第40話 いってきま~す(9)

 そんな彼女たちが必死の形相で駆けてくる。

 ひしめきあっていななくは、天下のじゃじゃ馬4人の女!

 今日はワナビー! めでたいな!


 さぁ! 第2コーナーを曲がったところで先頭はフジコチャン!

 さらに各馬一団となって、オイルパン、イッポンバゲタ、セントウインと続いております。

 第3コーナーを回って第4コーナに差し掛かったところ

 先頭は予想通りフジコチャン!

 さぁ、最後の直線コースに入ったぁぁぁぁ! あっ!イッポンバゲタがグングンとでてきたぁぁ!

 速い! 速い! イッポンバゲタ速い!

 トップのフジコチャン懸命に走る!

 それをイッポンバゲタが必死に追いかける!


「そんなに急いでどうしたんですか?」

 落ち着いた様子でコウスケは尋ねた。

 っていうか、一番焦らないといけないのはお前じゃないのか! なに落ちついとんねん!


「ちょっとね、街にね!」

 フジコチャンがウィンクしながら投げキッスをした。

 ドキューン!

 コウスケの目がハートになった。

 いや、そんなことはどうでもいい。


「フガフガフガ!」

 オイルパンは、おいもパンをくわえているせいで、今一言っていることがよく分からない。


「イィィィ!」

 セントウインは、コウスケに敬礼した。

 コウスケもまた、

「イィィィ!」

 って、こんなことしとる場合か?


 しかし、全く分からない。

 なぜ、彼女たちは走っているのだろうか?

 残るは一人、イッポンバゲタである。

 というか、イッポンバゲタはどこに行ったのだ?


 イッポンバゲタは、コウスケの前でこれまた見事なパタリロごけをしていたのだ。

 まるでプールにでも飛び込むかのように両手をピンと伸ばして顔面から地面に突っ込んでいた。

 これは、かなり痛そう……

 やはり一本歯下駄で走るのはかなり無理があったようである。

 しかし、あと少しでフジコチャンに追いつきそうだったのにネ……残念!

 そんなイッポンバゲタにコウスケが手を差し伸べて引き起こす。

「イッポン ハゲ太さん、街に何があるんですか?」

 鼻血を拭きながら起き上がるイッポン ハゲ太。

「神様が現れたのよ! 神様が!」

 そうかこの女性の名前はイッポン ハゲ太というのか……って、オッサンかよ!

 っていうか、コウスケ、この人と知り合い? いやいや、このオッサン、モブだからなモブ!


 神様⁉

 その声に御者台に座るタカトとビン子びくっと驚き固まった。

 ――神様ですか……

 二人は恐る恐るイッポン ハゲ太へと目を向けた。

 だが、オッサンはビン子を見ることもなく、すでにいなくなっていた。

 うぉぉぉぉぉぉ!

「待ってろよハゲ子! 父ちゃんお前のために神様からスキル貰ってくるからなぁぁぁぁぁ!」

 砂煙をたてながら猛然と裸足でダッシュする後ろ姿。

 すでに、まっすぐな土手の道を、その姿が小さくなるまで遠のいていた。

 最初から下駄など履かずに裸足で走ればよかったのでは……

 そんな使われることが無くなった一本歯下駄が二つ、コウスケの前にもの悲しそうに転がっていた。

 ♪ポンポンポンポンぽ~ん

 コウスケは、アイテム一本歯下駄を手に入れた!

 って、お前、それとったら泥棒じゃん! 泥棒!


 というか、なぜ女たち(一名オッサンを含む)はそんなに神様を求めて必死になって走っているのであろうか?

 そう、彼女たちは神様に神の恩恵の一部である『スキル』を授けてもらおうと思っているのだ。

 スキルとはこの世界でいう特殊な力である。

 といっても、魔法とは違う。特技と言った方が分かりやすいだろう。

 そんな特技があれば、この世界では何かと便利なのである。

 人の未来を占う鑑定の力。

 見た人を虜にする誘惑の力。

 そして、己が能力の限界を超える限界突破!


「タカト、俺は用事ができた!」

 どうやらコウスケもまた、神様という言葉に反応したようである。

「今回は見逃してやる! それじゃあな!」

 でもって、女たちが走っていった方向に振り返ると、あと追うように一本歯下駄を履いて走っていった。

「うぉぉぉぉぉぉ! 学校におくれるぅぅぅっ!」

 いまさら……

 というか、もしかして、一本歯下駄って早く走れる能力でもあるの?

 ないない! 絶対にない! たぶん……


 呆気に取られていたタカトとビン子。

 でも、神様って、ビン子のことじゃなかったのね……

 二人はおもむろに顔見合わせるとプッと噴き出してしまった。


「なぁ、ビン子、俺もスキルがあればお金持ちになって、キャァ、タカト様とかって言われるかな?」

 安心したせいで笑いすぎたタカトは、涙がこぼれそうになる目をこすっていた。

「タカトじゃ、絶対! 無理! 無理!」

 ビン子もまた笑いながら、タカトの言葉を全力で否定した。


 だが、その言葉にタカトは少々むっとしたようで、

「なんかビン子の心のほうが、小さくね?」

 と、少々語気を強めた。

 ていうか、心が小さいと言われたことをまだ根に持っていたのか、この男……お前……マジで心がちいせぇよ……

 そしてついに、タカトは禁断の魔法を唱えてしまったのだ。

 ♪ピロリロリロ

「なんなら豊胸の神でも探して胸を大きくしてもらえよ! この貧乳!」


 ビシっ!


 ダーツを投げるようなスナップを効かせたハリセンがタカトの顔面にすっぱーんと入った。

「貧乳っていうな! 私の未来は確実に大きいのっ!」

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