第29話 黒の魔装騎兵と赤の魔装騎兵(13)

 でもって、ピンクのオッサンがヨークをぶちのめしている間に、ベッツはゴミ箱の中に隠れたのである。

 そんなベッツが入っているゴミ箱を誰かが叩いた。

 コンコン!

 当然、恐怖で声が出ないベッツ。

 もうそこにいるのが魔装騎兵だか、ピンクのオッサンだか、鶏蜘蛛だか分からない。

 というか、どれが来ても一発ロンで死の役満を振り込んでしまう。

 もはや打つ手なし……


 コンコン!

 ゴミ箱の外の誰かは、まだ叩き続けていた。

 ――……はやく諦めてどっかに行けよ!


 ゴンゴン!

 音が強くなっていく。

 ――もしかしてパパが助けに来てくれたとか?


 ドゴン!

 いきなりゴミ箱の天井、いや底に穴が空いた。

 一瞬、暗いゴミ箱の中に光が差し込むが、すぐさま消えた。

 ――あれ?

 ベッツはその穴からそっと外を見る。

 しかし、暗くてよく見えない

 ――もう夜? いや、たしか朝だったよね……

 だが、その暗闇の中でかすかに動くものがあった。

 よくよく目を凝らしてみると、どうもまつ毛のようだ……

 ということは、あの暗闇の中にうっすらと見える緑色は月ではなくて目なのだろう。

 なんだ、夜じゃなかったよ!

 びっくりしたじゃないか。えへへへ。

 ――って、緑の目って人魔じゃないか!


「きょぇぇぇぇぇぇ!」

 ベッツはゴミ箱ごと飛び上がると、一目散に駆けだした。

「パパ! パピィ! パピリコ孔明! なんでもいいからたずげでぇぇぇぇ! ハシビロコウ!」

 そんなベッツがかぶるゴミ箱を人魔たちが追いかける。

 うがぁぁぁぁぁぁ!


 突如、そんな人魔たちの首が切れ飛んだ。

「どけ! 私が駆除する!」

 ベッツと入れ替わるかのように、通りの奥から魔装騎兵が一人、突っ込んできたのだ。


 だが、その魔装騎兵は一風変わっていた。

 普通の魔装騎兵は黒色の魔装装甲で体全身を覆われているのにたいして、何故か、赤色。しかも、装甲の部分が恐ろしく少ないのだ。

 ノースリーブのショート丈にミニスカート。

 あとはロングブーツとロンググローブのみといったところ。

 その残りの箇所からは女の白い肌が見えていた。

 どう見ても美人。

 というか、お姉さま系の超美形である。

 その証拠に装甲で覆われていない顔の左半分には、泣きぼくろを従えた左目が赤く怪しく輝いていた。


 赤の魔装騎兵は手に持つ二本の剣を静かに構えると、小さくつぶやいた。

花天月地かてんげっち


 剣から闘気が流れ出していく。

 二本の剣は、まるで二匹の蝶がお互いを求めるかのように色鮮やかに踊りはじめた。

 赤の魔装騎兵が蝶とたわむれるがごとく、人魔たちの群れの中に赤き花びらをまき散らしていく。


 突如、首を切り落とされた人魔たちの体からおびただしい血が噴き出した。

 人魔の血は魔の生気を含んでいる。

 魔の生気を体に取り込んだものをは人魔となるのだ。

 そんな血の雨が一般国民たちに頭上へと降り注いでいく。

 逃げ惑う人々。

 だが、すでにずぶ濡れとなった女などは、半ばあきらめて薄ら笑いを浮かべていた。


「危ない! ゼレズディーノ様!」

 セレスティーノに殴られて倒れていたピンクのオッサンは、降り注ぐ魔血からそのセレスティーノを守ろうと咄嗟に飛びつこうとした。

 我が身をとして、愛する人を守ろうとは健気ですね……

 だが、セレスティーノは、とびかかるピンクのオッサンをひらりとかわす。

 そして、目の前の一人の女性に覆いかぶさったのだ。

 そう、こちらもまた、その身で人魔の血がかからないように女性を覆い隠したのである。

 健気ですね……というか、下心ありありですが……

 というか、この男、あのパニックになっている状態でも今日、お持ち帰りする女の品定めができていたというのだろうか?

 いや違う! そんな余裕は全くなかった。

 突然、下に転がっていたピンクオッサンが襲い掛かってきたのだ

 そんなオッサンに抱かれるぐらいなら、女であればだれでもいい!

 どんな女であれ、ピタリと引っ付いていれば、このオッサンが入り込む余地はなくなるはずなのだ。

 なぜなら、あのオッサンのキラキラお目めは間違いなくプラトニックラブ!


 重なるように倒れ込むセレスティーノと無関係の女。

 地面に伏せるセレスティーノの唇が巻き込まれた女の唇を奪っていた。

 だが、女もまんざらではない様子。

 そんなうっとりしている女性の手を引き、セレスティーノは抱き起した。


「今晩、一緒に食事でもどうかな」

「はい……❤」

 そういうセレスティーノの口元は、一層さらに引きつっていた。


 というのも、そこにいた女はあの年増の女郎……

 年増と言っても、60才を超えたおばちゃんだ。

 イメージしてほしい……きん魂(商標の関係で一部省略しております)に出てくるお登勢さんとチューをしたセレスティーノの姿を……

 もう……絶望……以外何物でもない。


「くっ……」

 だが、それを見るピンクのオッサンの口元は悔しそうにゆがんでいた。

 ふっwww

 年増のお登勢さんの勝ち誇ったかのようなあの笑み……

 どうやら勝負あったようである。

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