第70話 鑑定の神はおばあちゃん?(5)
そんな様子を少し離れた物陰から見ている二人組がいた。
可憐な少女と紙袋をかぶった裸エプロンの男である。
そう、この二人、真音子とイサクなのである。
どうやら、第六の門からずっとタカトたちをつけてきたようなのだ。
「あのクソ野郎! またタカト様に暴力を振るう気か! いてこますぞ! コラ!」
咄嗟に飛び出そうとする真音子の肩を必死に抑えつけるイサクのごつい手。
「お嬢! ダメですって! あの兄ちゃんがトップアイドルになってから顔を合わすんでしょ!」
タカトがトップアイドルって、無い無い無い! いったいどの時間軸の事を言っているのでしょうかwww
「やかましい! イサク! 手を放さんかい! ボケ!」
「大体、あっちのモヒカンだって、あのアルダインの神民ですぜ!」
アルダインの……
いきり立つ真音子の動きがピタリと止まった。
さすがにココでアルダインの神民に顔を見られるのは少々マズイ。
下手に動くとアルダインの身辺を調査している父、勤造の足を引っ張りかねないのだ。
「うぅぅ……でもこのままでは、また、タカト様があいつにボコボコにどつかれてしまいます……」
急にしおらしくなった真音子が両の手で顔を覆ってオイオイと泣き始めた。
本当にコロコロと変わる忙しい女である。
「はぁ……あの兄ちゃん、いつも殴られてますから、きっと大丈夫なんじゃないですかね。しかも今日は、あのモヒカン一人だけですから、意外とたいしたことないかもしれないですぜ」
そう、ベッツの取り巻きたちは、今朝の鶏蜘蛛騒動の時に全員、殺されたか人魔収容所に連行されたかのどちらかであった。
まぁ、ベッツにとって一般国民の仲間など、いつでも補充が効く程度のものなのでどうとも思っていない。
だが、先ほどまでモンガに怒られていたために、新たな仲間などを集める時間もなく、当然一人だけでこの街までさまよい歩いて来ていたのだ。
―― 一人!
泣いていた真音子の声がピタリと止まった。
――チャンスや!
いつもは取り巻きに囲まれて常にだれかの目が光っていた。
そんなモヒカンに姿を見せられない真音子は簡単に近づくことができなかったのだ。
だが、奴は、いま一人。
顔を上げた真音子の目が、いやらしい笑みをうかべていた。
――私のタカト様に対する無礼! きっちり落とし前つけてもらうよ!
「イサク! 私の着替えとチェキを用意しな!」
「着替え?」
「あぁ! ステージ衣装だよ!」
「あっ! はい! 分かりやした! お嬢! 直ちに!」
イサクは頭にかぶる紙袋の中から何やらいろいろと取り出し始めた。
おいおい、なんでそんなところに衣装やチェキが入っているのよ?
……紙袋の中はドラえもんの四次元ポケットかよ!
物陰でそんな二人が何か企んでいるとも知らないで、荷馬車の上ではビン子が身を乗り出してベッツを制止しようとしていた。
「ベッツ! やめなよ!」
ベッツの動きが一瞬止まる。
「ビン子、こんな奴といて楽しいか? 俺と一緒に来いよ!」
「いやよ! なんであんたなんかと!」
――チッ! そんなにタカトの事がいいのかよ!
ベッツが舌打つ。
ついに荷台に登ったベッツの手がタカト襟首をつかみあげた。
――こんな奴のどこがいいんだ! 俺の方が何倍もましだ!
ベッツによって力任せに掴み上げられたシャツが、タカトの首をグイグイとしめあげていく。
先ほどからどぎまぎするタカトの目がくるくると泳ぎはじめていた。
だがその時、タカトの目になんだか分からないが、やる気の炎が浮かんできたのだ。
うぉぉぉぉっぉ!
俺はここで負けるわけにはいかんのだ!
今日の俺は、いつもの俺ではない!
そう、アイナちゃんのくい込み写真集が俺の帰りを待っているだ!
ベッツごときに俺の硬いイチモツ! 違った! 固い志は砕くことはできん!
俺は退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!
覚悟しろベッツ!
と言うことで、タカトが大きく腕を振り上げた!
そこからの……
「ヨークのに――――ちゃ――――ん! 積荷強盗だ!」
目の前をゆくヨークに大声で助けを求めたではないか。
もう、恥も外聞も関係なく、一心不乱に助けを求め続けていた。
ある意味、なんか格好悪い……
――アホか! 俺がベッツに勝てるわけないだろうが! 頭を使え! 頭を!
まさに虎の威を借る狐。いや、神民兵の威を借るタカトである。
――上等じゃ!
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