038/探し人
途中までは徒歩だった移動。
気付けば速歩に変わり、駆け足になり。
薬屋に着いた時には息を切らす程になりつつも扉を強く開く。
がちゃりがちゃり、と異音を立てながら開いた扉の奥へ身体を滑らせる。
おっかなびっくりとした表情で、留守番を変わっていたのかリーフが見詰めてくる。
「…………え、朔……く……?」
「悪いリーフ。 伽月は何処だ?」
彼女からの質問を先に叩き切る。
当人への確認その他諸々を優先する。
悪いが後回しだ。
「……上、部屋……だと、思う、よ。」
「分かった。 すまん、後で話す。」
肩をぽん、と叩いて奥へと進む。
大きく吸って、吐く。
それだけで大分呼吸は楽になる。
特にリーフの周囲は普通では気付かない程度には幽世の気配を漂わせる。
意識して取り込めば、俺のような変質した体質持ちには有効。
疲労も多少紛れたところで、階段を強引に進んでいく。
数段飛ばしなんてことはせずに、けれど急ぎ足で。
「伽月。」
一番上へ辿り着き、身体の向きを滑らせるように変える。
以前――リーフの時――のような立ち位置で。
「へ……は、はい。」
伽月がびくん、と跳ねる姿が視界に映った。
何をしているのかと思えば、刀に粉打ち。
斬れ味を保つための手入れの最中。
……まあ、それなら良い。
座って話をする余裕が幾らでもある。
逃がす可能性がない。
「今から時間貰っていいか。 ちょっと緊急も緊急だ。」
「へ、は……いえ、私にですか?」
ああそうだ、と頷いて返す。
目の前に座り、彼女を真正面から見据える。
今まで余り優先されていなかった、という自覚はあるのだろう。
そして俺自身も無意識のままに、彼女が話すまでは一段階下とした態度を取っていたと思う。
優先度を下げ、相談対象としても中々選ばない。
……「仲間」ではあるが「身内」とは違う。
そんな状態で折り合いをつけていたが、仮に予想が正しかった場合は色々不味い事になる。
少なくとも、俺の認識では。
”事前に
この場合の責任――――伽月を主題とした
俺も詳細を知らない、恐らくは『ヒロイン』としての一人のイベント。
当人だけに影響が出る流れでないのなら。
「単刀直入に言うぞ。 刀を使った超能力者斬りが出た。」
「…………!」
これだけでどう反応するのか、を含めての質問だったんだが。
急に変わった顔色の時点で察してしまった。
……彼女が、真っ先に街に現れなかった理由もこれだな?
言ってたな。 『兄弟子を探している』と。
そして彼女が負った刀傷……そしてその後で妖と。
流れで考えるなら。
一度は捉えて――――けれど刀は折られた、か?
「何か覚えがあるんだな? 一度しか聞かない。
仲間だと思ってくれるなら、話してくれ。」
――――純粋な好感度問題だとすると、ちょっと危うい。
ただ、ゲーム的に考えてしまうのなら。
(多分、どっかで好感度に
現実に適した言い方をするなら、”罪悪感”。
それを抱え続けた上でどれだけ仲良く出来るのか、という話。
だから、問題はないとは思うが。
言わずに飛び出すようなら……強引にでも止めようと身体に力を入れる。
「……そう、ですね。 事、こうなってしまったなら説明しないほうが不義理です。」
はぁ、と吐き出しながら。
硬直していた全身の力を抜いていく姿を見て、少しだけ此方も力を緩める。
ただ、動けるように警戒だけは続けたままで。
「ただ、念の為に前置きだけさせて頂けますか?」
「前置き?」
はい、と言葉にして。
一度目を閉じる。
次に開いた時。
内側の感情……恐らくは殺意などの負の感情か。
それが、目の奥に燃え盛っているのが見て取れた。
「これは私の一族の恥。 そして、復讐でもあります。
だから……聞き終えた後で、無理だと思えばお教えください。」
今までの礼をした後で、私一人で向かいます、と。
それこそ何でも――――望むのならば全てを捧げましょう、と言いながら。
呟く言葉に交じる思いは、年不相応にも程がある敵意。
「これより語るは、我が一族の恥。
俗世に溺れた父と、それを討ち果たす為に自ら鬼へと化した兄弟子の話です。」
ずん、と少しだけ空気が重みを増す。
――――そして、合わせて視界の外に浮かび上がる画面。
>>行動を待機しています...
以前の……リーフの時にも見た内容。
(……何で?)
けれど、今見える理由は不透明過ぎる。
あの時は彼女の持つ特異性故だとはっきりしている。
霊力が満ち過ぎて、世界が歪んだ結果なのだろうと納得できる。
……今回はその理由付けがない。
それが見えているということだけが先にある。
彼女の能力を一度見ている以上、隠された何かを持っているというのも考え難い。
(理論を考えるな。 結論から理論へと繋げろ。 もう結果はあるんだ。)
混乱する中で、自分を落ち着かせるために考える。
そうして――――聞き逃しそうになった言葉が耳に残った。
もしかすると、今彼女が呟いた言葉がその理由なのかもしれない。
鬼へと変化した。
それをそのまま捉えるのなら。
後天的に、人の身のままで狂った人間ではない。
人間の精神を保ちながら、妖の側へと堕ちたと捉えるのなら。
俺は、その状態の名前を知っている。
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