第116話 金貨をどう使うかは俺の自由だ!(9)

「仕方ないじゃない、スグルの旦那、直々にお登勢さんをご指名なんだから!」

「マジか! あのオットセイ、いや、お登勢さんを指名かよ……この世に、お登勢さんを食おうとする奴が本当にいたとはな……かなりの強者だな……」

「知らないんだ♪ お登勢さんって、この店一番のテクニシャンなんだよ! お登勢さんがケツの周りをコチョコチョすれば、どんな野良犬だってすぐにヘケヘケと尻尾をふり出すんだから」

「ケツの周りをコチョコチョって、どんなプレーだよ……気になるな……というか、お登勢さん、今日はセレスティーノの相手してるんじゃなかったのか?」

「なんか、3回戦あたりで、セレスティーノの奴、窓から裸で飛び出して逃げだしたんだって」

「なんだそれwww」

「でもって、この熟女の火照りはどうしてくれるんだい! ってところにスグルの旦那が来たわけだよ」

「そりゃ燃えるな……」

「でしょ! だからアタイらも♥」

「と思って、ジャーン! 今日は金貨5枚50万円持ってきちゃいました! 昨日は給料日だったからな!」

「アンタ……そんなにあったら、私の一生が2,3回、買えちゃうよ……」

「メルア! バカだな! お前の一生なんてこんな少額の金貨で買えるほどちんけなもんじゃないぜ、そうだなお宝といわれるキーストーンでもまだ全然足りないぐらいさ!」

「……そんなこと言ってくれるのは、アンタだけだよ……」

「よし、これでメルアを独り占めだぁぁァァ!」

「アンタ……金貨1枚だけにしときな……それで、半年の間はアンタだけのモノになれるから……」

「なら、メルア! この金貨5枚全部使うと2年半は俺の専属ってことだよな!」

「そんな無駄遣いしなくても……また、半年後でいいよ……」

「この金貨をどう使うかは俺の自由だろ!」

「そうだけど……アンタ……」

「だってな……メルアが他の男の相手をしていると思うだけで、こう胸の奥がギューーっと締めつけられて苦しくなってくるんだよ……俺……」

「アンタ……ありがとう……大丈夫だよ……もう、アタイの心はアンタだけのモノなんだから……」


 そんな時である。

 ヨークの手に持っていた金貨5枚がひょいッと誰かに掴まれたのだ。

 ⁉

 咄嗟にその方向をかえり見るヨークの先には一人のグラマラスな美人な女性が立っていたのである。

「へぇ~、あなた、神民なのに半魔の奴隷女なんかを抱けるのね」

「俺の金貨を返せよ!」

 手を伸ばすヨークから金貨を遠ざけるかのように女は身をよじった。

「ダメよ。ねぇ、あなた、そんな半魔女よりも、このお金で私と遊ばない?」

「というか、お前は誰なんだよ!」

「私は尾根おねフジコ」

 どうやらフジコは神民兵の身分でありながら最下層の中の最下層の身分である半魔の奴隷女にご執心なヨークが少々気になったらしいのだ。

「私なら、もっと気持ちいことしてあげるわよ」

 フジコの細い指先が、ゆっくりとヨークのアゴをさすり上げていく。

 大体、このヨークという男、半魔女に興味を示す男である。

 おそらく単なる色欲の塊に違いない。

 要は性欲のはけ口の体さえあればいいのだ。

 ということは、自分の夜のテクニックを駆使すれば簡単に色香に惑わすことができそうである。

 あとは、この男の財産を根こそぎ絞り取ればいいのだ。

 神民兵といえば国家公務員。それ相応にたんまりと財産もあるに違いない。

 それを一夜のうちに全部いただく。もう、簡単なお仕事よ♥


 だが、ヨークの返事は違っていた。

「俺は、メルアが好きなんだ! メルアじゃないとダメなんだ!」

 その横で顔を真っ赤にするメルアが下を向いていた。

「アンタ……こんな人前で堂々と言われたら……アタイのほうが照れるじゃないかい……」

 そのバカみたいなヨークの勢いにフジコちゃんはぽか~ん。

 ふと我に返ったフジコは思うのだ。

 ――私が半魔の女なんかに負けるなんてありえないわよ!

 嫉妬の炎を燃やした目はヨークを睨み付ける。

「いいわよ! その内、あなたを私の虜にしてみせるから!」

 どうやら、このフジコちゃん、他人の物が欲しくなる性悪女のようである。

 でもまぁ、もしかしたら彼女の職業が泥棒なのかもしれないから仕方ない……

 そう言い終わると、フジコは手に持つ5枚の金貨をヨークに勢いよく投げ返したのだ。

「今日はルパンを探さないといけないから時間がないだけよ!」

 ヨークは宙に舞う金貨をサッとすくい取りながら「そういえば……オイルパンなら第六の宿舎の倉庫に運び込まれていたのを見たような気がするが……」と思い出すかのようにつぶやいた。

 それを聞くや否や、フジコは第六の宿舎の方向へと駆け出したのだ。

「第六の倉庫ね! やっぱりあなたはいい人だわ。また今度、遊びましょ!」

 ちゅっ♡

 投げキスを飛ばすフジコを見ながらヨークはポカーンとしていた。

 ――何だったんだ……あの女……


 ――いかん! こんなことをしている場合じゃなかった!

 ハッと我に返ったヨークはメルアの手に無理やり金貨5枚を握らせたのである。

「よーーーーし! 俺! 今日はいっぱい働いたからな。めちゃくちゃハッスルしちゃうぞ!」

 まるで子供のように元気なガッツポーズをとっていた。

「もう……アンタったら……なら! 朝まで寝かせないからね! 覚悟しなよ!」   

 メルアは顔を真っ赤にしながらイキがった。

 ヨークはそんな赤らむメルアをさっと抱き上げ姫様だっこをする。

 そして、意気揚々とスキップを踏みながら宿の中に消えていったのであった。

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