第19話 黒の魔装騎兵と赤の魔装騎兵(3)
よく見ると、少年の首とニワトリの首が置き換わったわけではなさそうだった。
と言うのもニワトリの顔は口ばしを下に向けた状態で目をぱちぱちさせている。
要は首の位置が少年の首とは反対に上の空へと伸びているのだ。
どうやら、先ほどまで頬を紅潮し固くなった少年の頭という出っ張りにニワトリがガブリと力いっぱい噛みついているようだった。
コケ!
緑の目のニワトリが、可愛らしく首をかしげた。
同時にくちばしに咥えられた少年の首も、もげた。
首を失った少年の体からは、心臓の鼓動にあわせてピュッピュッと大量の血が吹き出している。
まるで雨の様に降り注ぐ血が、半魔女の顔を瞬く間に赤く染めていた。
……何これ……?
すでに焦点の合っていない半魔女の目は小刻みに震える。
先ほどまで、自分を犯すことを楽しみにしていた少年の顔が、今や目の前でニワトリのくちばしで楽しそうに食べられているのだ。
……訳が分からない……
まぁ、訳が分からないのは半魔女に限った話ではなかった。
半魔女を押さえつけていた少年たちも、いきなり目の前に巨大なニワトリが現れたと思ったら、友人の首がなくなったのである。
この状況をすぐに理解しろと言う方が無理というもの。
だが、離れた岩の上に座るベッツはその一部始終を見ていた。
光がまだらに差し込む緑の屋根から、いきなり大きな影が降ってきたのだ。
その影が地に降りると同時に少年の頭に食らいついた。
いや、食いついた方が降りるよりも先だったかもしれない。
だが、全てを見ていたベッツもまた、理解ができなかった。
――なんで中型の魔物がいるんだよ!
緑の目は魔物の証。
そう、このニワトリは融合国内では遭遇することが珍しい中型サイズの魔物だったのだ。
カチャ……カチャ……カチャ……
いまや静寂な森の中に、食いちぎられた少年のチャックを動かす音だけが無機質に響いていた。
頭がなくなっても息子の頭を出してやろうと懸命にチャックを下ろそうとしているのだろうか。
いや、おそらく単に体が痙攣しているだけなんだろう。
緑の目をしたニワトリは、どこから飲み込もうかとくちばしの中で少年の頭をくるくると回していた。
回転されるとともに童貞を卒業する気で満々だった少年のそんなニヤニヤとした表情は崩れていく。
そしてついには、まるで女とのお楽しみをなし得なかった無念さをにじませるかのような表情へと変わり、ゴクリと喉の奥へと飲み込まれていった。
バイバイ! チェリーボーイ! 君を忘れない!
半魔女の目の前で、チェリーの塊がニワトリの曲がりくねった喉を行く。
そしてり胸元を膨らませてピタリと止まった。
これから胃の中でささやかな喜びとともにすりつぶされることだろう。
――ということは次は自分の番?
悲鳴を上げる半魔女。
とっさに残った男の体を突き飛ばし、無我夢中で逃げ出した。
「逃げろ!」
叫ぶベッツの声を合図にするかのように、少年少女たちもまた駆け出した。
食後のゲップをするニワトリは、逃げ去る背にめがけ口から何かを吐きつけた。
それを見るや否やベッツは、横を走る少女の体を咄嗟に引っ張り盾にする。
えっ?
よろける少女の背に何かの塊がベトリと張りついたかと思うと垂れおちた。
瞬時に溶けだす背中の服が白い煙を噴き上げる。
その下からあらわになっていく少女の肌。
激痛に耐えかねたような悲鳴が森中に響き渡った。
「助けて! ベッツ! お願い!」
地面を転がるその体は、いるはずのベッツに向けて手を伸ばす。
だが、すでにベッツはいない。
それどころか、黒いローブをまとった老婆が立っているではないか。
!?
涙で滲む少女の視界は、この老婆の姿にどこか見覚えがあった。
まるで、死にゆく少女を見下すかのように覗き込む老婆の顔には、金色の目がひときわ強く輝いていた。
だが、意地悪そうに笑うその表情は、以前のしわくちゃの肌に比べると若干若返っているようにも思える。
「さんざん世話になったね……お前たちへの礼を小門の向こうからわざわざ持ってきてやったよ……ありがたく受け取りな……」
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