006/『少女』
視界に入ったことで、その少女の形をした妖の情報が理解できる。
先程取得した『狩る者の眼差し』……視線を介して情報を得るスキルだからこそ。
「見る」事が出来なければ何の役にも立たないという欠点を思い出せた。
それが良かったのか悪かったのかは別として。
飛縁魔:【特殊個体】 状態:【転倒・困惑】
生命力:【■■ 】 霊力:【■■■■■■■■■ 】
(
冷や汗が零れ落ちた。
ふざけんな、と叫びたくもなるが……そもそも知っている事を咎められる事が怖かった。
ただ、序盤も序盤で遭遇できてある意味助かったと思える存在。
飛縁魔。
本来なら登場し始めるのは中盤以降……一人か二人のヒロイン候補が
その頃には仲間メンバーも数人に増えている頃。
そして、初めて現れる種類の妖として最も注意しなければならない存在。
それだけに、序盤であれば頼りになり。
後半であっても使っていけるだろう種族であることは間違いない。
(……多分だが。 成長前だから助かったんだな、これ。)
最も厄介な特性が煙で隠れていたとは言え。
この距離で使ってこないとも思えない。
普段であればもっとレベルが上の状態で遭遇する相手。
だからこそ、このレベルでは特性を身に着けていないのは知らなかった。
本来なら
直視しないように見る事に気をつけながら(無論、こんな事前はできなかった)。
身体の内側……契約を破棄しない限り一度しか使用できない、最も大きな流れに霊力を集中する。
(此処まで生命力を削ってるなら、先ず通るはずだ。)
本来。
この段階で式を取得しない場合。
その身一つで【特殊個体】と定義される妖を見つける必要があった。
だからこそ、かなりの無理を押し通してほぼ生身で押し通した。
その場合でも、今回でも。
契約する方法は全く同じ。
此方が上だと認めさせ、その上で
思い描くのは、人型に巨大化した白い式神の符。
それが実際に現れるように、空中へと刻んでいく。
霊力が体内から染み出し、周囲の空間を冒していく。
本来――――霊力なんて
『起きよ、式王子。』
宙に浮く、白い人形符。
きぃ、きぃと鳴く少女は困惑に飲み込まれながらも飛び逃げようとし。
けれど肉体の脆弱化が続く限りはそれも能わない。
『妖を――――。』
この儀式の最中は、俺自身も動けない。
だからこそ、脆弱化が持つかどうかは運次第。
再度の上書きをしようにも、霊力が持つかどうかはギリギリで。
文字通りの綱渡りを要求され続けていた。
(……こんな幸運、本来長続きするはずがない。)
此処まで来れたから。
若干の冷静さを取り戻せたから気付いた事実。
最初の引きは恐らく幸運。
ただ、その後は上手く行き過ぎている。
心の何処かで、その事実を認めている俺がいる。
だからこそ、今動けないのは恐らく何らかの強制力が働いている。
そんな事を理解できてしまう、俺がいる。
それは、多分。
視線をそちらに向けることが出来てはいないから、恐らくに過ぎないけれど。
飛縁魔を越えた先、古びた藁葺の家の付近で佇んでいるであろう。
父上の視線と無関係ということはないのだと、察していた。
自分一人では、未だ。
何も出来ない一般人であると受け入れさせられながら。
『我が、式と為せ。』
霊力で以て、脆弱化した肉体を押し潰す。
本来討滅する時と手段は同じで。
用いる術式と方法、武具が違うだけ。
ただ、その結果も当然切り替わる。
――――キ、キィ!
圧迫されていく肉体。
幼子を潰しているような嫌悪感。
じぶんのともだちを消すような、絶望感。
幾つもの感情が生まれては消え。
実際の時間としてはほんの数秒だったとしても。
俺からすれば、数分にも感じながら。
何も遺すことはなく、ひらりと白い札だけが地面に落ちる。
妖を狩るモノ――――
その本質は、一歩踏み外せば妖と何ら変わらない……能力を先天的に得てしまった人々に過ぎず。
瘴気に侵され、一瞬前と後で脅威度が跳ね上がってしまう嫌厭される人々でもある。
……その、仲間入りを果たした瞬間だった。
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