第111話 金貨をどう使うかは俺の自由だ!(4)

 ニコニコと笑っている真音子であるが、その目はどこか冷たい。

「仮面を脱がないあなたがいくら冤罪だと言ったところで、誰も信じてくれませんよ」

「だから! だからこそ弁護士を呼んでくれと頼んでいるのだ!」

 ダレダ―はどうやら当初の目的を思い出したようで、ちゃぶ台に身を乗り出して真音子に要求した。

「いまから弁護士を呼んだところで冤罪を証明するのは時間がかかるでしょう。それまで、あなたの頭が持てばいいのですがwww」


 確かにそうである……

 真犯人を見つけるにもそれ相応に聞き込みとかしないといけないはず。

 しかも、それで真犯人が確実に見つかるという保証はないのである。

「なら……どうすればいいというのだ……」

 力なく座り込んだダレダ―はつぶやくように声を出した。


 真音子はここぞとばかりにいやらしい笑みを浮かべていた。

「簡単な事です。あなたがスカートめくりの罪を認めてしまえばいいのですよ」

「だから、それは冤罪だと!」

「最後までお聞きなさい。スカートめくりなど軽微な罪です。保釈金を払えば、きっとここからスグに出ることができるでしょう」

「でも……今の俺に保釈金なんて持っているわけないだろ……」

 そう、仮面ダレダ―の仕事は安いのだ。

 門前広場で行っていたステージショーだって株式会社ツョッカーの下請けの下請けである。

 中抜きされた日当は一日当たり銀貨3枚3千円……

 しかも、その日当すら逮捕されてもらうことすらできていないのだ。

 要は、今のダレダ―は無一文なのである。


 真音子は自分の財布から金貨5枚50万円を取り出すと静かにちゃぶ台の上に置いた。

「……ここに金貨5枚あります」

 それを見たイサクが慌てて止めに入った。

「お嬢! それは今日の債権回収分ですよ!」

 そんなイサクを厳しい目で睨み付ける真音子。

「この金貨をどう使うかは私の自由です!」

「いやいや……それを使い込んだらおやっさんにおこられてしまいますよ!」

「構いません!」


 そんな二人の様子を見たダレダ―が驚いた様子で、恐る恐る声を出す。

「そんな大切なお金を、俺にくれるというのですか?」

「誰があなたにあげるといいましたか?」

 真音子が笑いながら拒絶した。


 へっ?

 まるでキツネに包まれたようにキョトンとするダレダ―は、何とか頭を整理して言葉を絞り出した。

「いや……てっきり……話の流れ的に俺にくれるものだと……」

「確かにあなたに差し上げるつもりですよ。ですが、条件があります」

「条件?」

「この男を仮面ダレダ―V3に改造しちゃってください」

 そういうと真音子は一枚の写真をそっとちゃぶ台の上に置いたのだ。

 写真には一人の少年が映っていた。

 そんな写真をつまみ上げるダレダ―の反応は、当然……

「誰だ? この男は?」

 ニコニコと満面の笑みの真音子は即答する。

「名前を天塚タカトと言います」

「この顔……」

 写真を凝視するダレダ―の脳裏にかすかな記憶がよみがえった。

 どこかで見たことがあるような……

 何か懐かしいような……

 切ないような……

 遠い過去を見るようなまぶたにライトグリーンの髪をもつ4歳ほどの幼女の姿がおぼろげに浮かんできた。

 ア……ル……テ……ラ……

 そう、コイツはアルテラの心を奪った男だ……

 腹立たしい!

 この感情は何だ?

 もしかして……恋敵?

「コイツ……よほどの極悪人なのか? いや極悪人に違いない!」

「はい! 聖なる約束を守らない極悪非道の悪の怪人です!」

「やはりそうか! なら、俺がきっとこいつをまっとうな仮面ダレダ―V3に改造してみせよう!」

 ――よっしゃぁぁぁぁ!

 真音子は心の中でガッツポーズをした。

 というのも、現時点でタカトはアイドルになる様子を見せていないのだ。

 このままでは、いつまで立ってもタカトと結婚、いや、タカトの前に姿を見せることすらできないのである。

 仕方ない。

 この際、世界のトップアイドルという高望みは諦めよう……

 ならば代わりに、町内子供会のトップアイドルでもトップアイドルといえるのではないだろうか?

 そう、目の前の仮面ダレダ―は子供たちに超人気者なのだ!

 そんなダレダ―V3にタカトをしたててしまえば、一応、人気アイドルということになるのだ。

 これで婚前条件クリアー!


「ところで、君たちは誰なんだ?」

 そう、いまさらながらであるが、仮面ダレダ―は真音子たちとは初対面だったのである。

 しかも、目の前の真音子は蝶の仮面をつけて色香をまき散らす怪しい雰囲気。

 その上、横に控える男は紙袋をかぶって裸エプロンなのである。ちなみに、こちらは色気もくそもありもしない。ただただ単にむさくるしいだけ……

 どう考えても、このタカトという少年よりも目の前の二人の方が超!危ない感じがしてならない。


「私は怪盗マネー! 正義の盗賊ですわ! うふふふふ……驚きました?」

 待ってましたと言わんばかりに真音子がウインクをしながら決めポーズをとっていた。

 って、正義のためと言っても人様の家に勝手気ままに土足で入り込む怪盗など泥棒と同じことですから!


「で、俺は鉄仮面! カロッゾ・かナ? ふははははは……怖かろう!」

 真音子の横には、いつしか紙袋の真ん中に『鉄仮面』と大きく描いたイサクが立っていた。しかも、意味がよく分からないが、鉄仮面と書かれた紙袋にはクロスボーンをかたどったバンクカードの企業ロゴがでかでかとプリントされていた。なんかもう、コイツ……エラーか失敗か、いやいや多分バグで無差別に人を殺しかねない……ような気がする。

 というか……そもそも、仮面ダレダーも悪の組織に作られた悪の改造人間。

 ココにいるやつ、どいつもこいつも極悪人ばかりwww

 ということで、ここに極悪同盟、ハイヒール仮面組が結成されたのであった。

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