①俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます 一部一章  ~スカートめくりアイテム! スカートまくりま扇!編~

ぺんぺん草のすけ

第1話 プロローグ①

「ビン子のやつ。また、俺のベッドで寝やがって!」

 16歳ほどの少年が背後を振り返りながらつぶやいた。


 どうやらこの少年、先ほどまで目の前の作業台で突っ伏して爆睡していたようなのだ。

 その証拠に、おでこの上にのる黒髪短髪には変な寝癖がついている。

 変といえばもう一つ……いや、他にもいろいろと変なのだが……とりわけ目につくのが机の上に散らばっている道具たち。

 どれもこれも一風どこか変わっている。

 もしかしてこの作りかけの道具は団扇うちわなのだろうか?

 そして、その横に広げられた設計図面には、なにやらびっしりと計算式が書きこまれている。

 おそらくこれは、団扇がまき起こす風速の計算なのだろう。

 だがイマイチよく分からないのは、なぜ設計図面にスカートをはいた女の子が何人も色付きで書かれているのかということなのだ。

 しかも、丁寧に一つ一つのスカート丈の長さや材質まで書き込んでいるのである。

 もしかして、こいつは変態なのか?

 そう、変態なのだ! この少年は!

 この変態少年は昨日の夜からぶっ通しでこのへんてこな団扇を作っていたのである。


 どうやら団扇づくりのせいで、まだ眠たそうにあくびをする変態少年。

 そんなつぶれかけの目の下にはこれまた大きなクマがハッキリとできていた。

 しかし、そんな疲れ切った表情に窓の外から容赦のない日の光がバンバンと打ち付けられていたのだ。

 それはまるで、目の下に住み着いた熊を光の鞭でバシバシと打ち付け、無理やり閉じようとするまぶたをイヤイヤ持ち上げさせようとする残虐非道な調教師のようでもある。(by変態少年)

 ――まぶしい! って、もう朝かよ……

 そんな変態少年は恨めしそうに窓をにらみつけていた。


 窓の外には、これまた疲れ目に優しそうな緑の光景が広がっていた。

 というか、辺り一面、緑色をした森しかありゃしない。

 それ以外には、な~んにもないのだ!

 そう、ここは融合国の街はずれ、人っ子一人訪れない森の中!

 そして、なんと! 門と門が異世界と異世界をつなぐ聖人世界なのである!

 えっ! いきなりすぎ?

 まぁいいじゃん!


 ってことで、ログハウス、いや、馬小屋と言ったほうがいいぐらいのボロボロの部屋の中で、変態少年はミシミシと今にも壊れそうな音を立てる椅子からだるそうに立ち上がった。

 この変態少年、名を天塚あまつかタカト。

 根っからの道具作りが大好きな技術系オタクである。

 まぁ、俗にいうモテないやつというやつだ。


 その貧弱な体にまとう小汚い白地のTシャツには、この国のトップアイドルのアイナちゃんがプリントされていた。

 よほどそのTシャツが好きなのでだろうか? 何度も着まわしたことによりアイナちゃんのすべすべなお肌はところどころ剥がれ落ち、ついにはババアのようなしわくちゃなお肌になっている。

 コイツ! こんなことで真のアイドル道が極められると思っているのだったら片腹痛いワっ!

 その油まみれの顔と手をきれいに洗って出直して来やがれ!


 立ち上がったタカトは一回伸びをすると背後に置かれた古いベッドへと向きを変えた。

 小さきシングルベッドの上では13歳ぐらいの女の子が無防備な寝姿で寝息を立てている。

 この少女、名はビン子。姓はない。ただのビン子である。

 お察しの通り、彼らは兄妹ではないのだ。

 ごく普通のふたりは、ごく普通にこえをし、ごく普通以下の貧困を謳歌していました。でも……ただひとつ違っていたのは、ビン子様は魔女……もとい、神様だったのです!


 何だって! 神様だって!

 この少女はそんなに偉いのか!


 そんなことはナッシング!

 だって、この神様、記憶を失って何の力もないのです。

 だから、タカトとビン子の生活はとってもとても超貧乏。

 それは赤貧せきひんと言っていいほどの、キング・オブ・貧乏。

 もしかしたら、ビン子ちゃんは、ただの貧乏神なのかもしれません……


 ベッドで横たわるビン子はおそらく途中で睡魔に負けて力尽きたのだろう。

 長く伸びた黒髪くろかみが、髪ひもに結ばれることもなく無造作に白いベッドの上に広がっていた。

 しかし、その大きく広がる黒髪によって包まれた彼女の白肌は、色の対比によっていっそうその肌の白さを際立たせていた。

 さらには、窓から差し込む穏やかな朝日が、ワイシャツからこぼれる彼女のつややかな太ももを輝かせている。

 まさに男が見たら生唾ものの光景である……ゴクリ。


 窓の脇には、昨晩ビン子が読んでいたと思われる恋愛ものの小説が一つ。

 使われることがなかったブラシと髪ひもがその本の上で風に吹かれながら楽しそうに肩を並べて揺れていた。

 それはまるで、外でたわむれる鳥たちの様子を楽し気に眺めているかのようでもある。

 そんな窓からさわやかな風が吹き込むたびにビン子の長いまつげがピクピクとゆれ動く。

 そして、差し込むキラキラとした朝日の粒を彼女の美しい肌へと散らしていたのであった。


 その様子は控えめにいっても美しい……

 まさに女神様そのものだ……

 だが、そんな可憐な彼女の唇からは一筋のよだれがたれていた。

 えっ? よだれ……?

 って、これ……ホントに女神様?

 でも、その嬉しそうに微笑ほほえんでいる寝顔からすると、きっと夢の中でおいしそうなものを食べているに違いない。

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