させ。

更に時間を費やすことで、その反動を低減する。

そんな、肉体に見合わない力を持ってしまった少女から受け継いだ技。


固有展開オリジナル


自分以外の誰かが、同時に呟いた気がしながら。


輝く腕を、そのままに。

振り下ろし、再度持ち上げようとする片腕の付け根へと突き出し振るう。


光り輝く武具と化した、木製の杖――――或いは槍。

その穂先、最も輝き。

鋭く尖った光の塊と化した部位が、着弾と同時に爆散し。

俺自身の生命力と引き換えに、左腕の先を消し飛ばし光へと霧散させていく。


【固】 :『終幕の”調”カーテンコール』 :1/1

/終わりの一撃。【継承】【段階増加】【段階低減】【禁■】


記憶の中。

引き攣るように笑っていた顔を

それを上書きするように、自身の能力に刻み込まれた効力を思い出す。


そんな子が持っていた固有能力。

極一部のプレイヤー達。

それも、攻略に本腰を入れていたタイプの奴等から言わせるなら。

強大な敵ボス特化』と。

誰もが否定しようにも出来ない。

そんな言葉に尽きる存在が持ち合わせるはずだった。


それこそが、受け継いだ能力だった。

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