第17話 黒の魔装騎兵と赤の魔装騎兵(1)

 そんなタカトたちが配達の準備をしていたのと同じころ。

 権蔵たちの道具屋からかなり離れた街はずれでは、ちょっとした事件がおころうとしていた。


 飲み屋が並ぶ宿場町。

 一般街のはずれのせいかガラが特に悪い。

 常にそこは、酒とゲロと生ゴミの匂いが充満していた。

 しかし朝だというのに、思ったより人出が多い。

 ハッキリ言って早朝の歌舞伎町よりも人が多いくらいだ。

 先ほどから道を行きかう人たちが、落ち葉のように積った風俗の案内チラシを踏みしめながら歩いていた。


 そうココは融合国の街はずれ、すなわち国境の街である。

 この町の脇を真っすぐにのびる道は、隣国である『情報国』へとつながっていた。

 情報国とは聖人世界に存在する一つの国であり、タカトたちが生活するこの融合国と同じように町の中心に大門を持っているのだ。

 つまるところ、聖人世界には融合国や情報国といった国が8つ存在している訳である。


 小汚い道に落ちていた風俗チラシが、まるで男を誘うかのような淫靡な視線を向けながら風に吹かれて飛んでいく。

 そして、釣り上げたカモを誘い込むかのように緑の茂みの奥深くへと隠れてしまった。

 この道を挟んで反対側には、ションベン横丁の臭いとは全く正反対の爽やかな香りが広がっていたのだ。

 そう、道の向こう側は深い森なのである


 そんな森の中にベッツとその仲間たちが分け入ろうとしていた。

 だが、そんな少年たちの輪の中に見慣れぬ女が一人。

「いやぁぁ! やめて!」

 長い髪をひっぱられながら泣き叫んでいる。

 そのいでたちからして、どうやらベッツの仲間とは違うようである。

 女が身に着ける衣装は、体のラインをくっきりと浮かび上がらせて背中を大きく開けた薄いドレス。

 どう見てもキャバ嬢、いや、イメクラの風俗嬢と言った感じなのだ。

 というのも彼女の頭からはネコミミが生えていたのだ。


 だが、道を行き交う人々は、誰もこの女を助けようとはしなかった。

 それどころか、それぐらいで騒ぐなよと言わんばかりに白けた目で通り過ぎていく。

 そう、この女は奴隷女、しかも、魔物と人間の混血児である半魔女なのである。

 ここでは奴隷女の命、さらにはそれ以下の半魔女の命は、風俗のチラシよりも軽いのだ……


 そんな中、一人の少年が不安そうにベッツに声をかけた。

「なぁ、ベッツ本当に大丈夫なのかよ」

 おそらくこんな質問をするということは、仲間になってまだ日が浅いのだろう。


 そんな新入りを安心させるかのようにベッツは笑いながら答えた。

「あぁ、大丈夫さ。半魔女の一人ぐらいいなくなったっところでオヤジが文句など言うわけないだろ」


 この町ではベッツは顔が利くのだ。

 女を引きずる少年たちは確かに一般国民の身分であるが、ベッツだけは神民である。

 しかも、ベッツの父であるモンガ=ルイデキワは、輸送業務のほかに多くの店を経営していたのだ。

 キャバクラ、スナック、風俗店。

 それは、金持ちの神民から貧乏な一般国民まで、ありとあらゆる客層を相手にできるようにと幅広いラインナップを取りそろえていた。

 価格を極限まで抑えた最低ランクの連れ込み宿では、奴隷女や半魔の女などが置かれていたのである。

 そんな工夫のこもったお宿のお値段は、一泊なんと! 大銅貨5枚! 500円!

 ワンコインですよ! ワンコイン!

 って、大銅貨5枚だからファイブコインか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る