第118話 金貨をどう使うかは俺の自由だ!(11)
それを見るギリー隊長はニヤリ。
しかし、そんなギリー隊長もまた、なぜか雑誌を握る手に力がこもっていた。
そんな二人の間で股を広げたアイナチャンの写真がプルプルと震えて行き来する。
そう、互いに満面の笑顔なのだが、共にその額には青筋が立っているのだ。
なんかこれはこれでシュールな光景のような気がするのは気のせいだろうか。
だが、もうすでにビン子などは恥ずかしそうに右手で顔をおさえ何も見ないようにしている。
だが、このまま二人が力をいれて引っ張り続ければ最悪、写真集が女の股裂き刑のようにビリビリと破れかねない……
――オッサン! 早く、放せよ!
――ここで素直にタカトにくれてやるのは、なんか惜しいよな気がするな……
心の中で互いにどつきあい牽制しあっていた。
しかし、この時、ギリー隊長はないといけないものが無いことに気づいてしまったのだ。
お股のあそこを修正したモザイクとか?
いやいや、これはちゃんとしたグラビア写真集である。
法律に反するような無修正の写真集などでは決してないのだ。
肌の露出を極端に嫌うアイナちゃん。
ヘアーヌードなどしたことがない。
この写真集に唯一、食い込み写真が一枚あるだけなのだ。
って、この世界でも無修正の画像が違法になるのかどうかは知りませんけどね!
そんなモザイクの話ではなくて、そう、護衛につけたヨークがいないのである。
その事にようやく気付いたギリー隊長はキョロキョロと辺りを見回した。
「あれ……ヨークのやつはどこに行ったんだ?」
――隙あり!
当然、タカトはこのギリー隊長の手が緩んだ瞬間を見逃さなかった。
生き馬の目を抜くような勢いでギリー隊長の手から2枚の金貨とアイナちゃんの写真集をさっと奪い取ると、すぐさま自分のカバンの中にしまい込んでいたのである。
その盗人のようなあからさまな変容ぶりに顔が引きつったギリー隊長。
それに対して勝ち誇ったかのようなタカトは笑顔を浮かべていた。
「ヨークの兄ちゃんなら、途中で用があると言って別れましたよ」
カバンの中から領収書の控えを取り出しながら、あえてしらばっくれた。
ブッチーン!
どうやらギリー隊長の額の青筋が切れたようである。
「ヨークの奴! また、あの小汚い半魔の連れ込み宿か!」
ただでさえ、タカトに今夜のおかずの写真集が奪われてしまったのだ。
さてさて……今夜のおかずは何にしよう?
今から考えても、何も浮かばない!
そうだ、それもこれも全てヨークのせいなのだ!
というか、報告までが仕事と言っておいたのに、あのバカは仕事を途中放棄しやがった!
だが……あの半魔の連れ込み宿「ホテルニューヨーク」はエウア教の拠点の一つなのである。
今までの調査で、そこまでは分かっていた。
と偉そうに言うが、入口から見えるところにデカデカとトーチを掲げるエウア像を飾っていれば馬鹿でもわかる話なのだ。
しかし、そのホテルニューヨークのうち、だれがエウア教徒なのか……融合の神スザクに対する反抗する意思を持つのは誰なのかを特定するまでには至っていなかったのである。
それを内部から調査するためにギリー隊長はヨークを送りこんだのだ。
だから、ヨークがホテルニューヨークに入り浸るのも仕事といえば仕事なのである。
だが、しかし……
なにか納得がいかない……
そんなギリー隊長はホテルニューヨークの方角をにらむと腰に手を当てぶつぶつと愚痴を言い始めた。
「だいたい、本当にヨークの奴は任務をこなしているのかよ……」
というのも、ホテルニューヨークから帰ってきたヨークはいつも超ご機嫌なのである。
そんなヨークの提出する報告書は決まって「一生懸命に穴の隅々まで念入りに調査した後、何度も入り口と奥とを往復行動いたしましたが精根尽きてしまい、ついにエウア教徒を特定できませんでした~♥」なのだ。
いやいや、これ……どう見ても明らかにプライベートな行為だろ。
連れ込み宿に行ってまでする行為といえば一つ。
当然、そういう行為をしてきたのだろう。
だが、これも仕事。
――俺なんか……写真集とコンニャクだぞ……
ギリー隊長はそんなヨークの態度に我慢に我慢を重ねて日々アイナチャンの写真集をめくっていたのであった。
そんな写真集も……今やタカトの手におちた……
――今日から……俺の相方はコンニャクだけだ……
コンニャクだけ……
そうだ! おでんにしよう!
今夜のおかずはおでんにしよう!
って、そのコンニャク……食べちゃうんですかぁ~www
「だいたいヨークのやつは神民としての自覚が足りんのだ」
愚痴はまだまだ続いていた。
それを御者台の上でいやいや聞かされるタカトとビン子。
さっさと荷馬車を進めたいのだが、ギリー隊長が荷馬車をつかんで放さない。
どうやらそう簡単には解放するつもりはないようである。
まぁ、ギリー隊長は一人やもめのおっさんである。
家に帰ったところで話し相手などいやしない。
今夜の晩御飯も決まったことだし、あとはそれまで時間をつぶすだけ。
タカトが催促しろよとビン子の腕を肘でつついていた。
あんたがやりなよと腕を振る。
そんな無言の応酬が十数回続き、ようよう空が赤く染まり始めたころ、やっとギリー隊長が愚痴を切り上げたのであった。
――そうだった!
そう、ギリー隊長は突然思い出したのである。
今晩、おでんとしてコンニャクを食するということは、今日のお供がいなくなってしまうではないか!
これではダメだ!
新たなお供が必要だ!
そうだ! 今度のお供は餅にしよう!
人肌に温めた餅は格別だという。
「おっと長くなったな。すまんすまん」
やっとのことで解放された二人は大きなため息をついた。
――うぅぅ……気モチ悪い……
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