第43話 緑髪の公女(3)

 シ――――ン

 突然のテンションに誰もついていけなかった。

 まぁ、当然、ここは高等部ではなくて中等部。

 そう、高校生ではなくて中学生なのだ!

 教壇の前で立つコウスケとローバンも同じくポカーンと口を開けて、一人叫び声をあげるスグルを見つめるのがやっとだった。


 スグル先生は少々つまらなそうな顔をしながら、そんな二人を睨み付けた。

「二人ともノリが悪いなぁ!」


 ――ノリが悪いって……そんないきなり……

 ということで、コウスケがとりあえず質問してみた。

「そもそもニューヨークってどこですか?」


「知らない?」

 嬉しそうに尋ね直すスグル。

 まぁ、ココは聖人世界。当然、ニューヨークなどという都市は存在しないのである。ということで、コウスケの答えは当然、

「知らないです……」


 予想通り。

 そんな答えをウンウンと嬉しそうにうなずきながら聴くスグルは、いきなり腰をひねるとともに右ひじを背後に引ききった。

「ニューヨーク! それは……」

 それから、かなりの時間を空けて……ためる!


 さらに、ためる!

 まだまだ、ためる!


 そして、満を持して腕をビュンと前へ大きく振りだした。

「せ~ん~と~う~だぁぁぁぁぁぁぁ!」

 教室の中にスグルの大きな声が響いた。


 はぁ?

 戦闘?

 いや、きっと、これは銭湯の事だろう?

 全く意味が分からないコウスケとローバンはさらに呆気にとられていた。

 だが、頭脳明晰なローバン。

 頭の周りにまとわりつく訳の分からぬ霧を振り払うかのように頭をブルブルと振ると、やっとのことで口を開いた。

「スグル先生……もしかして、入浴とニューヨークをかけた、そんな安直な事はないですよね……」


 ギクリ!

 とたんにスグルの顔が引きつった。

 どうやら図星だったようである。


 だが、ココでそれを認めたら教師の沽券にかかわる。

「そ・そんなわけないだろ! そう……いうなれば、あれだ! あれ!」

 目をクルクルと泳がせるスグルは必死に考えていた。

 ピコーン!

 どうやら何か思いついたようである。


「第六の門に神民兵のヨークがいるだろ。知らない?」

 そんなスグルの問いかけにコウスケとローバンは互いの顔を見合わせた。

 ヨークと言えば第六の騎士エメラルダの神民だ。

 トラの魔装騎兵で近接戦が得意なことで有名である。

 ということで、この二人もまた、ヨークの事はそれとなく知っていたのだ。


「それなら知っていますが……」

 コウスケが答えた。

 で、スグルが待ってましたとばかりに手を打った。

 パン!

「ハイ! そう、だからな! ヨークと一緒に銭湯へ行こう!」


 すかさず、ローバンがバカにするかのようにツッコんだ。

「で、ニューはどこに行ったですか? ニューは!」

 ――ちっ! ロバのくせに鋭い!

 スグルの目がプルプルと震えながらローバンを睨み付けていた。

 だが、自分は教師である。

 教師が、こんなことで怒ってはダメだ。

 まして、生徒に論破などされてなんとする!

 というこで、

「あの、あれだ! あれ! 銭湯へ行こうNewサービス! ビキニ洗身サービス!違った、ヨークのビキビキ戦士サービス! 付きだ!」

 ちなみに「銭湯へ行こう」という映画はR-15なので小さいお子ちゃまは気を付けるように!

 もうあきれ顔のローバンは、すでにどうでもよくなったようでボソリとつぶやいた。

「どうせ……それ、ヨークさんの許可とってないでしょ……」


 オほん! では、気を取り直して!

 スグルは再び教壇の上で大きく吠えた。

 「ニューヨークに行きたいかぁ――――――!」

 ぉ‐

 小さく返事をするコウスケとローバン!

 とりあえず、ココは合わせときましょうョ……


 そんなスグルが嬉しそうに一枚のカードをポケットから取り出した。

「ジャジャン! さて、問題です! 騎士の不死性はどこで発揮される?」

「え……そんないきなり難しいことを聞かれても……」

 コウスケは突然の展開にしどろもどろになっていた。


 ピンポーン


 ローバンの被ったシルクハットの上で赤い光がくるくると回っている。

 どうやら、先ほど手渡された筒についたボタンを押すとシルクハットの上からパトランプが飛び出す仕掛けになっているようなのだ。

 って、クロト様は何を作ってんですか! 本当に!


「ハイ! そロバンさん!」

 スグルは勢いよくローバンを指さした。

「騎士は自国内と騎士自身が守護する門外のフィールドにおいて不死性が発揮されます!」

 自信満々の答えに、すかさずスグルが、

「正解!」

 おぉぉぉぉ!

 その声と共に周りを取り巻く生徒たちから歓声が漏れた。


 なすすべもないコウスケを見ながらスグルが楽しそうに笑っていた。

「コウスケ、ちなみに負けたら運動場100周の罰ゲームだぞ!」

「そんなぁ~」

 既に涙目のコウスケ。

 というのも、これは明らかに不利なのだ!

 なんてったって、ローバンは学業だけならトップの成績。それに対してコウスケは万年ビリなのである。

 そんなコウスケが相手とあって、がぜんやる気が出てきたローバン。

 ――こんなのたやすい! たやすい!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る