第16話 タカトの心(6)

 先ほどから、そんな道具談議に花を咲かせるタカトと権蔵。

 その内容は例えていうなら、鉄道オタクどもが改札パンチで切り抜いた切符の切り口のかけらを前にして、これはどこどこの駅の「きょうこん」だなどと言いあっているようなもの。

 そのため、ビン子を含めた普通の凡人には何のことやらさっぱりわからない。いや、分りたくもないのである!

 だが、のけ者にされていることが少々頭に来たのだろうか、ビン子が肩をいからせながらズカズカと二人の間に割って入ってきたではないか。


「二人ともちゃんと仕事してよ! 何で私ばっかり運ばなきゃいけないのよ!」


 腰に手をやり怒り心頭のごようすである。

 それもそのはず、大きな防具や武具は権蔵がひとしきり運んではいたが、おおかたの荷物はビン子一人で運んだのである。


「すまん。すまん」

 笑う権蔵は慌てて立ち上がると、足でタバコの火を消した。


 間髪いれずに、ビン子が権蔵の足を真っ直ぐ指さす。

「そこ! 吸い殻は灰皿!」


「ハイィィィ!」

 背筋をピンと伸ばした権蔵の顔が引き締まったかと思うと、急いで地面に転がるタバコの吸い殻を拾い上げ、逃げるように店のなかへと駆け込んでいった。


 だが、タカトはまだ袋を覗きこんでいる。

 そしておもむろにビン子に尋ねるのだ。

「たしか、お前って神だろ……」

 ビン子の金色こんじきの瞳を見れば神であることは明らかだった。


「なぁ、お前って、命の石とか食わないの?」

 神もまた、生きるために生気を必要とする。

 だが、その生気を外部の生き物から分けてもらわないと生きていけないのだ。

 しかし、それでも足りない時が来る。

 その時に役に立つのが命の石なのである。

 そう、神だけが命の石から生気を直接吸収することができたのだ。

 

 しかし、怒りの静まらないビン子は、腕をくみ足をトントンさせている。

「何でそんな硬いもの食べなきゃいけないのよ!」


 タカトはやっと顔を上げると袋を固くとじ、荷馬車の奥に大切そうにしまった。

「だって神って、生気が切れると『荒神あらがみ』になるっていうじゃん」


荒神あらがみ』とは、生気切れを起こした神のことである。

 死を前にした神は己を失い、暴れまわるのである。

 そして、ついには世界を滅ぼすほどの大きな爆発を起こして消え去るのだ。

 って……なに、それ……超! 危ないんですけど!

 まぁ、人間たちもそんな危ない神々と長年付き合ってきているのだ。

 当然、荒神の対処法はいくつか心得ている。

 例えば、荒神の気を削ぎ落すとか、爆発してもいいように狭い洞窟、そう『小門』なんかに閉じ込めてしまうとかwww。何人爆発しても大丈夫って、小門はイ○バ物置か!


 ビン子は、タカトが荷馬車から降りてくるのを見届けると仕事に戻ろうとした。

「ご心配なく。ちゃんとご飯は食べてます」


 そんなタカトは、笑いながら両方のひとさし指を立てビン子を目測する。

「だよな。最近、太ったもんな!」


 ビシッ!


 勢いよくタカトのもとに走り込んできたビン子のハリセンが、バドミントンのサーブさながら、力いっぱいにタカトの額に振り下ろされていた。

「ただの発育途中です!」


 だが、すでに目から時速400キロ超の星が打ち出されていたタカトには、全く聞こえていない様子だった。

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