第117話 金貨をどう使うかは俺の自由だ!(10)
「ヨークの兄ちゃん、仕事中だろうwww」
ヨークと分かれたタカトは荷馬車の上でメルアとおでこを合わせる二人を思い浮かべながらニヤニヤと笑っていた。
――あの後、二人は……きっと……
そう、寝ずに朝までパイルダーオンの練習を何度も何度も繰り返すのだろう
もう、それを想像するだけで鼻息が荒くなってしまう。
それに対して、ビン子は空を見上げながらため息をついていた。
「あれでもたぶん傷ついているのよ。男って面倒くさいわね……」
しかし、女という生き物はどうしてこんなに敏感なのだろう。
きっとヨークは第一の騎士の門外でジャックに馬鹿にされたことでプライドが傷ついていたのだろう。
だが、それは自分の所属する騎士の門とは違う場所のことで仕方ないことなのだ。
限界突破という神民スキルの使えないヨークと使えるジャックを比べること自体がおこがましいのである。
だがしかし、男にとってそれは単なる言い訳でしかない。
事実、自分が弱かったためにタカトたちを危険にさらしてしまったのだ。
そんな心のうちを戻った宿舎の仲間たちにこぼせるわけもない。
ましてタカトなど論外だ。
ヨークはこれでも一応、神民兵のエリートなのである。
ならば、心許せる行きつけの店で愚痴でもこぼすのが常套手段というもの。
そんな弱ったヨークの心は最愛のメルアの体温を求めた。
もしかしたらそれが、ヨークにとって一番の慰めだったのかもしれない。
だが、そんなヨークもメルアの前で一瞬弱きところをみせたが、その後はいつも通り強がった。
やはりつまらない男のプライドが邪魔したといったところなのだろう。
いや、もしかしたら、この女だけには絶対に心配をかけたくないという思いだったのかもしれない。
そんなことをビン子が考えていたのかどうかは知らないが、当たらずとも遠からずで何かしらを感じ取っていたのは間違いないようである。
それに対して、タカト君……
先ほどからヨークとメルアのパイルダーオンの光景を妄想しているズボンの前では、さながら光子力研究所のとん先のような小さな三角形のテントが張られていた。
今まさに! 何かよだれのようなモノ、もとい汚水処理水が垂れ落ちるズボンの隙間からマジンガー●●●が発進しようと立ち上がる!
「あなたと合体したい~」
「気持ちいい~」
――俺が入れば3機のベクターマシンじゃないか!
もう、そうなれば、まさにそれはロボットアニメのアクエリオ●!
って、すでに別のアニメに変わっとるやないけ!
「唱えよ!
アカンやろォーーーーン!
あぁぁぁぁ! やばすぎですぅぅぅぅ!
やっぱりこれ以上は、アカンやろ!
って……やっぱ、男はだめだね……
いや、男ではなくてタカトと作者がダメなだけなのか……
そんなこんなでゆっくりと歩を進めた老馬は、時間をかけ第六の門の宿舎にたどり着いていた。
宿舎の前に荷馬車を止めた二人のもとに守備隊長のギリーが待ちくたびれた様子で歩み寄ってきた。
「遅かったな……タカト……というか、毒消しは第一の駐屯地にはちゃんと運べたんだろうな?」
空になった荷台を見たのにもかかわらずギリー隊長は、仕事の完了を確認しだしたのだ。
どうやらやはりここに来てちゃらんぽらんのタカトに仕事を依頼したことが不安になったようである
だが、その疑念を抱くような態度がなんか癪にさわったタカトはギリー隊長に顔を向けることもなく、ぶっきらぼうにその目の前へ一枚の紙を突き出したのだ。
「ふん! これ受領書!」
タカトの表情は明らかに何か言いたげであったが、あえてそれを飲み込んでいる様子。
ギリー隊長は受領書を両手で受け取ると念入りにサインを確認し始めた。
どうやらこのサイン、間違いなく第一の駐屯地に搬入できたようである。
――これで今日の仕事は完了だ!
すでに先ほどまで心配そうだった顔が弾けるように笑顔へと変わっていた。
「おぉ、ちゃんと運べたじゃないか。よかった。よかった!」
大きくうなずくギリー隊長は丁寧に受領書を折りたたむと懐にしまう。
だが、ついにタカトはそんなギリー隊長の言葉に納得できなかったのか、御者台の上で声を荒らげたのだ。
「よかったじゃないよ! マジで死ぬところだったんだよ! 俺!」
――『俺』じゃなくて『俺ら』でしょ!
横に座るビン子もタカトのその言葉に納得できなかったようである。
そんなタカトの反応を予想していたのか、ギリー隊長はにこやかな笑顔を浮かべながら2枚の金貨を右手で広げて見せた。
「だから、金貨一枚と奮発したんだろ。良しとしろよ!」
どうやら一つは権蔵の作った道具の搬入分、そして、もう一枚が毒消しの運搬分といったところか。
だが、その金貨を見ながらタカトは思うのだ。
――ふん! 何が金貨じゃい! 金貨と命なら命の方が大切に決まっとるだろうが! このボケ!
相変わらずしかめっ面をしたタカトの様子を見るギリー隊長はついに奥の手をくり出した。
そう、脇に挟んでいた一冊の雑誌をタカトの前にこれみようがしに見せびらかしたのだ。
「ほれ、約束していたアイナチャンの写真集! なっ! これで許せよ!」
会心の一撃!
ドキューン♥
「全然! 問題ありません!」
電光石火の勢いで御者台に正座をし姿勢まで正したタカトは、いつの間にかギリー隊長が正面になるように向きまで変えていた。
しかも、その両の手はギリー隊長の突き出す写真集を仰々しくしっかりと掴んでいたのであった。
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